予定価格と最低制限価格を決める-入札制度の話(2)

 入札制度についてのお話。後編です。

 丹波市が仕事を発注するときの契約の方法は、次の3種類と先に述べました。

  • 一般競争入札
    条件に合うすべての事業者が参加できる形式。
  • 指名競争入札
    丹波市が指定した事業者だけが参加できる形式。
  • 随意契約
    入札によらずに事業者と契約する形式。

 前回の「随意契約とプロポーザル方式-入札制度の話(1)」で、このうち「随意契約」について紹介しました。

 今回は、競争入札について。

指名競争入札と制限付一般競争入札

 まず指名競争入札に触れておくと、これは地方自治法施行令で、一般競争入札に適さない内容のものであったり、参加できる事業者が限られている場合などで指名競争入札が可能としています(167条)。

 手順としては、まず適格審査を済ませた入札参加者名簿を準備します。

第167条の5 普通地方公共団体の長は、前条に定めるもののほか、必要があるときは、一般競争入札に参加する者に必要な資格として、あらかじめ、契約の種類及び金額に応じ、工事、製造又は販売等の実績、従業員の数、資本の額その他の経営の規模及び状況を要件とする資格を定めることができる。

地方自治法施行令

 この名簿の中から、丹波市が信用や発注等級(工事の種類と予定価格の範囲に応じた区分)、適正、地理的条件などを加味して特定多数の者を指名して競争させます。

第167条の12 普通地方公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから、当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない。

地方自治法施行令

 また、一般競争入札の一種で、単なる不特定多数を対象にするのではなく、あらかじめ資格を定めておく手法もあります。

第167条の5の2 普通地方公共団体の長は、一般競争入札により契約を締結しようとする場合において、契約の性質又は目的により、当該入札を適正かつ合理的に行うため特に必要があると認めるときは、前条第一項の資格を有する者につき、更に、当該入札に参加する者の事業所の所在地又はその者の当該契約に係る工事等についての経験若しくは技術的適性の有無等に関する必要な資格を定め、当該資格を有する者により当該入札を行わせることができる。

地方自治法施行令

 これを制限付一般競争入札と言います。「丹波市制限付一般競争入札実施要綱」では、建設工事で1,000万円以上、業務委託等で500万円以上の予定価格の案件で対象にできるとしています。

 ではどのような場合で制限がかかるのでしょうか。

 丹波市では「丹波市中小企業・小規模企業振興基本条例」を定め、「工事の発注、物品及び役務の調達等に当たっては、予算の適正な執行に留意しつつ、中小企業者・小規模企業者の受注機会の拡大に努める」ことを市の責務と定めています。
 また、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」で中小企業の受注を促してもいます。

 なので、たとえば市内に事業所を置くことを条件として入札にかけるなどが、制限付一般競争入札の一例です。

 もちろん、指名にせよ制限付きにせよ、入札参加者を絞るということは、地方自治法第2条第14項にある「最少の経費で最大の効果」原則とせめぎあいになります。

 このバランスをとるためには、制限を付けた場合でも、できるだけ多くの事業者が参入できるようにすることが望ましいですね。

 丹波市では、工区を分割して分離分割発注したり、大手市外事業者と市内事業者の共同企業体の組織を促したり、市内で雇用や納税義務を生じている場合は、本店が市外でも順市内事業者として扱ったりといった工夫を行っています。

入札不調だった工事請負契約

 さて。

 「随意契約とプロポーザル方式-入札制度の話(1)」で紹介した議案のうち、北小学校の工事は、本来は夏休みを利用して行う予定でした。
 しかし入札不調となり、再入札の結果、夏休みを過ぎての提案となりました。

 再入札を行う場合は、同じ仕様では行いません。仕様を変更し、予定価格を変え、一定の公告期間をとって行います。
 なので、いったん入札不調となると、どうしても何か月間か工期が後ろにずれてしまいます。

