過疎法ってご存知ですか?
いわゆる過疎地域を対象にしていろいろお得なことがあるようだけど、丹波市ではこれまで適応が無かったので、ぼくも「あるんだなぁ」くらいの認識でした。
歴史をたどれば、1970年に10年の時限立法として成立した「過疎地域対策緊急措置法」が始まりで、4次にわたって制定されてきた経緯があります。
そして2021年4月1日、第5次となる「過疎地域持続的発展の支援に関する特別措置法」が施行されたのです(以下「新過疎法」と呼びます)。
このタイミングで丹波市で過疎法が話題に上るのは、今回の新過疎法から丹波市の青垣地域が対象地域に追加されたからです。
というのは、新過疎法では、過疎地域の対象として新しく合併前の市町村を単位とできるようになったのです。
この単位で見たとき、旧青垣町の人口減少要件が、新過疎法の要件に合致していると(参考「過疎法改正関係資料」)。
過疎地域の要件とは?
では、具体的に新過疎法ではどんな地域を過疎地域と定義しているのでしょうか。
新過疎法でどう変わったかを説明されている総務省の資料から、引用しつつ紹介します。
- 長期の人口減少率の基準年の見直し(昭和35年→昭和50年)
過疎ですから人口減少は当然の要件ですね。その基準年が昭和35(1960)年という高度成長期前の人口から、昭和50(1975)年という安定成長に移る頃の人口に変更されました。その結果要件から外れる地域もありますが、継続措置として現在の対象地域は昭和35年人口基準も併用可能です。青垣地域の場合、昭和50年の人口は8,350人(昭和35年は10,270人)で、この人数が算定基準になります。 - 財政力が低い市町村に対する長期の人口減少率要件の緩和(28%→23%)
青垣地域の平成27(2015)年の人口は6,007人。昭和50年と比べて2,343人減少しています。減少率は28%なので緩和の有無に関係なく要件にあてはまります。なお、ここでいう財政力は「財政力指数」でみます。財政力指数とは基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の過去3か年の平均値(「基準財政需要額と基準財政収入額-地方交付税はこう決まる-」も参照)。丹波市の場合、令和2年度で0.437です。 - 平成の合併による合併市町村の「一部過疎」の要件設定
これが今回大きいです。財政力指数は市町村平均(0.51)以下ではなく市平均(0.64)以下で判断するということで、丹波市の0.437はいずれからも低くなっています。一方で人口は、丹波市全体では昭和50年の72,401人から平成27年は64,660人と7,741人減、減少率は10.6%ですから、市全体を対象とするなら過疎地域にはなりませんでした。これは他の旧町地域も同様で、次に減少率が高い山南地域で20%程度とやはり上述の要件23%に届きません。
ということで、ざっくり表現するなら、市町村または合併前の旧市町村域で、昭和50年の人口と最新の国勢調査人口を比較して、25%前後人口が減っているのが「過疎地域」ということです。
新過疎法に基づく計画の策定と課税免除
新過疎法では、8条で「過疎地域持続的発展計画」を策定することが求められています。この計画に入っている内容に対して、各種の支援策があるわけですね。
たとえばこの計画に基づいて固定資産税等を免除する場合のこととして、新過疎法24条で地方交付税の算定にあたって不利になることが無いように定められています。
それを受けて今回提案されているのが次の2議案。
議案67号 丹波市過疎地域持続的発展計画の策定
議案68号 丹波市過疎地域における固定資産税の課税免除に関する条例の制定
ちなみにもともと地方公共団体が徴収する税率等は、地方公共団体の自由なんです。
第六条 地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては、課税をしないことができる。
地方税法
2 地方団体は、公益上その他の事由に因り必要がある場合においては、不均一の課税をすることができる。
ね。
ただ、高めの税率を課すのは自治体間の競争上不利だし、低めに設定すると、地方交付税の算定に響いて収入減につながる。
そんなわけで現実的には、どうしても横並びになってしまうのですが。
地方交付税の算定に響かないなら、固定資産税を下げて企業誘致を優位に進めたい。
ということで、丹波市でも青垣地域で製造業や旅館業、情報サービス業や農林水産物販売業を新たに進出する場合、3年間固定資産税を免除しますよというのが、2番目の条例案です。
どんなオトクがあるの?
