国民健康保険税がどのように決まっていくかについては「国民健康保険税の決まり方と財政」で解説しました。
振り返っておくと。
- 丹波市の国民健康保険給付費は50億円。
- これを公費と被保険者で折半するのが原則。県から被保険者負担分の額が示されるので、市が徴収して県に納付する。
- 単純計算では25億円が徴収すべき自己負担分(国保税)
- 高額医療費や特定健診事業は、国及び県から支援(計‐7億円)があるので差し引いて18億円
- 丹波市独自で事務費や特定健診費(計+2億円)を負担するので20億円
- ただし県からの繰り入れ(約‐2億円)があるので18億円
- 所得や未就学児割などのための費用を国や県から支援(‐3.5億円)されるので14.5億円
- 収納率で割り戻して15.1億円
- これを被保険者数で割って納付額を算定する
以上の流れで、一人当たり保険料が決まるわけでしたね。
協議会でどんな案が議論されたか?
毎年この時期になると、国民健康保険運営協議会の答申に基づき、被保険者が支払う国保税の額について、条例改正が提案されます。
・議案19号 丹波市国民健康保険税条例の一部改正
今年度は、次の通りの改正です。
- 基礎課税額の所得割 8.00%→7.20%
- 後期高齢者支援金等課税額の所得割 2.55%→2.30%
- 介護納付金課税額の所得割 2.75%→2.45%
「国民健康保険税の仕組み」で紹介したように、国民健康保険税は、所得の額に比例して納める「応能割」と、定額で決まっている「応益割」からなっています。
また、「医療給付費分」「後期高齢者支援金分」「介護納付金分」それぞれを足して納めるのでした。
協議会に提出された試案別税率表を以下に示します。
A案が据え置き、それに対して、「応能割」の比率を変えたB案、C案が示されています。いずれも応益割は変更なしです。
さて。
応能・応益割合というのは、応能(所得割)で徴収した保険税合計と、応益(均等割と平等割)で徴収した保険税合計との比率です。
16憶円を徴収するとして、応能で集めた額が8億円、応益で集めた額も8億円なら、50:50ということになります。
来年度は議論の結果、B案に決定したということ。
減っていく被保険者の現状
もう一度、比較表をご覧ください。
「医療給付費分」「後期支援金分」「介護給付費分」とも、もっとも左に令和4年度の数字があり、その隣に、令和5年度の据え置いた場合の数字が入っています。
ここを見比べてください。
お気づきになるでしょうか、税率は据え置きの案なのに、次のような違いがありますよね。
- 応能・応益割合が変化している
たとえば医療給付費分。令和4年度の応能・応益割合は50:50です。据え置く場合は、これが52:48になると予測されている。決定したB案は、所得割を下げることで、これを50:50にしている。 - 一人当たり保険税はあがっている
たとえば医療給付費分。令和4年度一人当たりの保険税は79,196円です。据え置きの場合は84,240円とあがっている。所得割を下げることで、これを80,266円に圧縮しています。それでも1,070円の増。
このことから何が見えてくるでしょうか。
国保の被保険者数は令和4年度12,578人が令和5年度11,652人と減少する予測です。
その多くは、後期高齢者制度への移行による減少です。また、会社の社会保険に移行する方もいらっしゃいます。
このことをふまえると、低所得者が多く減少したのだろうと推測されますね。年金生活の後期高齢者の方もそうですし、最近は社会保険をパートなどに拡大し、そうした方が国民健康保険から会社を通した社会保険に移っていると考えられる。
そうすると、残る被保険者は所得が多めの方の比率が高くなりますから、同じ所得割のままだと、所得割からの収納割合が増えてしまうわけです。
なので、同じ50:50にするには、所得割の税率を下げなくてはならない。
税率を下げたのに一人当たり保険税があがっている、というのも直感的につかみづらいですが、同じ理屈です。
全体的に所得が多めの方の構成比が高まっている。なので、個別の一人の保険料では下がるわけですが、全体として、多めに払っている人の割合が増えるわけです。
なお、医療の高度化の影響もあるのでしょう、1人当たりの医療費が増加傾向で続いていることは意識しておきたいです。2010年あたりは35万円ほどだった一人当たり医療費が、今や45万円ほどになっています。
県下での国保料統一に向けたロードマップ
現在、国民健康保険は市町村から県に一本化され、市町村は窓口業務のみとなっています。県からは令和4年11月に、統一に向けたロードマップが示されました(「兵庫県における保険料水準の統一に向けたロードマップ」参照)。
先ほどの比較表に「標準」とあったのにお気づきだったでしょうか。
これは、「市町村標準保険料率」で県が示す標準税率のことです。現在は各市町で別の税率になっていますが、県としては令和9年度までにこれを統一することを目指しています。
その上で、その標準保険料率に、令和12年度までに全市町が揃えると。そうすることで、県内のどこに住んでも同じ国保税にしたいと。
このとき、何が起こるでしょうか。
たとえば市民の所得水準や保険料の収納率、被保険者数が同じA市B市があったとします。
現在の県の基準では、これら二つの市の県への納付金は同じです。
しかし、仮に同じ納付金でも、二つの市では特定健診について力の入れ方が違うなど「個別経費」に差がありますし、各種の事情に応じた国等から得られる「個別公費」についても差があります。
仮に県への納付金がA市B市とも50億円だったとして。
A市では特定健診事業に力を入れるなど個別経費が20億円かかっている、だけどB市では10億円かかるだけだったとします。
一方、国費等の個別公費を見ると、A市は15億円だけなのに、B市には20億円が入っているとします。
計算するとどうなるでしょうか。
A市は県への納付金50億円に20億円の経費を足し、国費等の公費15億円をひいて55億円を、市民で割ることになります。
B市は県への納付金50億円に10億円の経費を足し、公費20億円をひきますから、40億円を、市民で割ることになります。
こうなると、同じ被保険者数ですから、A市とB市は保険税に大きな差が出ますね。
これを県では統一したいと。
導入される「相互扶助」
統一にはどうすればいいでしょうか。
一つは、両市の特定健診など個別経費の水準や、国等からの公費の水準を合わせていく、つまり平準化することです。
A市には過剰なサービスをやめて、経費を20億円から18億円まで減らしてもらう一方、B市には経費を10億円から15億円に増額しサービスの充実を促す。
また、国費等の公費についても、合わせていくようにします。B市は20億円の維持を図ってもらうとして、A市には頑張ってもらって少しでも増やし、公費を16憶まで引き上げてもらう。
これでA市は50億円+18億円‐16億円で52億円。B市は50億円+15億円‐20億円で45億円。
まだ、52億円と45億円で差がありますね。そこで、県としてはこれまで50億円で同じだった納付金を、A市とB市で差をつける。
A市は48億円として、B市は55億円にする。
これでA市は48億円+18億円‐16億円、B市は55億円+15億円‐20億円、どちらも被保険者から徴収する保険料は50億円です。被保険者数は同じですから、これで、両市とも保険料水準があうことになります。
こうして納付金を調整することを、兵庫県では「相互扶助」と呼んでいます。
ただ、これを一気に進めると被保険者が負担する保険料総額が、A市は55億円から50億円に減る一方、B市は40億円から55億円に急増しますよね。
これでは激変すぎるので、令和5年度から5年間かけて、20%ずつ変化させていきましょうと。
つまり相互扶助導入初年度の県への納付金は、A市だと55億円から50億円に向かう5億円のうちの20%、つまり1億円だけをまず下げて54億円とし、B市だと40億円から55億円に向かう差15億円の20%である3億円を足して43億円にしますと。
より細かいことを言うと、B市のような場合、相当増えることになるので、県の基金を利用して、緩和措置がとられることにはなっています。
こういうことが、令和5年度から始まっています。
ちなみに丹波市の場合は、来年度から県への納付金は8,600万円減るのですが、そもそもの被保険者も減っているし、さて相互扶助分がどのくらい影響しているか、個別に算出するのは難しいそうです。
そんなものなのかー。
個別公費と個別経費
上記で、それぞれの市町独自で得る国費等の個別公費と、独自に行う個別経費について触れました。
以下は専門的な話ですが、個別公費や個別経費にどのようなものがあるか、一覧を記載しておきます。
- 個別公費
保険者努力支援制度
特定健診負担金
県2号繰入金
国特別調整交付金
地方単独事業による波及繰入金
財政安定化支援事業
出産育児一時金繰入金
保険者支援制度
過年度収入 - 個別経費
保健事業
直診勘定繰出金
特定健診に要する費用
条例減免
任意給付
先に「国民健康保険税の決まり方と財政」でさまざまな費用の流れを紹介しましたが、そうした複雑な流れの中にある費用がこれらということになります。
出産育児一時金が引き上げられるよ
国保税の話ではないですが、国民健康保険関連の話をもうひとつ。
・議案20号 丹波市国民健康保険条例の一部改正
令和5年2月1日、「健康保険法施行令等の一部を改正する政令」が交付され、4月1日から下記の改正が施行されます。
出産に係る経済的負担を軽減するため、健康保険の被保険者又は被扶養者が出産したときは、健康保険法(大正 11 年法律第 70 号)等に基づく保険給付として、出産育児一時金等を支給している。
今般、出産育児一時金等の支給額について、社会保障審議会医療保険部会の「議論の整理」(令和4年 12 月 15 日)において、「出産育児一時金の額は、令和4年度の全施設の出産費用の平均額の推計等を勘案し、令和5年4月から全国一律で 50 万円に引き上げるべき」とされたことを踏まえ、健康保険法施行令(大正 15 年勅令第 243 号)等について所要の改正を行う。
話題になった、出産育児一時金等を現行の42万円から50万円に引き上げるっていう話ですね。
それを受けた条例改正が上記のもの。
内訳としては、出産育児一時金が48万8,000円、産科医療保障制度加算額が1万2,000円で、合計50万円です。
なんで二つに分かれてるのって思った方は、以前のエントリ「出産育児一時金はどう決まっているか」を参照ください。