この9月議会ではなんだかもやっとする案件が2つ。
ひとつは、令和4年度に市長と副市長が執務用に購入した226,600円の椅子の話。もう一つは、市長公約「新庁舎凍結」に関連し、この度「庁舎整備事業基金」への積み立てを再開したという話。
普通の感覚からすると高い椅子
226,600円の椅子。
決算資料を調べていて気になった項目です。
率直に言って、高いなぁと思うのですね。
ぼくも書く仕事がメインだったので、これまでエルゴノミクスタイプ(人工工学で考えられた)の椅子を買いたいなぁとか検討したことがあります。
でも、高いから買えないできました。
10万円ほどの価格だったので。
ところが今回。
1脚につき22万円でしょう。いったいどんな椅子やねんと。
選定基準を尋ねたところ、背もたれがあって、リクライニングで、革製でと(実際見た感じもそんなものでした)。
従来品と同等のもので選びましたと言うのですね。
まぁねぇ、「シャワー室設置の次は家具購入…市川市の村越祐民市長が約1000万円かけて市長室の家具を新調」と話題になった市長の場合、机と椅子で約180万円。
それと比べると安いし、当局からの答弁では「他の自治体では50万円という例もありました」と、他市町比較もされた様子。
なので、それ以上は突っ込みませんでしたが、なんだかモヤルのは、「従来品と同等」という選定基準かな。
22万円という時点でいったん立ち止まる市民感覚があっていいのではないかと。
経費削減や利便性を検討するなどせず、右から左へ事務執行した感じですね。
ちなみに職員さんの椅子は1万円しない中から選ばれているようです。
庁舎整備事業基金に積み立てます!
さて、もう一つは、庁舎整備事業基金に1億円を積み立てます、という補正予算。
積み立て自体は、ぼくは評価しています。もともと将来負担を軽減するために積み立てを開始したものであり、それに沿って将来への備えはしておくべきと考えています。
昨年度の決算審査意見で、議会からもその旨の意見を付しました。
なので、積み立ては良いのですが。
実は2年半前の時点では、「新庁舎建設を凍結するので、基金への積立もしない」と明言されていたのです。
それを今回、積み立てることにした。
であれば、方針がなぜ変わったのかを示し、政策変更した経緯を説明するのが、市民への説明責任であろうと思います。
委員会質疑でそのように勧めたのですが、「政策変更はしておらず、決算で余裕があったから、議会が言われたとおり積み立てたまで」との答弁で、頑として受け付けない姿勢。
もやもやっ、です。
勘違いの無いように明記しておきますが、現市政は、「建設しない」と決めたわけではありません。
任期中は議論を含めて何も進めない。それが「新庁舎凍結」の意味。
なので、自らの任期後に議論してみたら、やはり機能集約が欠かせず、新築なり増築なりが必要とされる可能性もある。
とすると、将来負担を軽減するための積み立てだけは続けなくてはならない。
そのような答弁もありました。
それが分かっているなら、「決算で余裕があるなら」ではなく、凍結しても積み立ては必要でした、これまでの考え方は間違っており、政策変更すると言えばいい。
どうするとも決めず、議論もしない、「問題先送り」に、根本理念に触れないその場限り対応。
そうした政治姿勢が明らかになるのが困るので、説明を避けているのではないか。あるいは自らの矛盾に気付いたけれど間違いを認めたくないのではないか。
説明責任こそ、政治の市民に対する誠意の基本と思うのですが。
庁舎整備基金とは何?
