特別多数議決とは何か?

 議会の議決は、半数以上の議員が出席した上で、出席議員の過半数で決まるのが基本です。
 その根拠となっているのは、地方自治法の以下の条文。

第百十三条 普通地方公共団体の議会は、議員の定数の半数以上の議員が出席しなければ、会議を開くことができない。(以下略)
第百十六条 この法律に特別の定がある場合を除く外、普通地方公共団体の議会の議事は、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(2)前項の場合においては、議長は、議員として議決に加わる権利を有しない。

 しかし、住民への影響が特に大きい案件については、より慎重な判断が求められます。
 上に引用した地方自治法116条で「特別の定がある場合」とされるのが、そうしたケースで、これを「特別多数議決」と言います。

 つまり特別多数議決というのは、議会における出席要件や採決条件に、「半数以上の出席+過半数で成立」ではない、特別の定めがあるもののことを言います。

 では、どんな案件が対象でしょうか。

公の施設と特別議決

 代表的なものが、市役所をどこに置くかです。地方自治法では4条です。

第四条 地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない。
(2)前項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない。
(3)第一項の条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。

 出席議員の3分の2以上の賛成が必要とされていますね。
 これと類似しているのが、244条の2です。

第二百四十四条の二 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
2 普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない。

 条例で定める特に重要な公の施設について、廃止あるいは長期の独占利用契約を結ぶ場合、やはり3分の2以上の賛成が必要とされています。

「重要な公の施設」と「特に重要なもの」

 ちょっと横道にそれますが、この地方自治法の文章、分かりづらいですよね。

条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なもの

 つまり条例で定めるものに2種類あることになります。「重要な公の施設」と「特に重要なもの」です。
 前者の「重要な公の施設」は、地方自治法96条に基づきます。

第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
(前略)
十一 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること。

 こちらは、過半数で決まる普通議決です。
 これに対して、244条の2の「特に重要なもの」についての特別多数議決があるのですね。

 丹波市の場合、この「条例で定める」としている条例というのが、「丹波市議会の議決を経なければならない重要な公の施設の利用等に関する条例」です。
 この条例1本で、地方自治法96条に基づく「重要な公の施設」と、地方自治法244条の2に基づく「特に重要なもの」について定めています。

第2条 地方自治法第96条第1項第11号の規定により、議会において出席議員の過半数の議決を経なければならない公の施設の利用は、別記に掲げる公の施設につき1年以上の期間で、かつ、設置の目的を阻害する独占的な利用をさせる場合とする。
第3条 法第244条の2第2項の規定により議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければならない公の施設の廃止及び利用とは、別記に掲げる公の施設につきこれを廃止し、又は5年以上の期間で、かつ、設置の目的を阻害する独占的な利用をさせる場合とする。

 条文で「別記で掲げる」とされている別記は2条と3条で同じです。対象とする公の施設はまったく同じで、どのような内容の提案かで分けているということです。

 別記されているのは、「水道施設」「学校」「住民センター」「図書館」「スポーツ施設」「その他公園」「市営住宅」など18の施設です。

他にもある特別多数議決対象

 地方自治法では、他にも特別多数議決を求めているものがあります。

 市役所の位置や重要な公の施設と同じく、定数の半数以上かつ出席議員の3分の2以上を必要とするのは、以下のもの。カッコ内は地方自治法の条番号です。

  • 秘密会の開催(115条)
    議会は公開を原則としていますが、3人以上が発議すれば、秘密会を開くことができます。発議に対する討論も行わず可否を決する定めです。
  • 議員の資格決定(127条)
    被選挙権の有無を議会が決定します。ただし公職選挙法第11条の規定など、議員が違法行為を行って資格を失う場合はこの限りでありません。資格決定の典型例は、居住実態が無いケース(同法第10条)。議会の特別委員会で調査して報告、特別多数議決を経て失職という流れを踏む場合が多いようです。(なお、公職選挙法202条による選挙管理委員会への審査申立てによる場合もあり、その場合は議会は関与しません。)
  • 再議の際の同一議決(176条)
    議会で否決されても、10日以内であれば、市長は再議に付すことができます。この場合、議会で同一の結果とするには、過半数ではなく3分の2の同意が必要です。

 一方、会議の出席要件を在職議員数の3分の2以上とより厳しくした上で、成立要件も出席議員の4分の3以上と厳しくした特別議決対象もあります。
 より重い判断であるということですが、人の立場に関わるものです。

  • 副市長等の解職(87条)
    副市長の選任に当たっては議会の同意が必要ですが、いったん同意したら議会に解職権はありません。しかし住民の直接請求により解職請求をすることはできます(86条)。その場合、解職請求の成立には、議会の特別多数議決が必要です。選挙管理委員及び監査委員についても同様です。なお法律は違いますが(地方教育行政の組織及び運営に関する法律8条)、教育委員の解職についても準用され、特別多数議決となっています。
  • 議員の除名(135条)
    議員の懲罰については「戒告」「陳謝」「出席停止」「除名」があります。いずれも議員の定数の8分の1以上の者の発議によりますが、このうち「除名」については、特別多数議決となります。
  • 市長の不信任決議(178条)
    市長の不信任決議は、特別多数議決です。可決した場合、市長は10日以内に議会を解散するか、失職するかとなります。なお、議会を解散し、選挙を経てあらためて招集された議会での不信任決議は、過半数の同意で成立します。再度成立した場合は、市長に解散の選択肢はありません。

 あとひとつ。会議の出席要件が在職議員の4分の3以上成立要件は出席議員の5分の4以上とひときわ厳しい特別多数議決があります。「地方公共団体の議会の解散に関する特例法」で定める、議会が自ら解散を議決する場合です。

 というわけで。

 「次のページ」で、122回議会に提出されている特別多数議決案件をご紹介します。

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