地方債と充当率そして交付税措置-将来負担を少なくする工夫-

 12月議会に提出されている補正予算に関連して、補足的な話をもう少し。

 地方自治体の借金である「地方債」ってよく聞きますね。いわば自治体の借金で、財政の健全性と大きく関係する項目です。そのあたりの話を。

財政の健全性を示す指標

 財政の健全化をはかる指標のうち代表的なのが「実質公債費率」。今後見込まれる地方債の返済額(公債費)の大きさを財政規模に対する割合で表したものです。
 この比率が18%以上になると地方債の発行に許可が必要となり、25%以上になると制限がかかったりするようになります。
 家計に例えれば、年間300万円でやりくりしている世帯なら、返済すべき金額が毎年54万円(18%)を超えるとヤバいよっていうこと(丹波市は6.3%)。

 同じく財政の健全化をはかる指標で「将来負担比率」というのもあります。こちらは、借金総額(返済にあてられる資金を控除する)の財政規模に対する割合で表します。
 早期健全化比率は350%以上とされています。
 これも家計に例えれば、年間300万円でやりくりしている世帯で、貯金が500万円あるとして、借金の額が1,550万円以上あるとヤバいよという話です(丹波市は借金より貯金の方が多い)。
 借金総額から貯金分を引いた額(1,550万円-500万円=1,050万円)が、年間家計の350%(300万円×3.5=1,050万円)を超えるなよと。

 えっと、つまり。

 年間の家計総額(財政規模)に対して、実質公債費率では年ごとの返済額の比率を問題にし、将来負担比率ではその時点における負債総額を問題にしているということですね。
企業会計(複式簿記)で言えば、前者はPL(損益)に、後者はBS(貸借)に似ている感じかな。

 これら健全化の指標に大きく関係してくるのが、地方自治体の借金である「地方債」です。

地方債の実際を補正予算で見てみよう

 では、この12月議会に提案されている補正予算書で関連項目をひとつ例示として見ておきましょう。

・学校施設環境改善交付金 3,118万円(国庫補助)
・教育債(中学校管理事業) 1億2,630万円(市債)

 中学校5校の特別教室に空調を設置します。大きな事業が年度途中に追加になりますが、国の補正予算が決まったという事情でしょう。

 ここにあげたのは収入(合計1億5,748万円)です。歳出ではこれに対する支出として、1億9,954万円が計上されています。歳入にない差額の4,206万円は一般財源(自分の財源)からの支出ということになります。

 箇条書きで整理しておきましょう。

  • 支出
    事業費 1億9,954万円
  • 収入
    国庫補助 3,118万円
    自己資金(一般財源) 4,206万円
    教育債(市債) 1億2,630万円

 この教育債というのが、いわゆる地方債です。

 地方債を起債するとき、事業費の何割まで可能かというのが決まっています。75%とか90%とかね。総務省から充当率として示されているのですが、それに従っています。

 この事業の場合はどうでしょうか。
 事業費1億9,954万円-国庫補助3,118万円=1億6,836万円、その75%で1億2,630万円。これだけは起債して(借金して)いいよと。そういうことです。

 その額が教育債として補正予算にあがっていますね。この1億2,630万円は、将来返済していかなくてはなりません。

財政健全化のために

 地方債として起債したお金は返さなくてはいけない(元利償還金といいます)と書きました。

 これに対して、交付税措置というのがあります。元利償還金の何割か(事業によって30%とか50%とか違いがあります)を国からいただける制度です。借金返済の一部を国が肩代わりしてくれるんですね。

 ただしこの制度は、地方財政のモラルハザードを防ぐ観点から総務省として減らしていく方向にあるとのこと(総務省資料参照)。
 現在は以下の3つの分野に限って交付税措置をしているそうです。

  • 災害復旧(100~95%)や防災対策(75~30%)
  • 整備新幹線等
  • 辺地対策(100~80%)や公共施設等適正管理(90~50%)

 整理しましょう。

 仮に市が100円の事業を行うとします。これに対して国庫補助率30%、起債の充当率80%、交付税措置率50%だったとしましょう。
 市の負担額はいくらになるでしょうか。

【事業費100円】

  • 国庫補助金 30円(補助率30%)
  • 市債 (100‐補助金30)×充当率80%=56円
    ※一般財源必要額100‐30‐56=14円(A)
  • 交付税措置 56×措置率50%=28円
    ※市の返済額 56‐28=28円(B)
  • 【市の財政負担】
    (A) 14+(B)28=42円(100‐補助金30‐交付税28)

