昨年6月議会での話。
市道路線の認定関係の議案が2本ありました。
・議案49号 市道路線の認定
・議案50号 市道路線の変更及び認定
市道については、「丹波市市道の現状と認定基準と管理」をご参照ください。
農道と里道
このうち少し混乱したのが、議案49号でした。
国道沿いの商業施設の間を通って、その裏手を走る市道に接続する、延長119メートルの路線を市道とするものです。
その趣旨について、議案審議資料に「農道及び里道を市道に認定」とありました。そこで、「119メートルのどこまでが農道で、どこからが里道か」と疑問が出たのでした。
結論から言うと、途中から切り替わっているのではなく、農道に並行して里道が走っている状態だったのを、一括して市道として認定するという返答でした。
もっと具体的にイメージしやすく言うと、その昔、農道が走っている隣に水路が走っていたと。その水路を埋め立てて農道を拡幅。この拡幅した部分が里道(りどう)にあたるというわけです。
えーと、農道? 里道?
通常の道路と何が違うのでしょう?
法定外公共物の話
実は、地方自治体にとって「道路」というのは、「道路法」に基づくものだけを言います。
条文を見てみましょう。
第3条 道路の種類は、左に掲げるものとする。
一 高速自動車国道
二 一般国道
三 都道府県道
四 市町村道
そうなんです。道路って、高速道と国道、県道、市道の4種類だけなんですね。
じゃあ、それ以外の「道」をどう呼ぶかというと、道路法からは外れた道路なので、「法定外公共物」って呼んでいます。
丹波市の条例を参照しておきましょう。
第2条 この条例において「法定外公共物」とは、一般公共の用に供されている道路法の適用を受けない道路及び河川法の適用又は準用を受けない丹波市が管理する公共用財産(農業用施設の土地及び水面を除く。)で、市が所有しているものをいう。
丹波市法定外公共物の管理に関する条例
公共物って呼ぶから幅が広いようですが、要するに法定外公共物というのは、道路法の適用や河川法の適用・準用を受けていない道路や水路のことなのです。
河川法の適用と準用
河川法の場合だけ「準用」という言葉が入っているのが気になります。
寄り道になりますが、「河川法」を確認しておきましょう。
第3条 この法律において「河川」とは、一級河川及び二級河川をいい、これらの河川に係る河川管理施設を含むものとする。
一級河川というのは国土交通大臣が指定したもの(第4条)、二級河川というのは都道府県知事が指定したもの(第5条)です。
で、法定外公共物の定義に入っている「河川法の準用」はというと、河川法の100条です。
第100条 一級河川及び二級河川以外の河川で市町村長が指定したもの(以下「準用河川」という。)については、この法律中二級河川に関する規定(政令で定める規定を除く。)を準用する。
ということで、道路法の国道、都道府県道、市町村道と同じく、河川についても、一級河川(国)、二級河川(都道府県)、準用河川(市町村)があるということです。
そして、これらから外れるものは、「法定外公共物」なのです。
農道は「道路」では無い
はい。
農道も、道路じゃないんです。「法定外公共物」。
というのは農道は、道路法ではなく、「土地改良法」に基づいて「土地改良事業」として敷設された農業用道路のことを言います。
管轄も国土交通省ではなく農林水産省。
あら、道路法じゃないってことは、道路交通法も適用されないのかな。スピード違反の取り締まりとかも無いのかな? でも信号があったりしないっけ?
