地方債の発行条件と充当率及び交付税措置率

 今回は地方債の発行についておさらいしましょう。

 というのは、今回の議会で、公衆トイレを新たに設置する条例が提案されました。

 JR福知山線の石生駅及び谷川駅にあるトイレがその対象。
 もっとも、これらはすでに利用されているトイレです。管理も委託管理下において行われており、公衆トイレに変わったからといって、管理形態が変わるわけではありません。

 じゃあ、なぜあえて今、「公衆トイレ」として指定する必要があるのか。

 そのヒントが、同時に提案された補正予算にありました。
 それが、地方債がらみ。

 その話に行く前に、まずは「公衆トイレ」について整理しておきます。

公衆トイレいくつある?

 今回提出された議案が、次のもの。

議案48号 丹波市公衆便所条例の一部改正

 現在の「丹波市公衆便所条例」では、以下の8カ所を公衆トイレとして規定しています。

  • やぐら公園トイレ 丹波市柏原町柏原112番地
  • 柏原町観光トイレ 丹波市柏原町柏原3624番地1
  • 甲賀山公園公衆便所 丹波市氷上町成松177番地
  • 岩瀧寺渓谷公衆便所 丹波市氷上町香良2104番地1
  • もみじの里公衆便所 丹波市氷上町御油302番地
  • 仏師の里公衆便所 丹波市氷上町清住261番地1
  • 興禅寺下休憩所トイレ 丹波市春日町黒井1039番地1
  • 石龕寺下公衆便所 丹波市山南町岩屋2079番地

 ここに、石生駅西駅前広場公衆トイレと谷川駅前公衆トイレを加えるものです。同じトイレでも石生駅は公共交通を所管する部署、谷川駅は観光を所管する部署が管理しており、条例自体は産業経済部の所管です。

 自治体トイレの現状については、一般社団法人日本トイレ協会が「自治体のトイレ関連行政についての調査」という報告書を発表していました。

 トイレ1カ所あたりの人口は1,876人、5万人~10万人未満の自治体では1,286人とのことで、丹波市の場合は、10カ所になったとして約6,000人。思ったより少ない感じですね。
 農村的なまちの特色かもしれませんが、この調査がどこまで含んでいるかは謎です。丹波市でも、公園等にあるトイレまで含めると、もっと増えますものね。

公衆トイレは公共用財産である

 さて、今回の条例改正。

 改正によって、石生駅と谷川駅のトイレは、規定としては、地方自治法に基づく「公の施設=公共用財産」に代わることになります。

第244条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

 公の施設については、「市の財産の分類とその設置及び廃止」もご参照ください。

 こうした議案を審査する場合、議員として気にかかるのは、「なぜこの時期に」「何のために」という点です。
 管理実態が変わらないのであれば、なぜ条例改正を行って公の施設を増やす必要があるのか。

地方債の発行

 並行して提案されている「補正予算」の中に、そのヒントがありました。

 第1表の予算書の説明資料を確認すると、歳出で総務費の「公共交通鉄道対策事業」として、設計監理委託料195万円が計上されています。
 提案時に口頭で補足説明されたところによると、これが今回あらたに公の施設に位置づけられる石生駅のトイレ改修費の実施設計業務だそうです。

 そして第3表、地方債補正に、次の項目があがっています。

  • 公共交通鉄道対策事業(地域活性化事業債) 170万円

 なるほどです。事業費195万円のうち、170万円を市債で賄うということです。

 地方債というのは、市が発行する債権、つまり市としては借金です。

 今回の予算書によれば、利率は年4%以内で計画されており、市の財政状況によっては繰り上げ償還(予定より早く返すこと)または低利への借り換えもあるという条件です。
 4%というのはあくまでも上限で、実際の利率は、現在の市況からすればもっと低くなるものと思います。

 通常、170万円くらいであれば、一般会計の年度予算からもねん出できます。なぜわざわざ借り入れるのか。
 実は、借りられるなら借りた方が得、という仕組みがあるからです。

