「市の財産の分類とその設置及び廃止」で、市の財産の分類についてご紹介しました。
財産はまず大きく公有財産(不動産)とそれ以外(物品、債券、基金)に分かれるのでしたね。
少し関連して、先の9月議会であった議論を紹介します。興味深い論点でした。
「動産」の売買と議決の必要性
9月議会に、ICOCAカードを市民に配布するためにJRから購入する契約をしますという議案が上程されました。購入金額が2,000万円以上になるため、「丹波市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」第3条に基づき提案されたものです。
地方自治法第96条第1項第8号の規定により議会の議決に付さなければならない財産の取得又は処分は、予定価格2,000万円以上の不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地については、その面積が1件5,000平方メートル以上のものに係るものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払いとする。
(丹波市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例)
ICOCAをこの条例で言う「動産」と定義してのことですね。この「動産」というのは、先ほどの財産の分類から言えば、「債権」でも「基金」でもない、「物品」にあたります。
ということは電子マネーを「物品」と考えているということかと、議会で議論になったのです。
そもそも物品ってなんだ?
地方自治法に、「物品」が定義されています。
この法律において「物品」とは、普通地方公共団体の所有に属する動産で次の各号に掲げる以外のもの及び普通地方公共団体が使用のために保管する動産(政令で定める動産を除く。)をいう。
(地方自治法第239条)
一 現金(現金に代えて納付される証券を含む。)
二 公有財産に属するもの
三 基金に属するもの
要はここに明記された三つ以外は「物品」と考えると。
市の財産の分類で、「公有財産(不動産)とそれ以外(物品、債券、基金)に分かれる」としたことを思い出してください。
公有財産(不動産)は物品ではない。現金、そして「現金に代えて納付される証券(=債権)」も物品ではない。そして基金も物品ではない。
それ以外が物品と。
電子マネーは債権か物品か?
JRの約款を見てみましょう。
第12条 ICOCA乗車券に使用するICカードの所有権はICOCA乗車券の発売箇所にかかわらず、当社に帰属します。
(ICカード乗車券取扱約款)
興味深いですね。カードという物そのものはJRに所有権があるということです。とすると丹波市が購入するのは「物」自体ではない。
市としてはいわば純粋な電子マネー部分をJRから買い取り、市民に配布するということです。そして民法上ICOCAは「無記名証券」です。
無記名証券であれば、通常は「債権」であり「物品」ではないですよね。
仮に債権となると、先ほど紹介したように議決は必要ありません。
それでも議決を行った理由
こうなってくるとICOCAの購入に議決は不要と思えてきます。
しかし、こうも考えられます。
先ほどの物品でないものの規定で「現金(現金に代えて納付される証券を含む。)」と表現されていましたね。
この「現金に代えて」がくせ者です。
今回のICOCAカードは「現金に代わる」ものか。
市民に配布し、利用してもらうためのものです。
配布してしまったら現金に戻すことはできません。
とすれば、証券ではあっても市にとっては「現金に代えて納付」にあてはまらない。ならば「物品」と考えて良い。
性格を考える必要がありそうだ
結局のところ、それ自体の形態よりも性格によるのでしょう。仮に今回購入したICOCAカードが市民への配布ではなくそのまま市でストックされるなら、債券と同じく議決が必要でなかったと考えて良い気がします。
そういえば提案時の補正予算書で、ICOCAカードは「消耗品費」に分類されていました。電子マネーが「消耗品」というのは違和感がありますが、丹波市の歳出科目一覧では、「消耗品費」に入るものとして、収入印紙や図書券等の金券もあげられていました。
このあたりは会計基準によるのでしょう。
企業でもそうですね。同じ商品券を購入したとして、自社で物を買うのに使えば消耗品費、お得意様に贈れば接待交際費になるだろうし。
「物品」の分類
会計基準といえば、「丹波市財務規則」では、物品について次のように記しています。
第133条 物品(基金に属する動産を含む。以下同じ。)は、その性状により別表第6に掲げる区分に従い、備品、消耗品、材料品、生産品及び動物に分類する。
で、別表第6では、次のようにあります。
分類 | 分類に属する物品 |
備品 | 機械器具等その性質、形状を変えることなく比較的長期に渡り反復使用に耐える物品(材料品、生産品及び動物の分類に該当するものを除く。) |
消耗品 | その性質が反復使用に耐えず、又は反復使用することによって消耗し、又は損傷し、長期間保存に耐えない物品及び実験用の動物(材料品及び生産品の分類に該当するものを除く。) |
材料品 | 工事用材料、機械器具の修理用材料、加工用材料及び築造物の構成部分の材料として使用する物品 |
生産品 | 産出又は製造その他収穫した物品(動物の分類に該当するものを除く。) |
動物 | 鳥獣魚虫類の生物(消耗品の分類に該当するものを除く。) |
動物も「物品」というのが、社会的常識とは少しばかりズレた感じかもですね。
現金の定義でさえ難しい
ものごとがややこしいのは、電子マネーをどう考えるか、法的な整備が追いついていないということもあるようです。
今回、関連していろいろ調べていたら、日本銀行金融研究所の論文「現金、金銭に関する法的一考察(古市峰子)」の冒頭で次のような一節に出会いました。
現金とは何かという問題に応えるのは容易なことではない。
いやはや。
現金でさえ、定義が定かでないわけですね。議案研究を進めていると、いろいろ発見があります。
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