臨時財政対策債は「禁じ手」か

 以前、「減収補填特例交付金」について「地方特例交付金(減収補填特例交付金)と減収補填債」で紹介しました。

 地方自治体の財源不足に関連して、今回は「臨時財政対策債」について取り上げましょう。

 最初に簡単に説明しておくと、臨時財政対策債とは、地方自治体が、財政収支の不足額を補てんするために、地方交付税では足りない分を補うため、特例として発行することを認められている地方債です。

 国の視点から説明すれば、財源不足により、地方交付税として交付すべき額に足りない分を、地方公共団体が発行する地方債で穴埋めし、その返還資金を後年交付する制度です。

急激に減った臨時財政対策債

 令和5年度9月の丹波市補正予算であがってきた臨時財政対策債は、2,310万円減の1億2,990万円。

 額で見ると、ずいぶん少ない額です。

 丹波市議会の9月議会に提出された補正予算案を見ると、令和4年度は当初予算3億6,900万円から9,500万円減の2億7,400万円。
 令和3年度は当初予算で12億9,400万円を発行予定でしたが、9月補正で10億200万円に減額提案されています。
 令和2年度は当初予算8億円から9月補正で2,100万円増。令和元年度は当初予算8億800万円から9月補正で6,300万円減。

 令和4年度から5年度にかけて、急激に減っていますね。

 これは丹波市の財政が原因ではなく、国がそもそも「臨時財政対策債」を抑制する方向で地方債計画(「令和5年度地方債計画」参照)を立てているからです。

 総務省による「令和5年度地方財政対策の概要」を参考に確認すると、令和に入ってから、国が計画する臨時財政対策債は3.3兆円→3.1兆円→5.5兆円→1.8兆円→1.0兆円と推移しています。

 丹波市の同期間の推移が7.4億円→8.2億円→10.0億円→2.7億円→1.3億円ですから、推移の傾向はほぼ重なっていますね。

地方交付税の算定結果に目を通す

 臨時財政対策債について毎年9月に補正がかかるのは、総務省からその年度の普通交付税の算定結果が示されるのが8月となっており、それを受けて、9月議会の補正予算で対応する流れになっているからです。

 ちなみに、総務省での決定内容、今年度で言えば「令和5年度普通交付税の算定結果等」で参照できますが、目を通しておくと国がどのような方針で交付税を決定したかが分かります。

 今年度の「算定事項」にあげられている主な項目は次の通り。

  • 地域社会のデジタル化の推進に要する経費の財源を充実
  • こども・子育て支援施策の充実、児童虐待防止の充実、保健所の体制強化、障害者の自立支援の充実、介護給付の充実に要する経費の財源を措置
  • 看護、介護、保育、幼児教育等に係る人材の処遇改善等に要する経費の財源を措置
  • 特別支援教育、私学助成等教育施策に要する経費の財源を充実
  • 光熱費の高騰を踏まえ、学校、福祉施設、図書館、文化施設等の地方公共団体の施設の光熱費の財源を充実

 令和3年度から新しく入った「地域デジタル社会推進費」が継続。また光熱費の高騰対策が新しく入りました。
 加えて福祉関連の項目に「こども・子育て支援施策の充実」が入っています。さらに、介護や保育人材の処遇改善が入ったのも特徴です。

臨時財政対策債は悪か?

 過去の決算を遡ってみると、9月補正で提案された臨時財政対策債の発行枠は、毎年満額執行されています。
 臨時財政対策債も市債、市の借金です。発行可能枠を設定したからといって、いっぱいまで借金する必要は必ずしもありません。

 それでも、発行枠いっぱい使う。
 なぜでしょうか?

 そもそも臨時財政対策債というのは、地方財政収支の不足額を補てんするためのものというのが理由のひとつ。
 財政収支が不足している(収入が支出を下回っている)以上、収入の足らずを補完するために発行せざるを得ないのが当然という考え方です。

 もうひとつの理由は、後年度、返還金の全額を地方交付税の基準財政需要額に算入されるからです。つまり国が返還資金を補てんしてくれるということです。
 借金をして、返済は国が保障してくれるのですから、地方自治体の立場からすれば利用しない手はないですね(総務省「地方債に関するQ&A」参照)。

 しかし世の中には、金目哲郎弘前大学准教授の論考「臨時財政対策債、急増する自治体財政の禁じ手」にもあるように、臨時財政対策債に対して慎重な見方もあります。

 臨時財政対策債は赤字公債だから、というのが主な理由です。

 これはどういうことでしょうか。

臨時財政対策債は使途が限られない

 一般の地方債は、「地方債の発行条件と充当率及び交付税措置率」で紹介したように、「地方財政法」第5条で、発行できる事業の対象が限定されています。

 まるめていえば、「公営企業(上下水道など)の経費」「出資等」「災害対応」「公共施設や道路河川の建設」を目的とした地方債しか発行できませんということでしたね。
 これらの目的は、基本的には将来世代が恩恵を受けるもの。なので、今は借金して、返済は将来世代も含めて担うことに、一定の合理性がある。

 令和4年度の丹波市の市債発行内訳で確認します。

 市債は、総額で34億9,940万円発行されています。そのほとんどは、こうした将来世代のための、いわゆる「建設公債」です。

 小中学校統合等に使われる「旧合併特例事業債」18億8,170万円、河川改良などの「緊急自然災害防止対策事業債」1億8,690万円、公園整備などの「地域活性化事業債」1億7,340万円、急傾斜地崩壊対策や橋りょう長寿命化などの「公共事業等債」1億5,570万円、道路整備などの「過疎対策事業債」1億6,250万円など。