 というわけで、市の負担は42円ということになりますね。

 以上から分かるように、事業予算を組むにあたっては、次の条件を満たす制度を探してくるのが、将来の財政負担を軽くするコツということになります。

  1. 補助率の高いもの:国がたくさん補助してくれる
  2. 起債充当率の高いもの:今の支出じゃなく借金で賄える
  3. 交付税措置が有利なもの:借金を肩代わりしてくれる

 よく話題になる「合併特例債」の場合、充当率95%、交付税措置率70%ですから、やはりかなりお得なわけです。

 合併特例債制度、もともと合併後10年間という期限が設けられていました。震災の影響などを考慮して期限が延長され、合併後20年まで発行できることになっています。
 対象事業は合併に伴うものに限られます。旧町域をつなぐ道路とか統合する公共施設とか、格差を埋める公共施設、水道や病院などの地方公営企業、あるいは一体感を生むイベントなど。

 丹波市の場合、発行上限額は427億円で、令和2年度末で398億まで発行予定です。合併20周年まであと4年、ほぼ使い切ることになりますね。

 参考までですが、庁舎は交付税措置の対象になりません。100%自前で建てる必要があります。しかし合併に伴って統合庁舎を建てるなら合併特例債の対象になる。
 そんなわけで、合併後10年以内(その後20年以内)に新庁舎を建てる自治体が多いのです。

丹波市の借金残高は一人60万円

 地方債の話をもう少し。

 現在の丹波市の地方債残高は371億円あまりです。人口65,000として一人当たり約60万円ですね。
 令和元年度は40億円をあらたに借り(地方債を発行)、45億円を返し(償還)ました。

 どういうところから借りるか(どこが市債を引き受けてくれるか)っていうと、「財政融資資金(133億)」「地方公共団体金融機構(22億)」「市中銀行(98億)」「その他の金融機関(97億)」など。カッコ内はおよその残高です。

 利率は、市中銀行やその他の金融機関は2.0%~0.5%以下と低いです。高いものは先に「繰り上げ償還」してきたという事情もあります。繰り上げ償還というのは、財政に余裕があるうちに、先に返しておこうというもの。

 一方で公共的な仕組みである「財政融資資金」や「地方公共団体金融機構」はそれより高い利率が残っていたりします。通常10年以下が多い民間と比べて長期にわたる契約が可能といった利点がある一方で、繰り上げ償還はできないといった事情があるようです。

丹波市の健全性は?

 丹波市の場合、冒頭でも紹介しましたが、最新の決算では「実質公債費率」6.3%と低く抑えています。

 「実質公債費率」の分子側は、一般会計での元利償還分45億円に、公営企業会計等の元利償還である準元利償還金16億円を足し(合計61億円)、そこから交付税措置が行われる分など51億円を引いた9億円となります。
 一方の分母側は、標準財政規模である212億円から交付税措置などの51億円を引いた161億円ほど。
 そのまま計算すると5%台半ばとなるのですが、3カ年の平均をとることになっており、6.1%ということです。

 ちなみに「標準財政規模」というのは、普通に考えてこのくらいの財源は確保できるよね、という額です。「標準税収入額等(99億)」と「普通交付税(106億)」「臨時財政対策債発行可能額(7億)」の合計です。
 このあたりは一定の基準に添った計算のようですね。実際の丹波市の税収は市民税32億(うち個人分が27億)、固定資産税41億ほか、軽自動車税やたばこ税等をあわせて80億円程度です。また地方交付税は120億円ほどとなっています。

 一方の「将来負担比率」は最新の決算ではマイナス。つまり将来負担しなくてはいけない返済額以上の財源が保たれているということです。

 こちらの分子側は一般財源における371億円の地方債残高に公営企業会計等での債務(215億)、退職手当負担(48億)などを足して637億円。ここから返済に充当できる地域振興基金や公営企業の基金145億円、交付税措置される489億円などを引くとマイナス2億円あまりとなるのです。
 分母は実質公債費率のときと同じ161億円です。
 ちなみに前年は13.8%でした。最新の決算で初めてマイナスとなったわけです。

 このように、この20年間、丹波市の財政は堅実に運営されてきています。
 とはいえ、今後の財政運営は厳しくなっていくことが予想されます。一番きついのは、国勢調査のたびごとに人口が大幅に減少していること。人口は地方交付税算定の基礎になるので、これが減ると単に市民税等の影響だけではなく、交付税の減少も大きいのです。
 引き続き、堅実な財政運営が望まれます。

「地方債と充当率そして交付税措置-将来負担を少なくする工夫-」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 辺地と辺地債の話

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