人権擁護委員と民生委員、あるいは議会同意人事の話

同意20号~41号 人権擁護委員の候補者の推薦

 今回、人権擁護委員として22名の方の推薦が同意案件としてあがっています。いずれの方も再任です。

 ところで、こうした人事にあたって議会の同意を必要とする案件って、他に何があるのでしょうか?

議会同意を必要とする人事案件

 この機会に一覧にしておきましょう。注意書きにあるリンクは、過去にこのブログで紹介した、その職についての説明です。

 このうち人権擁護委員は、「人権擁護委員というおしごと」でまとめたとおり、法務大臣からの委嘱にあたり、議会の意見を聞いて市長が推薦するとのことでしたね。

民生委員の選ばれ方とルーツ

 似たような仕組みで、民生委員というのがありますね。

 せっかくなので、こちらについても調べておきましょう。

 民生委員は、厚生労働大臣からの委嘱です。推薦するのは都道府県知事。ただし、市町村に設置された民生委員推薦会からの推薦に基づき、地方社会福祉審議会の意見を聞いて行うと規定されています。
 市の民生委員推薦会からの推薦が必要なだけで、議会の同意は必要としません

 この民生委員推薦会。
 かつては議会の議員から2名以内など法律に規定がありましたが、簡素化を求める声が強く、現在では「民生委員推薦会は、委員若干人でこれを組織する」とされています。

 また、民生委員に選ばれた人は、自動的に「児童委員」も兼ね、その中から「主任児童委員」が選ばれます。こちらは「児童福祉法」第16条による規定です。

第16条 市町村の区域に児童委員を置く。
2 民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)による民生委員は、児童委員に充てられたものとする。
3 厚生労働大臣は、児童委員のうちから、主任児童委員を指名する。
4 前項の規定による厚生労働大臣の指名は、民生委員法第五条の規定による推薦によつて行う。

 ただし現実的には、主任児童委員は主任児童委員として別途地域と相談して選出されているようですけれども(少なくとも我が地域では)。

 なお、民生委員員のルーツは、「民生委員制度の現状及び今後の課題」によれば、1917年に岡山県に誕生した「済世顧問制度」を始まりとし、その後「方面委員制度」として全国の自治体に拡大、1936年「方面委員令」で全国統一の制度となったそうです(「方面」とは「地域」のこと)。
 生活困窮者の救護や自立支援を担当する名誉職だったとのこと。

 戦後1946年に「民生委員令」が交付され、現在の形になります。低所得者だけではなく、児童から高齢者まで幅広い相談に応じることから、「国民の生活、生計」を意味する「民生」という名前が付けられたとのこと。
 この時、委嘱者もそれまでの都道府県知事から厚生大臣に変更されました。

 民生委員が児童委員も兼ねるようになったのは、1947年からで、戦後、窮乏していた子どもたちの救済を目的としてのことでした。
 また、民生委員が「名誉職」との規定が削除されたのは、2000年の改正のことです。

人権擁護委員と他の委員との性格の違い

 総務省のサイトに「行政相談委員・民生委員・人権擁護委員・保護司制度の基本部分比較表」っていうのがあったので、ポイントをまとめておきます。

  • 行政相談委員
    根拠法は「行政相談員法」。法務大臣が委嘱。推薦手続きは規定されていません。公務員として位置付けない民間人。無報酬。国の業務に関する苦情等を取り次ぎます。任期は2年以内、全国で約5,000人。
  • 人権擁護委員
    根拠法は「人権擁護委員法」。法務大臣が委嘱。市長が議会の意見を聞いて候補者を推薦。公務員として位置付けない民間人。無報酬。人権擁護が仕事です。任期は3年、全国で1万4,000人。
  • 保護司
    根拠法は「保護司法」。法務大臣が委嘱。推薦手続きは規定されていません。非常勤の国家公務員扱い。無報酬。犯罪をした者の更生などが仕事。任期は2年、全国で4万9,000人。
  • 民生委員
    根拠法は「民生委員法」。厚生労働大臣が委嘱。都道府県知事の推薦に基づく。詳細は上述の通りです。特別職の地方公務員。無報酬。生活者支援に関わる幅広い業務を担当されています。任期は3年で全国で22万7,000人。

議会同意の目的は?

 人権擁護委員についてのみ、議会の同意を必要とするのはなぜでしょうか?

 推測するほかありませんが、戦後制定された日本国憲法を受けて整えられた制度であるところがヒントになるかもしれません。

 というのは、日本国憲法でもっとも重要なのは、「基本的人権の尊重」です。戦後の混乱期においては特別公務員による人権侵犯事件が代表的だったといいます。

 特別公務員という言葉が分かりにくいですが、「特別公務員暴行陵虐罪」では裁判官、検察官、警察官、刑務官などを対象としています。
 いわば「国家権力」ですね。

 国家権力に踏みにじられない人権擁護という観点から、国民の代表である議会の意見を重視して人選することにしたのかもしれませんね。

 法務省のサイトによると、現在でも人権相談の年間取扱件数は20万件を超えるとか。ネット環境など時代の変化の中で、人権を大切にする心は、今後も引き続きみんなで守り育みたいものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください