子どもの権利に責任が伴う?

 丹波市議会では現在、「こどもの権利に関する理念条例調査研究特別委員会」を設置し、子どもの権利を明記した条例の制定に関する調査を進めています。

 そのきっかけとなったのが、丹波市の子育て理念を考えようとした議員有志の集まり。その中で「子どもの自己肯定感」を高めることがテーマとして挙がりました(自己肯定感をめぐっての考察は「『自己肯定感』はいつから使われ始めたか」を参照)。

 議論を進める中で気づきを得たのが、自己肯定感を語るときに、「子どもの権利」が浮かび上がってくることでした。

子どもの権利とは何か?

 「子どもの権利」って何でしょうか?

 源流は1948年「世界人権宣言」です。その後1959年に「児童の権利宣言」がなされ、それから20年後の「国際児童年」に「子どもの権利条約」に向けた作業が始まります。
 そして1989年「子どもの権利条約」が国連総会で採択されました。

 中身についてはユニセフの「子どもの権利条約」が分かりやすいので、そちらから要点を引用します。

 子どもの権利は大きく分けて4つあります。

  1. 生きる権利
    住む場所や食べ物、医療などが整い、命が守られること。
  2. 育つ権利
    勉強したり遊んだり、自らの能力を伸ばして成長できること。
  3. 守られる権利
    暴力や搾取、有害な労働などから守られること。
  4. 参加する権利
    自由に意見を表明したり、団体を作ったりできること。

 これまで委員会で議論してきた中では、このうち現代の丹波市において特に力を入れるべきなのは「参加する権利」ではないかということ。

 みなさんも振り返ってみてください。

 地域の会議や学校の運営に関する会議に、子どもを加えていたか?
 日常の子育てにおいて、「あなたはどうしたい?」と尋ねて待つことができていたか?

 日本での大人と子どもの関係は、どちらかというと「子どもを守る」という視点からとらえられている気がします。
 そのため、子どもを一人の人格として認め、社会に参加する機会を与えることが十分できていなかったのではないか。

 もちろん、貧困世帯の問題であったり、不登校の問題であったり、家庭内暴力の問題であったり、それぞれ「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」に関連する課題が無いわけではありません。
 ただ、それらが現代社会の問題として意識されている一方で、「参加する権利」はまだこれからの取組課題であるように思います。

国等における子どもの権利の扱い

 日本政府は、1994年に国連の「子どもの権利条約」を批准しました。

 その後兵庫県川西市による「子どもの人権オンブズパーソン条例」(1998年)、大阪府箕面市「子ども条例」(1999年)、神奈川県川崎市「子どもの権利に関する条例」(2000年)がそれぞれ制定されるなど、自治体での動きが先立ちました。

 子どもの権利条約総合研究所による「子どもにやさしいまち」調査によると、2023年5月現在、64自治体が、子どもの権利に関する条例を制定しています。

 一方、国では、「子どもの権利条約」の批准以降、「児童虐待の防止等に関する法律(2000年)」「子どもの貧困対策推進法(2014年)」など、個別の権利に関わる法律は施行されてきましたが、子どもの権利を前面にした法律は長くありませんでした。

 そうした中、2016年に児童福祉法が改正され、ようやく子どもの権利が明文化して謳われることになりました。

全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

児童福祉法 第1条

 そして2022年、議員提案による「こども基本法」の成立につながります。

 余談ですが。
 この法律名、急に「こども」とひらがなになっていますが、先立つ「こどもの日」がひらがなだったから、くらいの理由らしいです。

 第1条の目的を引用します。

この法律は、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して、社会全体としてこども施策に取り組むことができるよう、こども施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及びこども施策の基本となる事項を定めるとともに、こども政策推進会議を設置すること等により、こども施策を総合的に推進することを目的とする。

こども基本法 第1条

 続く第2条において、「こども」を年齢ではなく「心身の発達の過程にあるもの」と定義していることも特徴のひとつです。

 また第3条で以下に示す6つの基本理念を示しています。

  1. 全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること。
  2. 全てのこどもについて、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること、その健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること。
  3. 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。
  4. 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。
  5. こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下、これらの者に対してこどもの養育に関し十分な支援を行うとともに、家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保することにより、こどもが心身ともに健やかに育成されるようにすること。
  6. 家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること。

