さて、今回の補正予算では「減収補てん債」の発行が見込まれています。
減収補填債(5条分) 7,690万円
減収補填債(特例分) 2,740万円
これを見たのは初めてです。
確認したところ、丹波市政では2004年11月の合併以来初めてとのこと。
全国的にはリーマンショック時に発行されたところもあるようですが、丹波市としては、今回のコロナウイルス感染症による落ち込みは当時以上の影響があったということでしょう。
減収補てん債はどんなときに発行できる?
減収補てん債ってどんな時に発行できるのでしょうか?
総務省が発行している『地方財政白書』の用語集から引用します。
地方税の収入額が標準税収入額を下回る場合、その減収を補うために発行される地方債。地方財政法第5条に規定する建設地方債として発行されるものと、建設地方債を発行してもなお適正な財政運営を行うにつき必要とされる財源に不足を生ずると認められる場合に、地方財政法第5条の特例として発行される特例分がある。
後半については後ほど。とりあえずは最初の一文です。
減収補てん債というのは、自治体の税収入が「標準税収入額」よりも少なかった場合に発行できるということですね。
標準税収入額は、「地方税法」第14条に定められた基準財政収入額をもとに計算されます。
とはいえ基準財政収入額は標準的な税収の75%という算定なので、ざっといえばそれを100/75して戻したのを標準税収入額としますという話です。
標準的な税収はどうして出すのでしょうか。
住民税の均等割や固定資産税などは納税義務者数や面積と平均価格に標準税率をかけて出せますが、所得割や法人税割は前年度分をもとに算出するようです。
対象税目の制限と今回限りの緩和措置
さて。ここで総務省の資料、「基準財政収入額の清算制度と減収補填債制度」を見ます。
この減収補てん債、2点ほど特徴があります。
ひとつは元利償還金の75%を基準財政需要額に参入できること。つまり75%は国からの交付金として後年還ってくるんですね。
残り25%は市の借金として残りますが、100%を独自財源でまかなうよりずいぶん助かります。
もう一つの特徴は、減収の対象を「景気の影響を受けて変動幅が大きくなる税目」に限ること。
具体的には、「法人税割」「利子割」「法人事業税交付金」「地方法人特別譲与税」の4税目です(市に関係するのは「法人税割」「利子割交付金」「法人事業税交付金」の3つ)。
確かに法人は景気の影響を大きく受けます。先に紹介したように前年度をベースに算出するから、急激な景気変動があるといっそうですね。だから法人関係税を対象税目にすると。
で。
実は今年度に限って、この減収補てん債の基準が緩和されたんです。
これまで、法人税割等の減収しか認められなかったんだけど、今年はどの自治体もコロナの影響が大きい。そこで、対象税目に地方消費税など7税目が追加されたんです。(武田総務大臣閣議後記者会見参照)
思い起こせば、全国の地方議会が連携して、国に地方財政の急激な悪化に対して地方税財源を確保するよう、意見書を出しました。丹波市議会でも、昨年9月議会で採択しています。
意見書項目のひとつに「(前略)減収補填債の対象となる税目についても、地方消費税を含め弾力的に対応すること」と入れていました。
総務省の会見に「多くの地方団体から減収補填債の対象税目の拡大の要望をいただいております」とありますね。少しは甲斐があったってことでしょうか。
追加となる7税目は「地方消費税」「軽油取引税」「不動産取得税」「道府県/市町村たばこ税」「ゴルフ場利用税」「地方揮発油譲与税」「航空機燃料譲与税」。
丹波市に関係するのは「地方消費税交付金」「市町村たばこ税」「ゴルフ場利用税交付金」「地方揮発油譲与税」ですね。
なお、法人事業税交付金や地方消費税交付金等と「交付金」がついているのは、別の税目ということではなく、国や県が徴収した上で市に交付される流れだからです。
丹波市の税目ごとの減収幅と減収補てん債の発行予定額を紹介します。予算決算特別委員会で示された資料からの引用です。
表内で調停見込額というのは今年度末の実績予測のこと。その横の徴収猶予というのは、新型コロナウイルス感染症に伴う事情で徴収を猶予すると見込む額です。
これを見るとやはり法人関係税以外での減収が大きく、税目が追加されたことによる効果が見てとれますね。
市が直接徴収する法人税割はむしろ増収ですが、これは市が徴収する法人税の場合、今年度の影響が出るのは来年度予算からという事情によります。
あと、ゴルフ場利用税も増えているのはおもしろいですね。都市部の密を離れ、田舎の屋外で過ごすという志向の結果でしょうか。
5条と特例って?
さて。およそ減収補てん債については分かってきました。
もう一度冒頭の予算項目をご覧ください。「5条分」と「特例分」の2つに分かれていますね。
これは、「地方財政法」の条文を示しています。地方財政法の5条。
そう、「辺地と辺地債の話」でも引用しましたが、地方債の発行目的を制限する条文です。具体的にいえば、地方債は以下の目的でしか発行できないと。
- 公営企業の経費
- 出資金及び貸付金の財源
- 地方債の借換え財源
- 災害復旧等
- 公共施設や道路河川の建設
これをいわゆる「建設公債(建設地方債)」と言います。なぜ目的が絞られているかというと、財政規律のためです。借金は、返済できるあてがあるもの(公営企業など)か、公共的初期投資で将来償還できるもの(公共施設建設等)に限るということですね。
このあたりは、「地方債における建設公債の原則の位置付けと健全性に与える影響(浅羽隆史)」に詳しいです。
減収補てん債においても、まずこの原則に従うと。
その上で、それでもまだ財源不足が生じる場合は、第5条の特例として、その他の目的で発行することもできる。
なんだか便利。これ、減収補てん債の3点目の特徴と言っていいでしょう。
というわけで、減収補てん債が5条分と特例分に分かれているのは、こういう次第です。