類似団体・近隣団体はどうなっている?
議員報酬もまた、絶対的基準として「これが良い」という水準はありません。
手がかりのひとつとして、議員定数と同じく、類似団体・近隣団体との比較を参考にすることにします。
令和2年の数字を拾います。
市名 | 議員報酬 | 期末 | 加算 | 合計額(年) | 政務活動費(年) |
高砂市 | 522,000 | 4.40 | 1.00 | 8,560,800 | 300,000 |
豊岡市 | 360,000 | 4.45 | 1.15 | 6,162,300 | 120,000 |
三木市 | 423,000 | 4.45 | 1.15 | 7,240,700 | 60,000 |
たつの市 | 404,000 | 4.45 | 1.15 | 6,915,400 | 240,000 |
丹波市 | 346,000 | 3.80 | 1.10 | 5,598,280 | 120,000 |
丹波篠山市 | 350,000 | 4.45 | 1.10 | 5,913,250 | 240,000 |
西脇市 | 333,000 | 4.45 | 1.10 | 5,626,000 | 44,500 |
朝来市 | 324,000 | 4.45 | 1.10 | 5,473,900 | 120,000 |
丹波市は、規模が同じ5~10万人の類似団体と比較すると際立って低く、近隣市と比べても低い水準ということが分かります。
基本月額が低いことに加え、期末手当の支給水準も、他自治体がほぼ4.45カ月分であるのに対し3.80カ月分と低くなっていることが要因としてあげられます。
他の市議会では、期末手当の支給率を一般行政職員さんと合わせているところが多いのですが、丹波市議会では、職員さんがあがっている中でも、長く据え置いてきました。
コロナ禍で市民生活が苦しい中ではできない相談ですが、こうした比較からすれば、将来的に他自治体に負けない水準にすべきではないかとの意見もあります。
市の財政状況から見て議員報酬は適切か?
平成に入ってから目立っていたのは、行財政改革の中で、市長などの特別職が報酬を削減するのに合わせて、議会も身を切る姿勢を見せる流れです。
確かに、財政が厳しいのに、お手盛りの報酬を自分たちには出すなんてことは控えるべきでしょう。
では、市の歳出総額に対して、議員報酬等はどのくらいの比率を占めているのでしょうか。令和元年度決算をもとに調べてみました。
丹波市の場合、歳出総額357億868万円に対して、議員報酬等合計額は1億1,180万円です。比率にすると、0.313%。
どのくらいなら良いという水準はないので、他の団体と比較してみましょう。
類似団体では、高砂市0.412%、豊岡市0.315%、三木市0.373%、たつの市0.441%となっていました。一方、近隣団体では丹波篠山市0.435%、西脇市0.444%、朝来市0.464%です。丹波市は控えめと言えます。
歳出ではなく、市の独自財源である地方税収入に対して、報酬額はどの程度の比率でしょうか。丹波市の場合、歳入374億1,995万円のうち地方税収入(個人及び法人住民税、固定資産税)は73億6,968万円です。これに対する、先ほど紹介した議員報酬合計額の比率は1.517%。
類似団体では、高砂市1.112%、豊岡市1.640%、三木市1.172%、たつの市1.605%。近隣団体では丹波篠山市2.036%、西脇市2.140%、朝来市2.448%です。
地方税収入のうち議員報酬等に回す額の比率について、高砂市、三木市よりは多めですが、その他の自治体と比べれば控えめです。
では、財政力指数を基に考えてみるとどうでしょうか。
「適正な議員定数を考える」でも紹介したように、財政力指数というのは、基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値で、地方公共団体の財政力を表す指数として用いられます。丹波市は0.44です。
『日本の地方議会』(辻陽)によると、全国議会の議員報酬は、7割近くは次の算式で説明できるといいます。
4.97×人口(千人)+2,980,000×財政力指数+4,350,000
ここに丹波市の人口と財政力指数をあてはめると次のようになります。
314,278+1,311,200+4,350,000=5,975,478
年間約600万円。類似団体には届きませんが、丹波篠山市並という感じです。
ただ、この算式はあくまでも現状の報酬額をもとに分析するとこうなったということで、これが正しい導き方というわけではありません。
財政の観点からは、議員報酬を増やす余地が無いとはいえない、というくらいで受け取っておきましょう。
市民感覚と議員報酬
ここまで、丹波市議会の議員報酬を、他の市議会との比較及び財政的な観点から見てきました。
実は、1960年頃に議員報酬の水準について、国からひとつの目安が示されたことがありました。議員報酬は職員部長級クラスが適当であるとか。
当時は高度成長期で、自治体議会もまた「報酬倍増」じゃないですが、お手盛りをしがちな風潮があったようで、当時の自治省としてはキャップをかける意味でそうした通達を出したりもしたようです。
現在ではそうした考え方はありません。実際、ここで紹介した自治体の部長級クラスの方は、議員報酬より多くの収入を得られているものと推察します。
ただ、確かに議員としては、部長級以上に勉強し、意思決定水準としてはより広く高い観点から行うくらいの専門性を持ちたいものです。
先ほど紹介した国会議員の「歳費」の場合、国会法で次のように規定されています。
第三十五条 議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける。
国会法
国会議員の歳費は、一般の国家公務員給与の最高額より多くないといけないと。
地方議員の場合は、先ほどお伝えしたように「歳費」と同様の位置づけはされていません。とはいえ、一般の地方公務員の給与も参照はしておきましょうか。
丹波市職員の方の最高額は分かりません。「平成31年度 丹波市の給与・定員管理等について」によれば、1人当たりの平均が年間約583万円です。
丹波市議会議員の報酬は、職員さん平均より少な目っていうことですね(職員さんが多すぎるという話ではないので念のため)。
一方で、庶民感覚としてはどうでしょうか。
丹波市民の平均所得(課税所得総額を納税者数で除算)って、およそ280万円だそうです。ぼくも会社を経営していた頃は、従業員様に月給30万円を支払うとなると相当頑張らなくてはならない感覚でしたし、パートさんなら月15万円いくかどうか。
そうした感覚からすれば、議員報酬で年間500万円を超えていたら十分だろうっていう率直な思いもあります。
一方で、議員というのは4年ごとに失業し、再就職(再選)への努力が欠かせない職業です(退職手当はありません)。また、社会保険も自分の国保だけですし、失業保険も特別な年金もありません(昔は議員年金がありましたが廃止されました)から、老後の心配もそれなりに切実です。
全国市議会議長会では、議員について職員と同じく厚生年金に加入できるようにしてはどうかという意見があるそうです。確かに老後の安心にはつながりますが、市の財政負担を伴う(厚生年金は半額を雇用主=議員の場合は市=が負担する)ことから、丹波市議会では意見書の提出を見送っています。
いずれにせよ、いま全国的な議論として、若い人が意欲(魅力)を持てる報酬等の額にする必要があるという指摘があることは、意識しておく必要があります。
そもそも報酬に見合うだけ働いているの?
議員にとってもっとも耳が痛いのが「報酬だけの働きをしているか」という問いです。なにせ報酬の原資は市民の皆様からの血税です。
議員報酬を反対給付的にとらえるなら当然「報酬に対応したはたらき」が問われますし、歳費のような生活保障給的にとらえても、「期待された専門性を発揮しているか」が問われるには違いありません。
議会の公式な「会議」は、本会議、常任委員会(協議会)、議会運営委員会、特別委員会、議員総会です。
丹波市議会の場合、これら合計でおよそ年間160回開催されています。会議の種類によって委員になっていない会議もありますので、1人の議員が実際に出席する日数(回数)はこれよりは少なくなります。
また、会議のある日も、朝から夜まで1日会議という日はそう多くありません。
一方で勤め人の場合、週休2日として年間労働日数は250日弱でしょう。
こうした比較からすると、「むっちゃ少ないやん」みたいな感覚はあります。
もちろん、ただ漫然と会議に出るわけにはいかないので、当然議案研究等にも時間をかけます。関連する書籍に目を通したり、市民の声を聴いたりも。
仮に1回の出席に対してそれらに1日かけているとすれば、会議日数の倍、320日は働いているということになります。
また、議会の活動は会議のある日だけでありません。市民との意見交換会も議会活動の一環ですし、会派での勉強会や視察研修なども必要です。
他にも地域の行事への出席や、市民の方の相談に乗ったりにも時間をとられます。
ぼくだとこうしたブログを書くのも、ある意味議員活動。こう見えて、1つのエントリーにつき1日半程度は時間がかかるかな。年間50エントリーくらいあるから、それだけで75日ということになりますね。
まぁ、このように考えていくと、時間があるように見えつつ、けっこうな拘束をされるのが議員という立場です。
いずれにせよ。
いくらこうして述べたとしても、これら議員の忙しさっていうか「働き」が、しっかり市民に伝わっていないし、市民もその恩恵を感じられていないっていうのが、現状であろうと反省しています。
これでは、議員報酬への理解にはほど遠いのも仕方ありません。
日本では日常生活で「政治」の話はタブーみたいな空気感、ありますよね。
議員一人一人はもちろんですが、議会報をはじめ、議会としてももっともっと努力が必要であると自覚しています。
欠席等への対応は?
