さて。「政教分離と目的効果基準」で検討した、市の名義になっている縁故使用地を、本来の持ち主である神社に譲渡するという案件。
実は今回、同様の議案がもう一件上程されているんです。
・議案17号 市有財産の無償譲渡(追認)(高座神社)
追認。
めったに見ません。追認というのは、「議会の議決が必要でしたが得ないまま事務を進めていたので、後追いですが認めてください」というものです。
事務の瑕疵があったということになります。
そこで、そもそもなぜ間違ったのか気になって調べました。
その過程で、縁故使用地や旧慣使用地は本来的に議会の議決が要らないのではないか、と思うに至りました。
念のため繰り返しておくと、縁故使用地や旧慣使用地というのは、実質的に自治会等の財産で使用もされているのだけれど、登記上の名義は市(あるいは合併前の町や村)になっているという財産です。詳しくは「縁故使用地と旧慣使用地」をお読みください。
議会の議決を必要とする市有財産の譲渡
整理のために、そもそもの話をします。
市が所有する財産(公の財産)の処分にあたって、議会の議決を求める根拠は、地方自治法の96条にあります。(「議会に付さなくてはならない事件たち-事故繰越の話も少し-」も参照ください。)
第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
(略)
六 条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。
市の財産を交換したり、安売りしたり、譲渡したり、貸し付けたりするときは議会の承認を得なくてはなりません。
ただ「条例で定める場合を除く」とありますね。これら行為のすべてではなく、議決を必要としないケースを条例で定めることができます。
その条例というのが、丹波市で言えば「丹波市財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例」です。
第3条 普通財産は、次の各号のいずれかに該当するときは、これを譲与し、又は時価よりも低い価額で譲渡することができる。
「次の各号」として4つのケースが記されています。条文では分かりづらいので、簡単な文章にして箇条書きします。
- 公共団体または公共的団体が行う公益事業のために譲渡する。
- 公共団体または公共団体が管理してきた財産を廃止した場合、その管理負担金の対価の範囲内でその団体に譲渡する。
- 寄附によって運用してきた財産を、もとの寄附者に返還する。
- 新しく寄附によって不要になった財産を、その寄附額の範囲内で寄附者に譲渡する。
(1)にあたるのは、たとえば自治会が公民館として利用するために市の土地を譲渡するというケース。公共的団体が行う公益事業ですから、議会を通すことなく譲渡できます。
あるいは、地元自治会から寄付された土地を市の財産として利用してきたものを、自治会に返すという場合も、議会を通す必要はありません。上記の(3)ですね。
なんで旧慣使用地だと議決が必要?
ところが丹波市の場合、旧慣使用地は、すべて議会の議決を必要と判断しています。
普通の財産でさえ、公共的団体が行う公益事業のためなら議決なく譲渡できるのに、それより地元の所有物である度合いが高い旧慣使用地の場合は議決を必要とする。
変ですよね。変ですけど、その根拠は、地方自治法の以下の条文ということです。
第二百三十八条の六 旧来の慣行により市町村の住民中特に公有財産を使用する権利を有する者があるときは、その旧慣による。その旧慣を変更し、又は廃止しようとするときは、市町村の議会の議決を経なければならない。
うーん、確かに、「旧慣を変更し、又は廃止しようとするとき」に議会の議決が必要としています。
だから旧慣使用地を本来の所有者に戻すとき、議決するのだと。
でもこれ、地方自治法の誤読ではないでしょうか。
ここで地方自治法が想定しているのはどのようなケースでしょうか?
地域が利用しているという慣行を市が勝手に変更して市の土地として利用するなど、市民の権利を侵害することを防ぐことを目的としているのではないでしょうか?
つまり、「旧慣」の通り地元自治会等が利用し続けるのであれば、議決を要しないと考えた方が良いのではないか。
そもそも単なる名義変更じゃない?
さらにもうひとつ。
より根本的な問題なのですが、そもそも縁故使用地や旧慣使用地って市の財産なの? という疑問があります。
確かに登記簿上は、市(というか旧村だったり)となっています。でも、市の財産台帳にも記載されていない「財産」なのです。
ちょっと想像してください。
おそらくは明治の頃。近代化の過程で村の財産を整理する必要に迫られた。
だけど登記は人格のある者(個人であれ法人であれ)しかできない。
可能な手段は、村の総代さん名義とか氏子の連名で登記するか。
しかし、個人名義を村の財産の登記に使うことに抵抗がある。
じゃあ、村の名前を借りられないか。
そんな事情で、本来の所有者は地元(神社)だけど、村が名義貸しして登記した。
きっとそんなところですよね?
だから、村(現在の市)は本来の所有者じゃなく、本来の所有者は地元(神社)。そして使用や管理の実態もそうなっている。
要するに村(現在の市)は「名義貸し」しただけなんですよね。
その証拠に、現在、縁故使用地に関して丹波市と地元自治会等との間で交わされている「自治会等保有財産に関する契約書」には、次のような条文があります。
第2条 土地の所有権は、乙(地元自治会等)に帰属するものとし、不動産登記法上は、甲(丹波市)の所有であるが、実質的な土地所有者は乙であると甲乙双方確認するものである。
所有権の帰属についてここまで明記されていて、実質的な所有者に登記上の名義を変えるだけのことを、「譲渡」というのはどうしても違和感があります。
認可地縁団体への不動産登記の特例
実は旧慣使用権については、他の地域でも問題になってきたケースがあります。
それは、前述のような明治かそのあたりの財産登記の際、村人の連名で登記したようなケースです。数十名とか、百名を超えるケースもある。
現在までそれが続いているのを、自治会の名義に変えたいと。
するとどうなるでしょう。
本来的な手続きをしようとすると、登記簿上の村人の法定相続人すべての了解をとってでないと、名義変更できませんよね。
それじゃあ困るというので、総務省も法務省などと協議をしたという経緯があります(総務省「地縁団体名義への不動産移転登記手続の改善促進」参照)。
その結果、現在では「認可地縁団体が所有する不動産登記の特例」ということが認められています(地方自治法260条の38)。地方自治体の公告を経ることで、登記関係者の承諾があったものとみなす制度です。
こうした特例の主旨を考えてみるにつけ、旧慣通りの所有者に登記名義を変更することは議決事項から外した方がいいんじゃないかなと思います。
条例の改正が残された道?
で。
実はこの件についても、市としては顧問弁護士に相談されていて、以下のような回答を得られています。
登記の表題部の所有者として、幸世村及び賀茂村が登記されている以上、丹波市が所有する「公の財産」(憲法89条)にあたると考えるべきである。
ううむ。まあ、法律の専門家がそうおっしゃるなら仕方ない(前述の契約書も見せながら他の方に相談したら、また別の見解が出る気もしますけれども)。
そうなると、公の財産の処分を定める、地方自治法96条以降の議論に戻ります。
だとすると、すっきりさせるには、議決から除外するための丹波市の条例を変更するのが早道なのでしょうね。
つまり、現在の例外4項目に加えて、「旧慣によって運用されてきた財産を、実質的な所有者に返還する」みたいな1項目を加えるとかね。
ややこしい議論をしちゃったけど、実は縁故使用地的なものって、現在把握されている以外にも、地籍調査をするとまだまだ出てくる可能性があるといいます。
今のうちに、実質的な所有者での登記にしやすいようにしておいた方がいいんじゃないかな。