 今回のケースでは、1回目、2回目とも同じ6社が応札されています。
 1回目は5社が失格(下限の価格より低かったため)、1社が予定価格オーバーとなり、落札者は無し。2回目は4社が予定価格オーバー、2社は範囲内で、そのうちより安い1社に決まりました。
 1回目は多くの企業が安すぎ、2回目は高すぎる。予定価格と入札価格のかい離の方向性が逆でした。

 提案の余地が大きかったりアイデアを求めるような公共建築の場合、まず「基本構想」でイメージを膨らませ、「基本設計」で日影などにも配慮しつつ建築物の方向性を決め、その後、材料や工程を見積もることができる詳細な「実施設計」を行います。
 丹波市では実施設計は外部委託することが多く、それを基に積算は内部でされていますが、なかなか合わないものですね。

 では、競争入札における予定価格、最低制限価格はどのようにして決めるのでしょうか。

予定価格の算出

 丹波市財務規則では、第75条で、一般競争入札をするにあたって予定価格を決めなくてはならないとしています。
 予定価格というのは、その名の通り、契約しようとする案件について予定している価格のこと。基本的には、単価ではなく総額で決められます。

 事業者は、応札にあたって予定価格を超えてしまうと契約できません。また、後で述べる「最低制限価格」も、予定価格を基にして算出されます。
 ですから、予定価格が漏れてしまうと、競争性が働きません。秘密にしておき、事後公表するのが原則です。かつては不正を防ぐためあえて事前に公表していた時期もあったそうですが、現在では本来の形である事後公表とされています。

 では、予定価格はどのように算出するのでしょうか?

  • 市場価格方式
  • 原価計算方式

 いずれかの手法です。

 市場価格方式は見積もりや過去の実績などを参考に設定されるもので、物品購入契約などはこちらを利用します。

 でも、市場の価格って市況によって変化します。
 先の議案を例にしましょうか。物品購入契約です。

 6年ごとに買い替える情報機器についての入札。「パソコン及び外付けモニター各158台、プリンタ16台」を購入する契約です。
 予定価格は半導体不足を前提に設定されたもので、42,672,000円でした。

 しかしその後、半導体市況は回復。パソコンの価格も柔軟性が増し、落札額は19,825,000円と大きく乖離しました。
 そんなことも起こり得ます。

 一方。公共工事の場合は、原価計算方式が一般的です。

 原価計算方式は、仕様書等から必要な工程や人員を算出し、積算するもの。材料費や労務費、機械類の費用、その他経費などの合計になります。
 先に触れましたが、公開される予定価格は、これらを合計した総額です。

最低制限価格を設定して良い根拠

 一方の「最低制限価格」。
 丹波市財務規則第76条で以下のように定めています。

第76条 契約担当者は、一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において、当該契約の内容に適合した履行を確保するため、特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けなければならない。

 これは、地方自治法施行令167条の10によっています。この条文は「一般競争入札において最低価格の入札者以外の者を落札者とすることができる場合」を定めたもの。

 つまり、一般競争入札において、基本はもっとも低い価格を入れた事業者を選ぶものだが、ここに定めた場合は例外を認めると。
 そして同条文の2項で、次のように最低制限価格を設けることを認めています。

第167条の10 (前略)
2 普通地方公共団体の長は、一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において、当該契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格で最低制限価格以上の価格をもつて申込みをした者のうち最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。

 先ほど入札者を制限する場合で触れましたが、本来、地方自治法第2条第14項「最少の経費で最大の効果」原則からすれば、「最低の価格をもつて申込みをした者」と契約するのが合理的です。

 これに反して、あえて最低価格でない事業者との契約を認めるのは、「契約の内容に適合した履行を確保するため」です。

公契約条例という流れ

 ここであらためて法律と条令ふたつの条文を比べてみます。

 最低制限価格を認める理由は、「契約の内容に適合した履行を確保するため」として、これは法律の表現を条例でも利用しています。
 契約の内容に適合するというのは、具体的には、工事の質を確保したり、賃金等の労働条件を確保したり、現場の安全対策を確実にしたりということです。