実は、道路法が適用されないけれど、「道路交通法」は適用される場合がある、というのが農道の特徴です。
というのはですね、道路交通法における「道路」の定義は、次の通り、道路法より幅広くなっているからなのです。
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 道路 道路法第2条第1項に規定する道路、道路運送法第2条第8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。
なるほどね。「一般交通の用に供するその他の場所をいう」と言われちゃうとね。
ただし。
一般交通の用に供するかどうかは、農道管理者の判断によります。
なので、もし農道の管理者が一般交通の用に供しないと決めれば、道路交通法は適用されません。その場合はもちろん、一般の車両は通行禁止ということになるわけですけれども。
このあたり、農林水産省と警察庁が協議した結果が、「農道における車両の通行に関する措置について」(平成31年2月19日)にまとめられていますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください。
赤線と青線
寄り道がすぎました。
里道(りどう)に戻りましょう。
里道という言葉、ぼくは議員になって初めて知りました。
また、「赤線」「青線」という言葉もよく出てきます。この用語を使ってると、道路行政に詳しい感じでなんだかかっこいい(笑
赤線というのは道路のこと、青線というのは水路のこと。
少し時間をさかのぼります。
先日、丹波市青垣地域にある「山垣(やまがい)」集落の歴史を古文書からたどる講座があり、聴講してきました。
その時面白いな、と思ったのが、「山論」「水論」の話でした。
山論(さんろん)というのは、山の境界を巡る村の間の争い、水論(すいろん)というのは、川やため池の用益権をめぐる村の間の争いのことです。
このうち水論は仲介もあって2年後に決着したと言いますが、山論は明治2年まで続いたとのことでした。
じゃあ明治2年に終焉に向かった理由は何か。
戊辰戦争の過程で旗本領は新政府に接収されていき、それまでの村は、新政府が定める「県」の管轄となり、村同士の境界争いの意味が失われたから、と解説されていました。
なるほどです。
明治維新後の政策として知られる「富国強兵」のため中央集権化が進められたということは理解していたのですが、その一環として、土地を国の管轄として一元化していくという流れも、あったわけですね。
その後明治6年に地租改正が行われ、土地の所有者から課税する仕組みが完成します。それに伴って作られたのが、「公図」と呼ばれる地図でした。
で、公図では、道路は赤色、水路は青色で引かれたことから、道路のことを「赤線」、水路のことを「青線」と呼ばれるようになったと。
「里道」の誕生
ここで国土交通省の「社会インフラの歴史とその役割」を参照すると、日本で最初の道路法制は明治4年(1871年)の太政官布告第648号だそうです。
私人が通行料をとって道路や橋梁等を整備することを認める布告です。
里道が言葉として出てくるのは、明治9年(1876年)の太政官布告第60号「道路ノ等級ヲ廢シ國道縣道里道ヲ定ム」です。
この布告に、「国道」「県道」「里道」がそれぞれ、一等、二等、三等に分けて定められています。このとき、道路の分類がこの3種類と定められたのです。
行政用語として「里道」があったのですね。
明治期に国有化されたそれぞれの道路や河川は、第二次大戦後も引き続き国有のまま維持されました。
ただし、公共の用に供するときはその公共団体に無償で貸すよということが「国有財産特別措置法」でうたわれていました。
その名残は今も道路法90条2項に残っています。
第90条 (前略)
2 普通財産である国有財産は、都道府県道又は市町村道の用に供する場合においては、国有財産法第22条又は第28条の規定にかかわらず、当該道路の道路管理者である地方公共団体に無償で貸し付け、又は譲与することができる。
地方分権で国から市に譲与
じゃあ、国の財産だった「里道」がいつ市の財産になったのか。
2000年からの「地方分権」への流れの一環です。
少し長いですが、財務省の「法定外公共物に係る国有財産の取扱いについて」から引用します。
法定外公共物である里道・水路のうち現に公共の用に供しているものにあっては、当該法定外公共物に係る国有財産を市町村に譲与し、機能管理及び財産管理とも自治事務とするものとし、機能の喪失しているものについては、国が直接管理事務を執行することが地方分権推進計画において決定されている。
この地方分権推進計画の内容を実施するために公布された「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」第113条により、国有財産特別措置法第5条第1項が改正され、法定外公共物に係る国有財産を市町村に譲与するための根拠規定が設けられることとなり、この改正規定は平成12年4月1日から施行されている。
ということで、国有財産特別措置法の第5条第1項。
(譲与)
第5条 普通財産は、次に掲げる場合においては、当該地方公共団体に対し、譲与することができる。ただし、第三号及び第四号の場合にあつては、普通財産である土地については、この限りでない。
改正されたこの規定は平成12年(2000年)4月1日から施行ですが、5年間の移行期間がありましたので、遅くとも平成17年3月末までに、「里道」のほとんどは市の管轄になりました。
ただ、機能を喪失しているところは国の管轄のままということなので、道路や河川として機能を有していないところは、いまだに国の所有というところもあるようです。
みなさんが個人として里道と関わる可能性のある場合について、三井住友トラスト不動産「里道って? その評価方法は?」が分かりやすかったので、そのあたりもご参照ください。
最後に、先ほど紹介した講座で配布された昔の地図をご紹介します。赤や青で線が引かれていますね。
その他、山は緑、畑が黄色、田んぼは紫です。