4つの権利と4つの一般原則

 上記で紹介した6つの基本理念。

 そのベースにあるのが、国連が示す「4つの一般原則」です。
 先ほどのユニセフによる「子どもの権利条約」から引用します。

  1. 生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること
    すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。
  2. 子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと
    子どもに関することが行われる時は、「その子どもにとって最もよいこと」を第一に考えます。
  3. 子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること
    子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、大人はその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。
  4. 差別の禁止(差別のないこと
    すべての子どもは、子ども自身や親の人種、性別、意見、障害、経済状況など、どんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。

 こどもには4つの権利がある。そして、この4つの一般原則。

 似ているので混乱しがちですが、一般原則の方は「社会はこうあるべきという原則」と理解しておけば、分かりやすいと思います。

 子どもには4つの権利が備わっている。
 それを大切にするために、社会は4つの原則に基づいて行動しなくてはならない。

 そのようにとらえておきましょう。

 ですから、こどもまんなか社会を目指す「こども基本法」の基本理念は、この原則がベースになるわけですね。

権利には責任が伴う?

 ところで。

 子どもの権利について議論していると、時に「権利をうたう以上、義務や責任が伴うことを教えるべき」といった論が交わされることがあります。

 これ、けっこうもやっとする議論です。
 どうもその後ろに「自分勝手な子に育つと困る」という発想があるように感じる。

 分かるんですよ。分かるんですが、そもそも子どもの権利って、基本的人権と考えてよいですよね。もって生まれた権利ということです。

 なので、たとえば生きるという基本的な権利に義務や責任って伴わないのと同様、子どもの権利においても、ただただ、認めていくものなのです。

 ただし。

 日本国憲法で国民の権利について述べている第3章。その条文はしっかり読み込んでおく必要は感じます。

 以下に引用しますので、権利、責任といった用語に注目しつつ、じっくりお目通しください。

第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

日本国憲法

 いかがですか?

 ぼくはこうして憲法を読み返すたび、現代社会において繰り返される議論をこの時点で先取りしており、非常に考え抜かれたものと感じ入ります。

 今回でいえば特に第12条。

 自由と公共、権利と責任の関係という非常に現代的でもある課題について、しっかり定義づけています。

 国民は、自由及び権利を、公共の福祉のために利用する責任を負う。

 そういう視点からは、子どもたちに対するシチズンシップ教育の重要性ということも、考えていく必要があるということですね。

 このように理解を進めると、こども基本法が施行された今年から、高校で「公共」科目が必修になったということが、意味深く感じられます。

こども家庭庁の設置に伴う条例改正

 さて。6月議会では「こども家庭庁」の設置に伴い、以下の条例改正が提案されました。

議案47号 こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係条例の整理

 この4月から、「こども家庭庁設置法」が施行されました。
 これに伴い、それまで厚生労働省所管だった業務がこども家庭庁に移されたりしています。こども家庭庁は内閣府の所管なので、主務大臣は厚生労働大臣から内閣総理大臣に代わります。

 ということで、丹波市の条例で「厚生労働大臣が定める指針」等とあるところは「内閣総理大臣が定める指針」等に変更しなくてはなりません。

 また、関連法律も改正されて、条ずれが起きている部分もあるので、丹波市の条例で引用している法律の条文番号についても、修正します。
 こうした、事務的な改正です。

子どもの参加を規定できていればなぁ

 この条例、一本で5本の条例を一括改正しています。

 その中に、「丹波市子ども・子育て会議設置条例」が含まれています。

 個人的には、どうせこの条例を改正するなら、もう少しよく検討してほしかったなぁと思います。
 というのは、この会議の委員の規定(第3条)が、次のようになっていて。

委員は、次に掲げる者のうちから、市長が委嘱する。
(1) 子どもの保護者
(2) 子ども・子育て支援に関する事業に従事する者
(3) 子ども・子育て支援に関し識見を有する者
(4) 公募による市民
(5) 教育・保育施設関係者
(6) その他市長が必要と認める者

丹波市子ども・子育て会議設置条例第3条2項

 当事者である「子ども」というのが明文的に盛り込まれていないんですね。

 ところが、先述したように「参加する権利」の重要性に焦点が当たる今、できれば委員に子ども・若者を含む項を追加してほしかったなと。

 本会議で質疑しましたが、ま、そこまで気持ちが至らなかったというのが正直なところみたい。
 あらためて条例改正するのは間に合わなさそうなので、当面は「公募による市民」や「その他市長が必要と認める者」で、積極的に若者を登用いただくことを期待します。

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