市長が議会を通さずに決裁する「専決処分」。
これについては、「議会を通さない市長による専決処分」で紹介しました。
地方自治法180条に基づいて、丹波市議会では平成21年3月に「議会の委任による市長の専決処分について」という議決を行っており、裁判の提訴や和解、債権放棄など、その額が300万円以内であれば、議会の議決が不要で、市長による専決処分ができるとしています。
電子文書システムに登録して終わりの「議会への報告」
地方自治法から引用します。
第180条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
2 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
報告って言うと、市長が登壇して口頭報告するイメージですね。でも、そうとも限りません。
丹波市議会では、専決処分の報告は、電子文書システムへの登録によって行われます。そして登録した旨、本会議で議長が伝達することで完了します。
専決内容の読み上げはされませんし、質疑もしない申し合わせです。
ただし本会議に先立つ議会運営委員会では、専決処分の内容について執行部から説明があり、質疑も可能です。
ただ、前述の次第なので、議会運営委員会の委員以外の議員は、質疑の機会がありません。
通常、報告事項と言えば公用車の事故に伴う保険適用などが多いため、こうした運用でも特段の不都合はありませんでした。
いくら300万円以内とはいえ…
ところが今回、裁判の和解に伴う専決処分について報告がありました。
裁判所からの勧告に従い、相手側から70万円の解決金が支払われることで、和解するというものです。
70万円ですから、先の議決に従って専決処分の対象です。
でも実はこの裁判、丹波市が相手側に対して3,472万円の損害賠償を請求する内容でした。訴えるときは、議会で議決しています。
災害復旧工事に伴う地元負担金が出ないように補助金を過大に受給したとして、過大分を賠償するよう訴えていたものです。
しかし裁判所からの和解勧告は、丹波市が請求する根拠に乏しいことを指摘するような内容(「災害復旧という非常時の対応として致し方ない面があった」)。損害賠償ではなく「解決金」とされているように、実質的には、市の訴えが認められたとは言い難いものと、ぼくは受け止めています。
和解に先立って、議員総会で一定の説明はありましたが、実際の和解に至る前とあって非公開で、なんとなく踏み込んだ質疑をしづらいケース。
そうした中での今回の専決処分の報告です。一部の議員からは、もう少し踏み込んで事情を確認したいという声もありました。
訴えたときの金額に関係なく、専決の基準は和解時の金額となります。なので、こうした事態も起こってしまいます。
なかなか難しいものです。
なお、今回の裁判については、ぼく自身、訴えの提起についての採決の際、軽率な判断をしてしまったのではないかという忸怩たる思いがあります。
議会として100条委員会で調査し、そこでの議論に添った流れという認識から、安易に賛成してしまった面がないとは言えません(ぼくは委員会に参加していませんでした)。
率直に、反省しています。
今、それぞれの議案に対して納得いくまで研究し、自分なりの哲学を持って判断するように心がけているのも、あの時の反省があってです。
専決できる、できないの境界事例
さて、今回の定例会では、専決処分の境界について、まさにこれ、という事例もありました。
・議案17号 権利の放棄
「住宅資金貸付金」の返済がされていないものについて、その債権を放棄するという議案です。
放棄する債権の額は450万円。貸付額約570万円のうち120万円までは返済されてきましたが、残りは返済されないまま、現在では当事者及び連帯保証人とも死亡。こうしたことから回収を諦めますということです。
この事案とは別に、今回の議会には、同じ「住宅資金貸付金」2件合計89万円分の債権放棄を専決処分したと報告があがっています。
300万円という金額を境として、一方は議決の必要があり、一方は専決処分されている。
そういうことですね。
ちなみに今回、他にも債権放棄されているものがあります。「水道料金」451件338万円分です。
実は水道料金は毎年このくらいが放棄されています。451件というのは請求毎の件数で、契約世帯数としては毎年30世帯程度でほとんどが住所不明、その他は破産等です。
一方で、「住宅資金貸付金」の債権整理は、今回が初めてです。決断に至るまでに、どのような経緯があったのでしょうか。
債権放棄の決断に至るまで
「住宅資金貸付金」制度は人権対策に関わるもので、平成8年度までで貸し付けは終了しています。貸付金全体では62億4200万円余りの利用があり、61億5700万円までは返済が済んでいます。
償還期間は最長25年。それも過ぎ、滞納繰越のみが残っている状況となりました。こうしたことが、今回の整理の背景にあります。
債権の時効は10年だそうですね。なので、債務者から民法145条に基づいて時効の援用があれば、それ以上の回収はできません。丹波市としては「不能欠損処理」を行うことになります。
これまで不能欠損処理が行われてきた額は約1,900万円。残り6,600万円余りが滞納として繰り越されている現状です。件数としては約40件、300万円以上は、今回のものを含めて6件です。
さて。滞納に対して市としては請求を続けるわけですが、それでも返済が認められない場合は、法的措置を行うことになります。
一方で、債務者が行方不明になっていたり、相続関係が複雑になっていたりして回収が困難な場合は、債務放棄を検討することになります。
また、債務者が生活保護を受給していたり、破産により免責許可になっているような場合、仮に差し押さえたとしても、債務者の財産が強制執行の費用に見合わないことが考えられますよね。そんなケースも「債権放棄」を選択することになる。
なお、仮に回収するとしても、遅延損害金まで請求するとなると弁済が追い付かず、現実的に完納が困難であることが明らかなので、道義的な観点から、元本と利息分のみの請求としているとのことです。