懲戒権が民法から削除された

 旧民法822条では、以下のように懲戒権が書き込まれていました。

第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
第822条(懲戒)
親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

(旧民法)

 しかしこの規定、「懲戒」が児童虐待の口実に利用されているとの指摘から、削除すべきとの議論がされてきました(「懲戒権に関する規定の見直しについての検討(法務省)」参考)。

民法における「子の利益」は3ポイント

 検討の結果、民法が改正され、現在では懲戒権は削除、逆に子どもの人格を尊重する旨の条文が定められることになりました(法務省による「民法等の一部を改正する法律について」参照)。

第821条(子の人格の尊重等)
親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。

 つまり先に紹介した民法の第820条で「子の利益のため」とされている内容について、具体的に次の3点だよと書き込んでいるわけです。

  1. 人格を尊重する
  2. 年齢及び発達の程度に配慮しなければならない
  3. 体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはいけない

 これに併せて、児童福祉法も同様の改正が行われています。たとえば第47条3項。

(旧)
児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第六条の二第八項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。
(新)
児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護及び教育に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。この場合において、施設長等は、児童の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。

 新しい児童福祉法では、民法の規定にそって黒字の部分が追加されていますね。

 というわけで。

 自治体の条例においても関連する部分があれば、改正せねばなりません。

自治体条例における「懲戒」の削除

議案24号 懲戒権に関する規定の見直しに伴う関係条例の整備

 丹波市では、「丹波市家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準を定める条例」及び「丹波市特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準を定める条例」が改正されます。

 具体的には、どちらの条例にも「懲戒に係る権限の乱用禁止」として記されている文章を、以下の新旧の通り変更するものです。

(旧)
懲戒に関し(中略)必要な措置を採るときは、身体的苦痛を与え、人格を辱める等その権限を濫用してはならない。
(新)
看護及び教育に関し(中略)必要な措置を採るときは、(中略)人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮し、かつ、体罰その他の(中略)心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。

 先ほど整理した、民法における「子の利益」の3ポイント、「人格の尊重」「年齢及び発達の程度に配慮」「体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはいけない」が入っていますね。

学校教育では残る「懲戒」の言葉

 以下は横道にそれます。

 民法から懲戒権が削除されましたが、学校教育法には「懲戒」の言葉が残っています

 これはどう考えるのでしょう。言葉狩りではないから、教育という枠の中では、一定の説明がつくということなのでしょうけれども、気になりますね。

第11条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

(学校教育法)

 文部科学大臣が定めるとあります。

 その定めというのが、「学校教育法施行規則」の26条で、次のように限定されています。

第26条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長が行う。
3 前項の退学は、市町村立の小学校、中学校若しくは義務教育学校又は公立の特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一 性行不良で改善の見込がないと認められる者
二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三 正当の理由がなくて出席常でない者
四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
4 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。
5 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。

 加えて文部科学省では「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」とまとめています。

 こうしたことを下敷きに慎重な運営が求められ、当面は現行のままということなのでしょう。

 ただこの件、そのうち見直しが求められそうな気はしますけれどもね。

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