庁舎整備事業基金について説明しておきましょう。
条例で利用目的が明記されている「特定目的基金」のひとつです。
第1条 丹波市の庁舎整備事業に係る経費の財源に充てるため、丹波市庁舎整備事業基金を設置する。
丹波市庁舎整備事業基金条例
一般に新庁舎という場合、新ピカの大きな庁舎を建てるイメージですが、この1条にある「庁舎整備事業」はそれに限りません。現庁舎に増築し、既存部分は大改修をかけるといった方法も含まれます。
ポイントは、建物ではなく、機能集約です。機能集約というのは、現在複数の庁舎に分かれている市役所の機能を、1カ所に集約すること。
現在の丹波市役所は、氷上の本庁舎に企画や環境や福祉系の部署が入っており、春日分庁舎に経済や農業や土木、水道などの部署が入っています。加えるなら、教育委員会は山南庁舎に入っていますね。
職員の移動コストに年間約1億円かかっているという試算が出たこともありました。これでは非効率だから、集約してスリムにしようというのが「機能集約」です。
で、現在の本庁舎(氷上)が、耐用年数50年を2028年に迎えるため、その時点までに機能集約を図る必要があるというのが、これまでの合意でした。
それを前提に、機能集約に伴う建設費(改修費含む)を約60億円と見込み、2028年までにその半額を基金に積み立てましょう、というのが「庁舎整備事業基金」です。
平成24年度(2012年度)から積み立てを開始し、令和4年度末では22億円まで積み立てられていました。今回の補正で1億円積み増し、23億円となります。
あと5年で当初の目標額30億円まで積み立てるなら、毎年1億円では足りない計算です。
なお、庁舎のあり方としては、現在のように機能分散したまま、本庁舎や春日庁舎を大規模改修し、耐用年数を延ばし(長寿命化)、ネットワーク的に使い続けるという方法もあります。
ただし、「機能集約がポイント」と説明したように、そうした場合の改修費用には、この「庁舎整備事業基金」は使えません。
条文ではそこまで細かくは規定されていませんが、機能集約を伴う庁舎整備に使うというのが、基金設立時の本会議における質疑で示された当局の見解で、現在もその見解は変わっていないそうです。
蛇足ですが、市長の選挙公約にあった「5万円配ります」は、この基金を取り崩して市民の皆さんに配る計画でした。
提案さえされませんでしたね。よほど無茶な話だったってことかと。
新庁舎建設と合併特例債
さて。
多くの合併自治体では、「合併特例債」を使って新庁舎を建設します。
というのは、庁舎の建設には、地方交付税を充当できないからです。
「地方債の発行条件と充当率及び交付税措置率」で紹介したように、一般の市債は、その返済額の何割かを国が補てんしてくれる制度があります。
しかし、庁舎の場合は、すべて市の独自財源で賄う必要があります。
ただし、「合併特例債」に関しては、統合庁舎に利用することができ、後年国から交付税措置がなされる。
「地方債と充当率そして交付税措置-将来負担を少なくする工夫-」でも紹介しましたが、再度整理しておきましょう。
合併特例債制度は、もともと合併後10年間という期限が設けられていました。その後、東日本大震災の影響などを考慮して期限が延長され、合併後20年まで発行できることになっています。
対象事業は合併に伴うものに限られます。旧町域をつなぐ道路とか統合する公共施設とか、格差を埋める公共施設、水道や病院などの地方公営企業、あるいは一体感を生むイベントなど。
丹波市の場合、発行上限額は427億円です。合併後20年なので、令和6年度(2024年度)が期限。
実は合併特例債の一部は特例的に、事業ではなく基金に積み立てることができます。
丹波市では38億円を「地域振興基金」に積み立てました(その後病院等のために取り崩し、その部分の残額は11億円~12億円程度となっています)ので、残りは389億円。
このうち、令和3年度末で366億円まで発行しました。残り23億円も、使い切る予定です。もともと、庁舎建設には充当しない計画なのですね。
だからこそ、庁舎整備事業基金が重要なのです。独自財源で建設する必要があるから、財政に余裕がある間に基金に積み立て、将来負担を少なくする必要がある。
庁舎整備事業に関するこれまでの経緯
丹波市役所の庁舎については、当然、合併にあたって協議されています。
丹波市の場合、6町の「対等合併」が謳われましたので、どこに庁舎を置くかは、いっそう難しいテーマだったものと思われます。
氷上郡合併協議会では、平成15年(2003年)8月に、「本庁舎は現氷上庁舎とし、新庁舎建設は新市において庁舎建設委員会を設けて取り組む」との合意が図られました。
以降、丹波市における流れを経年で紹介しておきます。
- 丹波市庁舎検討委員会(平成21年6月~12月)
市民の代表で構成されていました。「市庁舎のあり方に関する提言」を市に提出。 - 庁舎統合に係る調査特別委員会(平成22年9月~平成23年6月)