新過疎法が適用されると、固定資産税の減免がしやすくなった他に、どんなメリットがあるのでしょうか。
ざっと見ておきましょう。
まず目立つのは「令和3年度過疎地域持続的発展支援交付金事業について」にあるように、国からの補助金が狙えることですね。
空き家の活用やICT技術の活用、人材育成等々の事業に対して、補助メニューがあります。
次に、「過疎対策事業債」があります。以前「辺地と辺地債の話」で紹介しましたが、そもそも地方債(地方自治体が発行できる債権)は、その目的に制限があります。土木とか教育・福祉施設とか災害対策などでしたね。
これに対して、辺地債では公民館や観光関連施設などでも使えると紹介しました。
過疎対策債の場合は、さらに多くの目的で起債できます。企業誘致のための事務所だったり定住促進団地の整備だったり、自然エネルギー関連施設だったり。加えて特徴的なのは、ソフト事業も対象であるところです。
ソフト事業というのは、たとえば地域医療や生活交通の確保、集落の活性化などのための事業がそれ。ここまでくると、そもそもの地方債の原則である「建設公債主義」からもはみ出てますね。
おまけに充当率は100%、交付税措置は辺地債の80%よりは劣りますが、それでも70%です。これは事業費のすべてを地方債で起債でき、その額の70%を地方交付税として後年国から措置しますということです。
その他、先述したように税制に係る優遇措置もあると。
新過疎法の目的と過疎地域持続的発展計画
なるほど。そうなるとできるだけ多くの事業を「過疎地域持続的発展計画」に入れておきたいところです。
新過疎法に定める「過疎地域持続的発展計画」とはどんな内容なのでしょうか。
まずは新過疎法の前文を引用させてください。
いい内容だなぁと読み進めていたのですが、今回新たに付け加えられたそうです。
過疎地域は、食料、水及びエネルギーの安定的な供給、自然災害の発生の防止、生物の多様性の確保その他の自然環境の保全、多様な文化の継承、良好な景観の形成等の多面にわたる機能を有し、これらが発揮されることにより、国民の生活に豊かさと潤いを与え、国土の多様性を支えている。
過疎地域持続的発展の支援に関する特別措置法 (前文)
また、東京圏への人口の過度の集中により大規模な災害、感染症等による被害に関する危険の増大等の問題が深刻化している中、国土の均衡ある発展を図るため、過疎地域の担うべき役割は、一層重要なものとなっている。
しかるに、過疎地域においては、人口の減少、少子高齢化の進展等他の地域と比較して厳しい社会経済情勢が長期にわたり継続しており、地域社会を担う人材の確保、地域経済の活性化、情報化、交通の機能の確保及び向上、医療提供体制の確保、教育環境の整備、集落の維持及び活性化、農地、森林等の適正な管理等が喫緊の課題となっている。
このような状況に鑑み、近年における過疎地域への移住者の増加、革新的な技術の創出、情報通信技術を利用した働き方への取組といった過疎地域の課題の解決に資する動きを加速させ、これらの地域の自立に向けて、過疎地域における持続可能な地域社会の形成及び地域資源等を活用した地域活力の更なる向上が実現するよう、全力を挙げて取り組むことが極めて重要である。
ということで。
この志を達成すべく、新過疎法では4条で次のような目標を掲げなさいとしています。これが「過疎地域持続的発展計画」の骨子です。
過疎対策に限らず地域活性化のメニューのようにも読み取れ参考になります。
- 多様な人材の確保と育成
移住及び定住並びに地域間交流の促進、地域社会の担い手となる人材の育成 - 産業振興と雇用の拡大
企業の立地の促進、産業基盤の整備、農林漁業経営の近代化、情報通信産業の振興、中小企業の育成及び起業の促進、観光の開発等 - 情報化の進展
通信施設等の整備及び情報通信技術の活用等 - 交通機能の確保と向上
道路その他の交通施設等の整備及び住民の日常的な移動のための交通手段の確保 - 生活の安定と福祉向上
生活環境の整備、子育て環境の確保、高齢者等の保健及び福祉の向上及び増進、医療の確保並びに教育の振興 - 地域社会の再編成
基幹集落の整備及び適正規模集落の育成 - 個性豊かな地域社会の形成
美しい景観の整備、地域文化の振興、地域における再生可能エネルギーの利用の推進等
青垣地域の持続的発展計画の内容は?