地方債と充当率、交付税措置率

 以前「地方債と充当率そして交付税措置-将来負担を少なくする工夫-」で述べたことを思い出してください。

 地方債の元利償還に対して、国から「地方交付税」として配分される制度があります。
 元利償還金のうち国が負担する割合を交付税措置率と言いますが、たとえば今回の地域活性化事業債の場合だと、交付税措置率は30%です。

 ということは、市が地域活性化事業債として借りた分の元利償還金のうち30%を、国の予算から交付税として自治体に配分しますということ。

 170万円借りて、その3割の51万円は国が返済を肩代わりしてくれる(正しくは利子分も含みますが省略します)。
 これは借りた方が、市の財政上有利ですね。

 じゃあ、事業費のすべてを借りた方がいいじゃん。

 残念ながら、そうは問屋が卸しません。

 事業費のうち、市債で賄うことができる比率を「充当率」と言います。
 事業の種類によって、この充当率が決まっており、地域活性化事業債の場合は、充当率90%。だから事業費195万円のうち、市債で賄うことができるのは90%の170万円になります。

 総務省の「地方債計画等」に、充当率の一覧があります。
 災害復旧事業などは100%を市債で充当できますが、なかには75%というものもありますね。

地方債の発行要件は?

 それでも、何割かであっても借金して国から返済を支援してくれるなら、できるだけ多く借りた方がいい。

 そう思いますね。
 これもまた、そう簡単にはいかないんです。

 以前、「辺地と辺地債の話」で述べましたが、地方債には発行できる事業の対象に限定があります。

 具体的には、「地方財政法」第5条に次のように定められています。

地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。ただし、次に掲げる場合においては、地方債をもつてその財源とすることができる。
一 交通事業、ガス事業、水道事業その他地方公共団体の行う企業に要する経費の財源とする場合
二 出資金及び貸付金の財源とする場合
三 地方債の借換えのために要する経費の財源とする場合
四 災害応急事業費、災害復旧事業費及び災害救助事業費の財源とする場合
五 学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費の財源とする場合

 まるめていえば、「公営企業(上下水道など)の経費」「出資等」「災害対応」「公共施設や道路河川の建設」を目的とした借金しか許しませんと。
 人件費のような通常経費に使っては財政規律が緩みますからね。

 視点を変えてとらえるなら、ここにあげられた事業は、基本的には将来の世代が恩恵を受けるものです。今作って、子どもたちの代まで使う道路とか。
 だから、現在の世代だけが負担するのではなく、借金して、将来世代が返還していくというスキームに、一定の合理性がありますよね。

 同じ建設費でも、地方債をあてるには、「公共施設」である必要があります。
 もういちど「市の財産の分類とその設置及び廃止」に掲載した図をご参照ください。

 市の公有財産には「普通財産」と「行政財産」がありますが、「普通財産」は対象にならない。丹波市で言えば、廃校後の校舎などがそれにあたります。
 だからなんですね。今回、石生駅を改修するにあたり、市債を発行すべく、公の施設に規定するのは。

 あれ? でも今回設計費です。どちらかというとソフト的な費用。ソフト的な費用は普通は(辺地債や過疎債などの特例を除けば)地方債の対象になりません。
 これについては、その後の改修に伴う設計であれば、建設費と一体的に考えてよいそうです。なので、地方債の対象にできる。

 個人的には、仮に今後改修費が予算化され、もしそれが否決されたら建設費と一体にならないわけで、それを先に地方債にあげられるということが、すっきりしませんが、、、、(金額が明確でない建設費も含めて承認したような感じで、、、とはいえ建設費が分からない段階で債務負担にあげることもしづらいのか、、、)

 なお、今回谷川駅のトイレも公衆トイレに位置づけられました。
 こちらは改修の予定はありません。石生駅のトイレを加えるにあたって、丹波市内の駅に付属するトイレ全般を洗い出し、同様の管理状態のトイレを、一括して「公衆便所」に変更するものです。

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