 これに対して、「臨時財政対策債」2億7,400万円は、具体的事業があてられていません。すなわち、用途を限定せず一般財源に繰り入れられています。

 なぜこんなことが可能かというと、臨時財政対策債が、財源不足を補う目的のものだからです。
 不足する財源を補うものなので、具体的事業とは関係なく借金できる。一般の歳入である国からの地方交付税と同じ扱いですね。

 とすると。

 臨時財政対策債に関しては、将来世代のための用途に限らず、現役世代の利益のためだけの事業に使うことも可能ということになります。

 いくら後年国から返還費用が充てられるとはいえ、一義的に返済の責任を負うのは地方自治体です。未来世代のための投資ではなく、現時点での赤字を補てんするために借金をしても良いのか。

 これが、臨時財政対策債が「赤字公債」と言われる所以です。

国にとってはまさに赤字を借金で賄うもの

 歳入不足を補うのが臨時財政対策債。だから一般財源として広く使える。

 それは分かったのですが、地方自治体の歳入を補う役割は、本来、地方交付税が担っていたはずです。初めから地方交付税として交付されていれば、「赤字公債」などと言われる心配は起こらない。

 なぜそうしないのでしょうか?

 実は、国としても本当は地方交付税として措置したい。
 ところが、財源が足りないのです。

 なので、とりあえず自治体で借金して収入しておいてと。

 これが、臨時財政対策債として地方に配分された枠の真相なんです。本来的には地方交付税で補うべきものだから、返済資金は後年に国から補填するのが当然であると。

 足らずの財源を地方自治体の借金でなんとかしておいて、というわけですから、国にとってはまさに赤字を補うための借金みたいなことになっていますね。

 国にとって望ましいものじゃないのは確かです。

地方交付税の財源不足ってどういうこと?

 なぜこんなことが起こるのでしょうか。

 先に解説した「基準財政需要額と基準財政収入額-地方交付税はこう決まる-」で、地方交付税は国が地方に変わって徴収する地方税だと紹介しました。

 そしてその税目と、その何パーセントを地方交付税に充てるかが、「地方交付税法」第6条で規定されていることを紹介しました。

  • 所得税 33.1%
  • 法人税 33.1%
  • 酒税 50%
  • 消費税 19.5%
  • 地方法人税 100%

 そうなんです。収入額に対する比率が決まっている

 ということは、もととなる所得税なり法人税なりの収入次第で、地方交付税に回すための総額が決まってくるのです。

 国としては、それ以上の額を地方交付税に回せない。

財源以上の支給必要額

 ところが。

 地方交付税として交付すべき額はどのように決まるでしょうか? やはり先のエントリーで紹介したように、次の式で求められるのでしたね。

普通交付税額=(基準財政需要額-基準財政収入額)

 この式から求められた地方公共団体の普通交付税額を積み上げて、支給額を決めることになる。

 するとどうでしょうか。

 積み上げた支給額総額が、先に述べた地方交付税に回すための財源の総額を上回ることもありえるのです。

 しかし、財源不足額を補うのが地方交付税という考え方から、財源が無いから地方交付税も削ります、というわけにはいかない。
 そこで生み出されたのが、平成13年(2001年)に導入された「臨時財政対策債」という仕組みだったのです。

 そんなわけで、国にとっては苦肉の策ですが、地方公共団体にとっては(多少の疑問は残しつつ)使わない手はない、という性格を持つのが臨時財政対策債と言ってよいでしょう。

臨時財政対策債の返済資金の積み立て

 ところで、2019年にNHKのサイトで、「地方自治体の借金返済金25道府県で積み立て不足」と話題になりました。

 「臨時財政対策債」を巡り、返済資金の積立が不足している都道府県が、当時の記事では25道府県にのぼるというのです。
 このまま返済の時期を迎えると財政を圧迫して住民の生活に影響する可能性もあるとか。

 おや? 返済資金は国から出るはずなのに、どういう意味?

 実はこれ、丹波市(というか多くの市町村)ではあてはまらない話でした。

 丹波市では、臨時財政対策債を借りるとき、その返済は、毎年行っていく契約で借ります。ほとんどの市町村がこうした形でしょう。
 ところが、債権の中には、このように毎年返すのではなく、20年なり30年なりの期間の後、一括して返す契約もありますよね。

 実は、都道府県による「臨時財政対策債」は、この形が多いのです。

 ところで、国からの臨時財政対策債返還金相当分の交付税措置は、毎年分割して交付されます。
 そうするとどうなるでしょうか。

 丹波市の場合は、毎年の返済に対して、毎年の国からの返済金の交付がある。なので収支がつりあってきます。

 一方、都道府県の場合。
 毎年の国からの交付金を返済時まで積み立てておけば、問題なく将来の一括返還ができます。しかし、仮に積み立てを怠れば、返済に使うはずの資金を別の用途に毎年使ってしまい、いざ、一括返還するときに財源が無い、ということになりかねない。

 そういうことなんですね。

 ちなみに、こうした返済のための積み立てを「減債基金」と言います。NHKのサイトで報じられているのは、都道府県の減債基金の積み立てが、将来一括返済が見込まれる臨時財政対策債の発行済額と比して少なすぎると、そういう事態のことなんですね。

 この減債基金、丹波市にもあって、12億円ほど積み立てられています。だけど、将来に一括返済する市債って、持ってないんですよね。
 なので逆に、じゃあどういうときにこの12億円を使うのってなっちゃいます。

 どうなのでしょうね、借金を返済する資金を「公債費」と呼んでいますが、この公債費に充当して良いものかどうか。
 あるいは、繰上償還して将来負担を減らそうとか、そういう目的に使っても良いかもしれませんが、今後の検討ですね。

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