 一方で最低制限価格に関して、法律では「することができる」と可能表現ですが、条例では「設けなければならない」と義務規定となっています。

 地方自治の本旨は住民福祉の向上です。労働条件も当然そのひとつ。
 従って、最低制限価格を設けることで住民福祉の確保を図ろうと、より厳しい姿勢で臨んでいるということでしょう。

 これに関し、補足的に説明しておくとすれば、「公契約条例」への流れもあるということでしょうか。
 公契約というのは、国や地方自治体が結ぶ契約のことですが、この場合に、労働者等の最低賃金を確保したり、確実な支払いを求めたりする措置を定める条例です。

 その基盤には、昭和24年に国際労働機関(ILO)にて採択された「ILO94号」と呼ばれる条約があります。公契約においては団体協約や国内法令等によって定めらられたものより有利な労働条件にしなさい、という条約です。
 日本はまだ批准していません。これ、理念としては良いのですが、現実的に適用しようとすると、賃金台帳を整えるなど小規模事業者にとっては負担が大きく、日本の現状に合ってるかどうか、というところのようです。

 丹波市では公契約条例を定めていませんが、「丹波市が発注する契約に係る適正な労働条件の確保に関する取組について」を公開し、「労働関係法令の遵守、特に最低賃金額以上の賃金支払の徹底」など、一定の配慮を見せています。

物品購入における規則

 丹波市財務規則の先ほどの条文に再度目を通すと、最低制限価格を設定するのは「工事又は製造その他についての請負の契約」の場合とあります。
 ということは、「財産の買い入れ」(物品の購入)の場合は設けないということ。

 物品購入については「丹波市物品購入事務取扱要綱」に入札の原則が記されています。

  • 随意契約
    1件の予定価格が80万円未満の購入は随意契約が可能で、その場合、10万円未満で2者以上、10万円以上で3社以上から見積もりを徴収しなさい。
  • 市内事業者優先
    入札をする場合において、500万円未満の契約では、市内事業者から選定しなさい。
  • 入札参加者数
    1,000万円以上の場合は7者以上から選定し、未満の場合は5者以上から選定しなさい。
  • 見積書免除
    5万円以下の物品では見積書徴収を免除する。

 ざっとこんな原則です。

最低制限価格の秘匿性を高めるために

 閑話休題。

 最低制限価格はどのようにして決めるのでしょうか。

 予定価格もそうですが、最低制限価格は、いっそう秘匿が求められます。
 最低制限価格より低い価格で応札すると失格になります。しかし、ちょうど最低制限価格なら、必ず受託することができますよね。

 なので、情報漏洩など不正の温床になりやすい。

 これを防ぐための工夫が、最低制限価格を決めるための各種方法に凝縮されています。
 現在丹波市が用いている最低制限価格の決定方法は以下の3種類。

  • 最低制限価格制度
    最低制限価格を設け、その価格より安く入札しても失格となり落札者とならない制度。
  • 低入札価格調査制度
    従来の最低制限価格を「調査基準価格」と考え、それを下回ったとしても、「失格基準価格」以上であれば、履行可能と判断されれば落札者となることができる。
  • 変動型最低制限価格制度
    全応札者のうち価格の低いものから6割を平均し、その金額の90%を最低制限価格とする仕組み。

 どう違うのでしょうか。
 最低制限価格制度は、従来型の仕組みですが、「低入札価格調査制度」と「変動型最低制限価格制度」は新しい取り組みです。

 令和2年9月時点では、低入札価格調査制度は兵庫県下42団体のうち3分の1程度で採用され、「変動型最低制限価格制度」は42団体のうち6団体が採用しています。

最低制限価格の求め方

 まず、従来の最低制限価格。

 丹波市では「丹波市建設工事等における最低制限価格設定基準」で、建設工事又は製造の請負に関する契約において適用する場合の算出方法を定めています。

 また、「丹波市委託業務における最低制限価格設定基準」で、予定価格50万円を超える測量や役務提供型業務において適用するとして算出方法を定めています。

 委託業務の場合は、測量業務等については細かく定められていますが、人件費の占める割合が高くなる役務提供型業務の場合、予定価格の7割から9割の間で定めるといった形になっています。

