「議員定数・報酬等調査特別委員会」に関連して、「適正な議員定数を考える」で、主として議員定数についての論点を紹介しました。
今回は、議員報酬について考えます。
議員は名誉職か専門職か
議員報酬を議論する際、ときに「海外のように無報酬でええやん」という声を聞きます。政治制度が違う国と比較するのも乱暴な気がしますが、まずは参考に調べてみます。
無報酬として知られるのは英国の上院議員ですね。歴史上、貴族が務めるものと決まっていて、資産もあるし名誉職として受け入れられてきたという経緯があります。
英国では地方議員も同様に名誉職と位置づけられ、無報酬とされてきました。最近では貴族以外が地方議員を務めるようになっており、年間100万円~200万円の「(報酬ではなく)手当」が支給されたりもしているようです。
その分、法律で義務付けられているのは年1回の本会議のみ。議会が開催されるのは夜間か休日。兼業できる仕組みだし、拘束時間も少なそうです(参考:総務省「諸外国における地方自治体の議会制度について」、自治体国際化協会「欧米における地方議会の制度と運用」)。
これ以上細かく比較はしませんが、読み取っていただきたいのは、議員を「名誉職」と考えるか「専門職」と考えるかで報酬に対する考え方は大きく違うということです。
名誉職と考えるなら無報酬、専門職と考えるならそれに応じた報酬は必要です。
日本では、戦前まで議員は名誉職と考えられ、報酬もありませんでした。
戦後の民主化、選挙権拡大に伴ってこの考え方は廃止され、1947年の地方自治法制定に伴って報酬支給が義務とされました。
こうした経緯から、日本では地方議員は専門職という位置づけが基本と考えてよさそうです。
議会をめぐる最近の議論
つい最近、小規模の町村議会を中心に、議会のあり方を見直すべきという議論が盛り上がりました。きっかけとなったのは2017年、高知県大川村で、議員のなり手不足から議会を廃止して住民が直接議案などを審議する「村総会」を導入する検討を始めたことでした(結果的には議会存続)。
総務省の検討会で、議会の姿として「多数参加型」及び「集中専門型」が検討されたこともありました(「町村議会のあり方に関する研究会」参照)。
多数参加型は、無報酬で多くの議員が夜間等に議論する姿、集中専門型はしっかり報酬を得た数人の議員が議論する姿。前者はボランティアによるまちづくりミーティング、後者は企業の取締役会のイメージに近いかもしれません。
ぼくとしては、「多数参加型」はむしろ執行部の行政過程に組み込むものである気がします。実際、各種委員会や懇談会等での市民参加が進んでいますし、それをさらに進めなくてはいけないところでもあります。
一方の「集中専門型」。本当に専門的能力のある人が数人いれば、行政監視は働かせられそうで、一定の魅力を感じます。ただ、市民の多様な意見は反映しづらいかもしれません。ぼく自身も議会の中で、他の議員さんからの意外な視点に学んだり、それらの視点を組み合わせて提言書をまとめたりといった流れに魅力を感じています。
いずれにせよ、「全国町村議会議長会」「全国市議会議長会」「日本弁護士連合会」等の意見を受けて制度化は見送られました(参考「自治総研通関480号資料」)。
したがって、ここではこれ以上深く触れません。
「報酬」って「給与」と違うの?
さて。そもそも「報酬」ってどういう性格のものかご存知ですか?
デザイナーにデザインを頼んだり、弁護士に助言を得たりする際に支払うのが「報酬」ですね。つまり、一定の作業や役務に対して支払われる反対給付が「報酬」です。
これに対して「給与」の場合は、報酬ほどの等価交換的要素はなく、いわば生活保障給、生活給付的色彩が濃いものです。
この反対給付か生活保障給かという視点も、議員報酬議論の論点です。
地方自治法においては、203条で議員報酬について規定されています。
ここは2008年の改正で大きく変わったところでした。
改正前、議員報酬はその他の非常勤職員の報酬と同一の並びで規定されていました。非常勤職員というのは、委員会や審議会に出席される委員さんや、選挙時の開票立会人などを指します。
現在、それら非常勤に対する報酬規程は203条の2に移され、以下のように記されています。
第二百三条の二 普通地方公共団体は、その委員会の非常勤の委員、非常勤の監査委員(中略)に対し、報酬を支給しなければならない。
地方自治法
②前項の者に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。
(後略)
どうでしょうか。2項に、非常勤職員への支払いは勤務日数に応じるとあります。反対給付の考え方ですね。
ということは。
2008年の改正以前は、議員報酬も反対給付的な考え方の色合いが濃かったということなのでしょう。少なくとも明確な違いはなかった。
それは違うんじゃないか。議員の身分、職務を明確にする必要があるのではないか。そんなところから、2008年の地方自治法改正に至ったわけです。
現在、議員については次のように別建てで記されています。
第二百三条 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。
地方自治法
②普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。
③普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる。
(後略)
期末手当まで規定されているあたり、一般職の生活保障給に近い考え方になったということです。
ただ、改正を経ても結局「議員報酬」という名称が残ったあたり、中途半端というか、分かりづらい結果となりました。
このことは、国会議員に対する支払いが「歳費」と呼ばれていることと比較すると理解しやすいでしょう。
歳費は、「給与」の国会議員向けの呼び方です。生活保障給としての性格を有します。
現在に至っても、議員報酬は日当制にすべきだという議論があります。福島県矢祭町のように、制度変更した自治体も出ました(後に続くところはありません)。
議員報酬は反対給付か生活保障給か。最終的な結論は出ていないと言わざるをえません。
丹波市議会議員はいくらもらっている?
丹波市議会議員の議員報酬額は、月額346,000円です。議長、副議長、委員長、副委員長には加算がありますが、ここでは基本的な報酬を基本に考えます。
6月及び12月には期末手当も支給されます。基本月額を1.1倍(加算率)して、6月に1.85カ月、12月に1.95カ月分が支給されます。
年間にすれば、報酬月額合計が4,152,000円、期末手当で1,446,280円加算されるので、額面で5,598,280円ということになります。
これ以外の支給として、一般職と同じ交通費基準表に基づいた「費用弁償」が行われます。自宅から議事堂までの距離に応じて400円~1,600円を単位として、公式な会議への出席日数をかけた金額です。
人によって差がありますが、20人の合計で年間約150万円です。議事堂に近い議員は月額2、3千円程度だったりもしますし、遠い議員は1万円を超える月もあるだろうという計算です。
また、よく知られているものとして、政務活動費があります。丹波市議会の場合は、個人への支給ではなく会派への支給となっており、活動報告と請求に基づいた後払いです。
月額にして、1人あたり10,000円が上限となっています。視察の旅費や議会活動の報告等の経費に充てるものとされています。おおむね7~8割程度の執行率です。
さて、これらの支給が妥当かどうか?
「次ページ」で検討しましょう。