ところで、一般の報酬だと対象となる役務を果たせなければ、支払いが停止されますよね。一方で給与の場合は生活保障給なので、有給休暇が認められている。
議員報酬はどうでしょうか。
実はこれもややこしく、繰り返しているように、議員報酬には生活保障給的な性格があるため、欠席しても議員報酬が減額されることはありません。
しかし、議会への出席は何よりも優先されるのが実情。なので、ふだんから急遽はずせないような用事を入れることは避けることが望まれますし、急な出席要請に対応できないような海外旅行も論外です。
よく例に出されるのですが、親の葬式でも議会は休めないという。ただ、休んだからといって減額されるわけではなく、このあたりは自覚の問題です。
これまで、正当な理由として欠席を認められるのは、自分の病気や出産、災害等だけでした(議長への届出が必要)。
一方で生活への配慮が欠かせないのも最近の流れで、丹波市議会でも今年の4月から丹波市議会会議規則を次のように変更して、欠席理由の幅を介護や育児まで拡げました。
第2条 議員は、公務、疾病、育児、看護、介護、配偶者の出産補助その他のやむを得ない事由のため出席できないときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない。
丹波市議会会議規則
産休は産前6週間、産後8週間という範囲です。実はこうした制度変更ひとつするにあたっても、市民の理解を得られるか、とても気にしながらの改正でした。
欠席理由を広げたものの、それが長期にわたった場合でも報酬が出るのは問題ではという指摘があります。
これに対して、県下6市で制定されているのが「特例条例」です。議員活動ができない期間に応じて、議員報酬の割合を減額する規定を定めるものです。
たとえば90日から180日の欠席で2割減、180日から365日で3割減、それ以上で5割減などです。
公務災害などは別にするとして、丹波市議会でもこうした特例条例をあらかじめ制定しておくことが必要ではないかと議論しています。
その他の関連する点について
交通費に相当する「費用弁償」という仕組みについては、実は実施している市は少数です。県内では養父市、宍粟市、豊岡市、朝来市など。
費用弁償を行うには、事務作業として議員ごと出席ごとに集計しなくてはならず、煩雑です。事務コスト削減の観点からも取りやめれば良いとの指摘があります。
一方で、広い市域の中では、議事堂まで10分の議員と、1時間かけて来なくてはならない議員の間での不公平ということが気になります。
お気づきかもしれませんが、先述した県下で費用弁償を行っている市は、面積が400㎢を超えるところが主です。無くしたいけど踏み切れないというのが正直なところかもしれません。
政務活動費についてはどうでしょうか。
丹波市議会は1万円と県下でも最低水準で、何らかの調査研究を行おうとすれば、やはりこれくらいは必要です。
実は従来の政務活動費は先払いだったんですね。それが全国的に不透明な運用を生んでいた側面がある。
丹波市議会では、活動を行った後、半期ごとに取りまとめて、活動報告書と共に領収書を添付して請求することで、会派の口座に振り込まれる仕組みです。
議員報酬に含んではどうかという考え方もありますが、そうすると調査研究しない議員の方が手取りが多いなんて心配も。
透明度については、後払いとしたこと、領収書等を公開することで、確保されているのではないでしょうか。
あとは、調査研究した活動成果を市民にしっかり還元し、説明できているかということが問われますね。
政務活動報告会を市民向けに行うといったことも一案ですが、何より重要なのは、市政が直面する諸課題を適格にとらえ、効果的な調査研究を行うことで政策に反映していくことであろうと考えます。