 以下では建設工事を例に話を進めます。

 最低制限価格を求める方式に、「中央公契連モデル式」というのがあります(どのモデルを利用しているかは、市のホームページで公表されています)。
 予定価格を求めたときの価格を基準に、一定の比率をかけて算出するものです。

  • 直接工事費×0.97
  • 共通仮設費×0.9
  • 現場管理費×0.9
  • 一般管理費×0.68

 予定価格、最低制限価格とも最終的には総額表示なので、それぞれの項目の内訳は分かりません。ともあれ積算を基に、たとえば2,000万の予定価格で、最低制限価格は1,760万円だよと、そのように決めるわけです。

 通常の入札、つまり最低制限価格制度の場合は、この価格を下回れば失格です。

低入札価格調査制度とは?

 これに対して、低入札価格調査制度

 低入札価格調査制度の場合、従来の制定制限価格にあたる金額は「調査基準価格」と位置づけられます。

 そして、この価格を下回っていた場合でも、「失格基準価格」以上であれば、調査結果によって履行可能と判断され、落札者となることができるのです。
 単純に失格ではないのですね。

 そして「失格基準価格」は、上述の「調査基準価格」に対して、例えば次のように計算されます。

  • 直接工事費×0.9
  • 共通仮設費×0.7
  • 現場管理費×0.9
  • 一般管理費×0.68

 先ほどの式より、係数を落としていますね。なので、少し低い価格になる。

 先述の予定価格が2,000万円の場合を例にすると、調査基準価格は1,760万円だけど、失格基準価格は1,660万円といった次第です。

 そうすると、たとえば1,700万円で応札があった場合、最低制限価格制度では1,760万円以下で失格ですが、低入札価格調査制度の場合は、1,660万円より上なので、調査の対象になるわけです。
 そして、調査の結果、「契約の内容に適合した履行」が確保できると確認されれば、落札者となることができます。

 なので。
 仮に最低制限価格(失格基準価格)を職員が漏らしたとしても、調査次第ですから、必ずしも受託できることにはなりません。
 価格を聞き出そうとする不正の意味を無くしますよね。こうして入札の公平性を保つのが、低入札価格調査制度なのです。

 詳細は、「丹波市低入札価格調査制度取扱要綱」で定められており、現在のところ、予定価格が1億5,000万円以上の建設工事のうち、必要と認めるものについて採用されることになっています。

変動型最低制限価格制度とは?

 では、もう一つの最低制限価格の設定方法、「変動型最低制限価格制度」とはどのような手法なのでしょうか。
 こちらは、落札者の開札が済むまで最低制限価格が分からないという、より厳密な手法です。現在のところ、予定価格が1,000万円以上で、品質の確保が必要であり、ダンピングのおそれが認められるときに採用することができるようになっています。

 一般的な工事の場合、いわゆる労務費の占める部分が多く、「低入札価格調査制度」が有効です。
 しかし同じ「工事又は製造その他についての請負の契約」の中でも、大型機械を設置するような工事の場合、機械類の購入費用が占める割合が高くなりますよね。そうすると、その機械の市場価格に左右される部分が多くなる。

 こういう場合において主に採用される方法です。

 これは、まず入札者すべてのうちから、低い方から6割を抽出し、その平均応札金額を算出、これに0.9を掛けた金額を「最低制限価格」とする制度です。

 こうなると、全部の入札参加者の金額が分かるまで最低制限価格が決まりませんから、そもそも事前に漏洩する機会さえないことになります。

 以下に、市のホームページで掲げられている参考図を引用しておきます。

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