これまで国の基準に準じて計算していた丹波市職員さんの給与の時間単価を、労働基準法の定めに従って計算するようにしたら、少しだけあがりそうだ、という話。
みなさん、自分の給与の時間単価ってどのように計算されますか?
そう、シンプルに「年間(基本)給与÷年間労働時間」で、1時間当たりの給与がでます。
時間単価が使われるのは、たとえば残業代の計算です。
時間単価に一定の掛け率(2割増しなど)を掛けて時間外や休日出勤時の単価とし、そこに残業時間を掛けることで、残業代を計算するんですね。
労働基準法では、この時間単価の計算の際、年間給与を割るときの分母となる年間労働時間は、休日数を引いて計算しなさいと定められています。
丹波市職員の時間単価を計算するときに、この労働基準法の方法を適用するようにします、というのが今回提案されている条例改正。
議案16号 丹波市職員の給与に関する条例及び丹波市会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する法律の一部改正
え、今まで労働基準法に従ってなかったの?
びっくりしちゃいますね。
でも、丹波市だけのことじゃなく、少しばかり奥深い話。
具体的にどう変わるの?
まず、もとがどうなっていて、それがどのように変わるか、見ておきましょう。
丹波市では、常勤の職員であれば1週間当たり38時間45分が労働時間とされています。これまでは、それに50週をかけて、年間の労働時間を算出していました。
38時間45分×50週(A)、ですね。
労働基準法では、年間労働時間は休日数を引いて計算することとしています。
丹波市の場合、1日の労働時間が7時間45分ですから、年間の労働時間は、次の式になるわけです。
38時間45分×52週‐7時間45分×年間休日数(B)
年間休日数は、「国民の祝日に関する法律」にある16日から土曜日を除いた日数に、年末年始の6日間の休日のうち土曜・日曜及び元日を除いた日数を足して算出します。
時間単価を求めるのですから、分子は「給与月額×12月」です。
さて。旧方式のAと新方式のBではどのくらい違ってくるのでしょうか?
現在の丹波市の職員さんの平均年齢が41.8歳。そこで40歳の平均給与をもとにして、旧計算法と新計算法における時間単価の違いを、令和5年度のケースで見ると。
- 旧計算法 1,862円/時
- 新計算法 1,915円/時
少し、高くなりますね。
年によって休日のまわりと週末の重なり具合が違いますから、この時間単価はあくまでも参考。毎年度ごとにほんの少し、違いが出てきますね。
なんで今まで労働基準法に従ってなかったの?
丹波市がこれまで労働基準法の算出法を用いていなかったのは、国の算定方式が上記Aで示した、休日を除外しない方式だったからです。
実はですね、国家公務員(一般職)の場合は、「国家公務員法」附則16条で労働基準法を適用しないとしているんです。
労働基準法ではなく「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律」によって規定されるため、独自の算定方法なのですね。
一方で地方公務員はどうでしょうか。「地方公務員法」第58条第3項で適用範囲が示されていますが、労働時間は労働基準法に基づくことになっています。
従って、時間単価の算出も本来的には労働基準法に基づかなくてはならない。
調べてみるとこの問題、5年ほど前に話題になったりもしていたようです(「地方公務員の残業代が過少?/時間単価の計算方法/総務省は労基法準拠求めるが…」)。
ただ、実は国家公務員の場合はAの方式といいつつ、52週を掛けているんです。この場合、休日が引かれない分、明らかに過小な時間単価になりますね。
一方で丹波市の場合は、50週になっています。合併前からのことのようですけれども。
とすると14日の違いですから、休日数と大きな違いはない。そんなこともあって、これまで切羽詰まって変更を迫られることが無かったようです。
そしてもうひとつ、微妙な事情もありました。
時間単価が上がって損するケースもある
時間単価が上がるのなら、しかも労働基準法に準じていないのなら、まず職員組合から突っ込まれそうです。
でも、実はここには微妙な事情があるようで。
というのはですね。
時間単価って、確かに上がれば、残業代が増えることになるので、良いことですよね。
でも、一方で困る人も出てくる。
それは、時短勤務を選んでいる職員さんです。
育児や介護等の理由から、「部分休」という時短勤務を選ばれている職員さんがいます。その場合、その方の給与は、本来の給与額から、「時間単価×時短分」を引かれることになります。
すると、そういう職員さんにとっては、手取りが減ることになりますね。
多様性のあるはたらき方を目指していこうという職場にあって、これはなかなか微妙なところです。
そんなわけで、丹波市でも令和2年1月から組合との協議が重ねられ、慎重な検討をした結果、今回の改正となったということです。
近隣はどうなっている?
兵庫県下21市の対応状況を確認しました。
多くのところが平成25年前後に改正を終えています。
おそらくはこの頃に、総務省から、地方自治体の職員は国家公務員に準じるのではなく労働基準法に準じるように、なんらかの見解が示されたのでしょうね。
その後、令和元年10月に、まだ改正がされていない自治体に対して、兵庫県から改善通知が届いたそうです。
それを受けて、その年から令和2年頃にかけてその他の市においても改正が進みました。で、残るはお隣の丹波篠山市と丹波市だけとなっていたのでした。
今回、ようやく足並みを揃えるというか、本来あるべき姿になるわけですね。
官吏と公吏、哀しき違いかな
以下は余談です。
今回いろいろ調べていてびっくりしたのは、国家公務員の特別扱いというか、違うんだ、というところでした。
基本的には公務員である以上、国民の生活を守らなくてはならず、民間企業を想定した労働基準法をそのまま適用できるものではない、との考え方があるのでしょう。
一方で、地方公務員は除外されている。これは地方公務員が軽くみられているというわけじゃなく、地方自治の理念が優先された結果だとの見方もできます。
いやはや、官吏(国家公務員)と公吏(地方公務員)。
調べる中で、渡辺賢 大阪市立大学教授の論考『なぜ国家公務員には労働基準法の適用がないのか』に出会いました。
わぉ、なんとGHQの頃のマッカーサー見解に遡るのか。
これ以上、沼に入るのは控えますが、いつもは「国に準じて」という言葉をよく聞くので、今回はなかなか面白い経験をさせていただきました。
国会の答弁対応などで深夜まで働く国家公務員さんの問題が取り上げられることがあります。その残業代の時間単価は、えらく低い水準で算出されている。
そんなことを知っただけで、夜中まで点灯される霞が関のビルを見る目線が変わりそうです。