ポピュリズムではないがポストトゥルース的な何か―丹波市長選をめぐって―

 丹波市長・市議会選挙が終わりました。
 市議2期目を託していただきました。初心にかえり次の4年に向かう所存です。

 さて。

 市長選です。今回の市長選挙では、現職を抑えて新人候補が当選しました。出口調査結果を伝える新聞報道によれば、新人候補が訴える次の4つの公約が期待されてのこと。

  • 100億円かかる新庁舎は要らない
  • コロナ対策で市民全員に5万円支給
  • 市指定ゴミ袋を半額に
  • 3人目出産に100万円支給

 このうち「5万円支給」については、テレビショーや全国紙の社説等で紹介されました。
 前市長4年間の「シティ・プロモーション」ではこれほど全国区の話題になった事業はありませんでした。皮肉と言えば皮肉なことです。

 余談ですが、新人候補は前述の公約以外の政策はほぼ示されていません。あえていえば「帰って来いよと言えるまち」にしたいと言われていることぐらいでしょうか。
 公約問題が片付いたら、有能な職員さんが提案される前向きな施策をどんどん取り入れ、4年後には「良い市長だったなぁ」と言われているかもしれません。

 一方で、公約をすべてそのまま実行されたら、確かに「帰って来いよ(借金返しに)」と言うしかない状況になっているかもと心配したり。

 いや、公約の中身の話は止めましょう。この原稿を書いている時点では、そもそも提案できるかどうかさえ分かりません。

 ここでは選挙戦を通して気になったことを書き留めておきます。

ポピュリズム選挙とは思わないけれども

 今回の選挙戦では、ある種の「盛り上がり」があったように感じている方が多いようです。投票率は下がりましたので(前回68.05%、今回65.35%)、本当に盛り上がったかどうかは確かめられません。

 公約そのものが争点になるという点で分かりやすかったことが、「盛り上がり感」につながったのかもしれません。
 実際、選挙が終わって数週間経つ今でも、巷では「5万円」の話題が盛り上がっています。そういう意味では、市政を井戸端に近づけてくれたと言えますね。
 公約が語られること自体は、選挙のあるべき姿かもしれません。

 一方で、今回の選挙を「ポピュリズム」と感じられた方もいらしたようです。
 公約が争点になったといっても、政策面より感情面で注目された状況であったことが、ポピュリズムという感想を抱かせるのでしょうね。

 ただ、「テンションがあがるかどうかで選んだらポピュリズム? ポピュリズムの本質と陥らないための心がけを時代背景もふまえて徹底解説!」で紹介したように、ぼくはポピュリズムとは単に熱狂に流される現象ではなく、分断を生み、それを利用して権力者が人気を勝ち取る方法という定義に同意します。
 したがって、今回の市長選がポピュリズムに流されたとは思いません。分断に立脚したとはとらえていませんので。

 むしろ気になるのは、ポストトゥルース的な戦術がとられていたことでした。

政策論ではなく感情論?

 「ポストゥルース」という概念は、ここ数年よく口にされるようになりました。ポストというのは、何かの次、何かの後といった意味です。
 ポストトゥルース=真実の後。もう少し具体的に表現すれば、客観的な事実よりも感情へのアピールが重視される状況を言います。

 イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生などがその典型でした。「移民が生活を脅かしている」「コロナを恐れることは無い」など、根拠も示さずに訴え、「そうだそうだ」と盛り上がっていく。

 余談になりますが、当選後のインタビューで当選者は、自分の公約に反対するなら「議会を解散」と述べたとあり、話題になっていました。
 実際には市長が議会を勝手に解散するなんてできません。市長への不信任案を議会が可決したとき、それに対する手段として解散の選択肢があるだけです。

 ですので報道された発言と実際の発言とは違うのでしょうけれども、こうした煽情的な表現が注目されるところも、なんだかポストトゥルース的ですね。

 それはともかく。

 どんなところが「真実」から離れているのか。

根拠のないまま提示された公約

 たとえば「100億円もかかる新庁舎は要らない」です。

 そりゃね、その通りでしょう。100億円も庁舎にかけるなんて、丹波市の財政力からすれば現実的でありません。
 でも、100億円って誰が言いました?

 候補者本人の試算です。

 これまで丹波市としておよそ議会にも報告される中で進んできたのは、「庁舎建設費の半分までは基金を積み立てる」という話です。
 そして実際、合併以来20年間、およそ24億円(2020年度末見込)まで積み立ててきた。

 ちなみに近隣でいえば三田市や西脇市が最近新庁舎を建設、あるいは建設中ですが、建設費はおよそ50~60億円です。
 ご本人の試算の根拠が示されていないので、数字そのものを疑うことはしません。

 ただ、これだけは言えます。
 100億円という数字を加えて「新庁舎不要」と言ってしまったために、本当の民意が見えなくなってしまいました

 民意は本当に「新庁舎不要」なのでしょうか。
 これまで20年間想定されてきた財政計画の通り進むなら、それでも新庁舎に反対されたのでしょうか?
 100億円という感情に訴える数字さえ出されなければ、正しくはかれたのですが。

財源を明示しない5万円給付

 5万円の給付も同じことが言えます。

 そもそも今、みんなに対して5万円給付が必要ですか? その根拠は何でしょうか?

 コロナ禍で苦しむ方がいらっしゃるのは事実です。しかし、それが全市民かどうか。本当に苦しんでいらっしゃる方にこそ配布すべきかもしれません。

 5万円給付がセンセーショナルなだけに、「コロナが市民に与えている影響」という重要な論点が見落とされ、「5万円くれる」といったバラマキ的なとらえ方を誘ってしまいました。

 加えて。財源として庁舎建設基金を取り崩すと言いますが、この基金は前述のように目的をもって貯めてきました。
 仮に新庁舎を建てないとしても、現在の本庁舎は2029年に耐用年数を過ぎますから、使い続けるために長寿命化工事(大規模な修繕)を必要とします。
 分庁舎をつなぐネットワーク化投資も必要でしょう。庁舎に関して、いずれは大きな投資が必要なのです。

 だいたい、わざわざ目的のある基金を崩すくらいなら、まずは財政調整基金を取り崩すのが筋です。そちらは使途の自由度の高い基金ですから(2021年度末で残高約55億円)。

 そう整理していくと、1人5万円、人口6万5000人として32億を超える財源をどう確保するか。「新庁舎要らない、基金を取り崩す」というのは、直感的で分かりやすいだけに、本質を見えなくする言説です。

 ああ、ポストトゥルース。

議会における議論は根拠に基づいて

 繰り返しになりますが、公約そのものの是非については、ここでは評価しません。

 公約の立て方、訴え方がポストトゥルース的だった、おそらくはそのために、なんとなくポピュリズムを想起させてしまったという点を指摘するにとどめます。

 そして。

 議会の役割は、根拠をもって議論を交わし、さまざまな観点から監視し、少しでも市民の福祉向上につながると思える合意点を探ることです。

 議会までポストトゥルース的世界に巻き込まれないように。冷静に意見し、決断してまいります。

“ポピュリズムではないがポストトゥルース的な何か―丹波市長選をめぐって―” への3件のコメント

  1. まさに当然のことを言っておられると思います。市長には財政部と連携をとり、少しでも早い予算案を提出してもらいたいものです。

  2. ありがとうございます。1月中旬、どのような案を提示されるか。待ちたいと思います。

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