市議会に設置された特別委員会です。「庁舎統合についての調査結果の報告」をまとめました。 - 庁舎整理統合プロジェクトチーム(平成22年2月~平成23年8月)
丹波市庁舎検討委員会の提言を受けて庁内に設置されたもので、「丹波市庁舎等整理統合基本計画」をまとめました。 - 丹波市庁舎整備事業基金条例の制定(平成24年3月)
詳細は前述した通りです。 - 新庁舎整備構想の考え方に関するタウンミーティング(平成29年11月)
市の全体像を明確にするために開催されました。医療機関の統合が成ったことから、次の大きな課題として、いよいよ庁舎統合についての具体的な検討が始まりました。庁舎用地としては、6つの候補地が示されていました。 - 丹波市未来都市創造審議会(平成30年4月~令和元年8月)
庁舎の位置を決定する前提として、未来の丹波市のまちの姿と暮らしの姿、新しい都市構造のあり方を、審議会で検討されました。 - 丹波市まちづくりビジョンの策定(令和元年11月)
丹波市未来都市創造審議会からの答申を受けて策定されました。中心部における行政機能(統合庁舎の必要性)と3つの区域における行政機能(行政窓口機能の重要性)が示されました。 - 丹波市未来創造推進本部(令和2年6月~)
まちづくりビジョンの実現に向けた各種施策の調整及び統合庁舎の整備に向けて、庁舎に求める機能の検討が始まりました。(現在は「凍結」) - 統合庁舎整備に向けたスケジュール(令和2年9月)
令和11年度を、統合庁舎使用開始の目標としたスケジュールが市議会に示されました。 - 新庁舎建設の凍結について(令和3年2月)
前年12月就任の新市長の方針を受け、次の3点の方針が市議会に示されました。
①任期中に新庁舎建設は進めないこと(なので議論もしない)
②そのために本庁舎及び春日庁舎の大規模改修工事を実施すること
③市長任期中は庁舎整備事業基金の積み増しはしないこと - 議会における決算審査意見で基金運用について触れる(令和4年9月)
令和3年度決算で庁舎整備事業基金への積み立てが無かったことから、議会からの審査意見に「将来における財政負担を考慮した基金運用を検討されたい」と触れました。 - 12.庁舎整備事業基金への積み立て再開(令和5年9月)
詳細は上述の通りです。
議論を始めなくては前に進まない
最後に、「議論も凍結」という問題先送りの現状への危機感を表明しておきたいと思います。
庁舎については、議論して未来の市役所像を描く価値がある大きなテーマかと思います。
兵庫県は、新しい知事のもと県庁の建設計画が白紙に戻されましたが、テレワークを進めて大規模庁舎が無くてもよい業務組織にしようと努力が始まっています(「兵庫県庁舎「三つ子」並ぶ風景、一変へ 解体1、2号館の跡地は緑地化 知事「新庁舎の必要性は今後検討」」)。
テレワークを前提とした庁舎のあり方は、今の時代において、十分検討する価値があります。
仮に分庁舎方式で進めるとすれば、ネットワーク型に相応しいオンライン会議等のICT環境をどう整えるか、研究する必要があります。
もしかするとメタバースも一時期の流行にとどまらず、活用場面がありそうです。
仮にネットワーク型の庁舎にするなら、「庁舎整備事業基金」の使い先が無くなるので、条例改正して(あるいは解釈の変更を正式に行って)、分庁舎方式の整備にも使えるようにしなくてはならないでしょう。
一方で、機能集約するメリットもある。
令和4年度時点で、丹波市の職員数は656人です(任期付は含まず)。ちなみに支所には柏原9人、青垣7人、氷上5人、春日13人、山南8人、市島7人が配置されています(支所機能部分の人員)。
機能集約を図ることで、もっと組織をスリム化できそうな気はします。
リアルに庁舎に出勤することに伴う効果もあるでしょう。
単純な話、仮にJRの駅のそばを庁舎とし、出勤にJRを使えば、JRの利用促進にとって大きな効果がありそうです。
建設資金も気になるところ。
このところの物価高・人手不足で建設費は高騰しているようです。60億円が妥当か、あらためて試算する必要があるでしょう。
一方で、建設費を抑える工夫も探りたいところです。
仮に600人ではなく400人程度を想定して庁舎を整備するなら、当初想定の60億円もかからないかもしれません。
そのためには、登庁人数を7割にする必要がある。
ということは、週5日のうち1日半をテレワークに切り替えてもらうことを前提に、勤務体制を今から考えてみる。
そんな挑戦もできそうですね。
他にも、「長井市新庁舎」のように、JRと協力して駅舎と併せて建設している事例もあるし、「貝塚市新庁舎整備事業」のように民間を活用した手法(PFI)を取り入れたところもある。
兵庫県丹波県民局の庁舎もそろそろ建替えとするなら、合同庁舎なんて考え方もある。
実現可能性はともかく、議論さえしない、ということは、こうした未来への可能性に目をつぶっているに等しく、残念なことです。