では、青垣地域での計画はどのような内容でしょうか。
国の支援策も、まずは「過疎地域持続的発展計画」に盛り込まれていなければ始まりません。なのでどうしても総花的になる、というか、現在市が青垣地域で取り組んでいる事業はすべて盛り込みつつ、策定することになりますね。
今回議会に提案されている計画は令和3年度から7年度までの5年間の計画。全120事業近くが盛り込まれています。
大きな柱は、先述した国が示す7つの目標に添っています。
添いつつも、国が示す生活の安定と福祉の向上に関する内容については「生活環境」「子育て環境及び高齢者福祉」「医療の確保」「教育の振興」と分解して解像度を上げ、また個性豊かな地域社会の形成に関する内容についても「地域文化の振興」「再生可能エネルギー利用」と分けているところが丹波市版なりの特徴です。
それぞれの柱について青垣地域ならではの特徴があるところを抜き出しつつ、どのような事業が含まれているか概要をご紹介します。
- 多様な人材の確保と育成
青垣小・中・西高と続く一貫したキャリア形成、関西大学との連携事業他、市の移住事業との連携など。 - 産業振興と雇用の拡大
農林業等ですがあまり特色が出ていません。道の駅あおがき、ゆりやまスカイパークの整備くらいでしょうか。 - 情報化の進展
特徴的な記述はありません。事業内容もAIチャットボット、オンライン申請システム、5G対応等と小粒な印象です。 - 交通機能の確保と向上
除雪機械購入が目立つくらいで、あとはデマンドタクシーの改善、路線バス運行支援等既存事業です。 - 生活環境改善
青垣では浄化槽ですが、8%が耐用年数30年を経過しているとのことでその更新。また資源化しない燃やすごみを青垣リサイクルセンターで埋め立て処分を行っていること、また市有の開発住宅地があることが特徴ですね。基本はそのメンテナンス。 - 子育て環境と高齢者福祉
特別に分けていることは評価しますが、事業内容は基本的に市全域で行っているもの。今出川親水公園及び青垣住民センター公園の整備が目立つくらいです。 - 医療の確保
青垣診療所がありますので、分けられたのでしょう。その医療機器の更新や医師の招へいが入っています。 - 教育の振興
これが分けられたのも、小・中・高の連携ゆえかと思いましたが、事業として目新しいものが入っているわけではありませんでした。市全体で行っていることの延長ですね。 - 集落整備
自治協整備など市全体で行っているものの他は、佐治での空き家活用など古民家再生事業に注目しています。 - 地域文化の振興
これが分けられているのは、丹波布ゆえですね。伝承館の改修など、今後の発展が期待されます。 - 再生可能エネルギー利用
これが分けられて入ったのはおっと思いましたが、従来の薪ストーブの延長くらいで事業としての目新しさはありません。 - その他
男女共同参画、自然環境保全啓発などに触れられています。
青垣らしさをもっと出せなかったか?
地域でのミーティングやパブリックコメントを経て作られた今回の計画。
こうして要点を抜き出しただけでも、青垣地域が何を大切にしているかが見えてきますし、苦労して作られたのだろうと偲ばれます。
一方で、欲を出して言うなら、丹波市として青垣地域をどのような「武器」と位置づけて発展させるか、基本となるコンセプトが無かったゆえに、既存の考え方の延長にある小粒なものになったきらいがあるのではないかとも思います。
答えを持ち合わせているわけではありませんが、やはり子育て世代を中心にした移住・定住の促進が大きく必要で。
思いつき程度であることをお許しいただきつつ例示するなら、森林動物研究センターから旧遠阪小学校そして今出川親水公園へと展開する加古川源流をベースにした子育て世代を意識した事業展開、そこに氷上回廊ゆえの風を利用したスカイスポーツをからめ、自然環境の中で生きる魅力を強化する事業をできなかったか。
農業面では丹波栗を活かして加工までつなぎ、雇用を生む産業を創出できないか。バイオマスを活用したハウス型有機栽培もひとつの方向かもしれません。
ともあれ、計画は今始まったばかり。過疎地域の対象こそ青垣地域ですが、先ほど述べたように、その特色をどう活かすかは丹波市全体の課題です。
みんなで取り組んでいけたらと願っています。
既存条例を廃止する条例
なお、少しだけ関連するので、今回提案されている議案のうちから以下の議案をあわせて紹介します。
議案69号 低開発地域工業開発地区の指定に伴う丹波市固定資産税の課税免除に関する条例を廃止する条例
すでに存在している条例を廃止するには、新たな条例で「廃止する」とうたうことになります。
本条例の対象となっていた固定資産税の取得期間は平成15年まで(及びその後の固定資産税免除期間が3年間)でしたので、効力を失っていたものです。
もっと早くに廃止できたという話ではありますが、なにかきっかけがないと気付かないものなのでしょうね。この条例の場合、上述した過疎法の関係で固定資産税の免除条例を起案するにあたって、関係条例を調べていて気付いたということだそうです。
まあ、そんなものなのでしょう。いや、それとも他市町ではもっとしっかりされていたりするのかな。