適正な議員定数を考える

人口に対する適正な定数は?

 まずは歴史をたどります。

 1947年に施行された地方自治法では、議員定数を人口5万人未満で30人、5万人以上15万人未満で36人等と決めていました。ただし条例によって少ない定数も可とされており、多くの議会で実際には「減数条例」を定め、法律の定めより少ない定数にしていました。

 その後、1999年の自治法改正でそもそも定数は条例で定めるものとされました。ただし人口に対する定数規定自体は、上限規定として残されました。
 2011年の自治法改正でこの上限規定も撤廃され、議員定数は完全に自治体に委ねられることになりました。

 こうした経緯からすれば、議員定数は地域の事情を踏まえて自治体が判断すべきというのが、現在の地方自治法の考え方と理解していいのでしょう。

 丹波市の1議員当たりの人口は3,162人で、類似団体の4,000人前後からすれば少ないですが、近隣団体の2,000人前後よりは多くなっています。
 人口の少ない近隣団体に揃えるなら30人を超える定数もあり得ますが、人口が同規模の類似団体程度にするなら、16人という数字も有りです。

 国勢調査人口の推移をもとに考えるとどうでしょうか。

 丹波市の1議員当たりの人口は、平成21年当時が3,388人、令和2年が3,076人ということになります(5~10万人都市の平均は3,362人だそうです)。
 仮に平均値に近い平成21年当時の1議員当たりの人口をベースに現在に適用するなら、定数18人という計算になりますね。

 人口と定数を考えるにあたって重要なのは、いかに住民の声が届いているかです。
 SNSを始めとして、住民からの声を届けるツールはこの10年で大きく進歩しました。そういう観点をふまえると、住民の声の届きやすさは人口だけの問題ではないですし、重視しすぎない方が良いという考え方もあります。

面積と議員定数の関係は?

 丹波市は面積が広いことで知られています。議員1人当たりの面積も24.66㎢と、類似団体、近隣団体と比較して広いのが実情です。
 似たところは豊岡市で、29.06㎢なので、丹波市と同水準ですね。

 面積基準なんて、地方議員が持ち出した勝手な理屈じゃないかっていう率直な感想を抱かれるかもしれません。
 ただ、けっこう全国的に見られる傾向のようで、たとえば(株)地方議会総合研究所の廣瀬和彦代表取締役によると、政令市を除く全国の議会の議員定数を分析したところ、およそ8割は次の計算式で説明できるそうです。

14.78+(0.0846×人口(千人))-(0.0000655×人口(千人)²)+(0.0061×面積(㎢)

 あくまで現状が説明できるというだけで、この数式にあてはめるのが正しい定数という数式ではないことに留意が必要です。(別の算式も後ほど紹介します。)
 とはいえ、参考までに丹波市の数字であてはめてみると。

4.78+(0.0846×63)-(0.0000655×63²)+(0.0061×493)=22.85人

 実際の定数が20人なので、モデルより多くはなっていないことにほっとしています。
 丹波市の数式で最後の項、面積補正で足される人数は3人。この数字を入れなければぴったり算式に当てはまる。ということは、丹波市の場合、面積の影響は考慮に入れないで定数が設定されているのが現状、といった考え方もできるかもしれません。

小学校区数と議員定数の関係は?

 類似団体、近隣団体の一覧表を見て気づくのは、豊岡市以外では、議員定数が小学校区数以上になっているということです。
 それに対して、丹波市の議員定数は小学校区数より少なくなっています。

 確かに、先に触れたように現在のまちづくりは自治協議会(小学校区)が基本になっています。「丹波市自治基本条例」でも重視されているところです。
 現在でも、小学校区から議員を出したいという住民の思いがあることは事実ですし、地域行事に地域在住の議員が来賓で招かれることは一般的に見られます。

 しかし、地域からの要望は自治会を通してあげられるのが現在の市政。議員が地域の利益を代弁することはむしろ慎むべき時代ではないかと思います(そのことと地域に目を配ることとは別の話です)。
 市議会議員は小選挙区制(小学校区ごとに選ぶ)ではありません。市全体の代表です。

 小学校区数は議員定数を考えるにあたって一定の目安にはなるものの、考慮する必要性は乏しいという考え方が、丹波市議会では主流です。

委員会あたり議員数は何名が適切か?

 丹波市議会は、それぞれ10人を定数とする総務文教常任委員会と民生産建常任委員会があり、加えて議長を除く19人で構成する予算決算常任委員会で構成しています。
 予算決算常任委員会は扱いが別なので、これを除いて話をします。

 類似団体では3委員会制が多いですが、丹波市議会でも以前は3委員会ありました。当時の1委員会あたりの委員数は6~7名で、委員長を除くと5名の委員会もありました。
 議会改革の中で、議論を活発にしようと委員会を統合し、現在の2委員会制にした経緯があります。したがって、以前のような人数まで委員会構成人数を減らすような大幅な定数減は、議会改革の目的から外れてしまいます。

 では、何人が適正なのか。

 ハーバード大他で行われている組織研究からのエビデンスをひけば、チームが最良のパフォーマンスを発揮するときの人数は4~6人だそうです。
 チームの目的にもよるのでしょうが、多様な意見を反映するという議会の本旨から考えれば、この人数に少しプラスするくらいが良いのかなという実感です。通常のチームリーダーと違って委員長が独自発言をすることが少ないという事情もあります。

 参考までに県内各市議会を見ると、多くは委員長を含めて7~8人としています。おおむねこの考え方を踏襲した考え方からでしょう。
 丹波市議会としても、最低8人以上が望ましいと考えています。そうすると、2委員会制を前提とすれば、16人以上の定数は必要ということになります。

競争率・投票率をどこまで考えるか?

 地方議会選挙では「法定得票数」というルールがあります。下位当選者がこれに達しない場合、当選は無効となります。

 法定得票数は有効投票総数を議員定数で割った数の4分の1です。
 丹波市の令和3年10月18日の有権者数は52,702人です。仮に投票率(有効投票総数として)が60%とすると395票を得られなかった議員は、上位20人に入っていても、当選できません。

 有効投票総数に対して定数が多いほど法定得票数が少なくなり、そこに達しない可能性が高くなります。
 下位当選者が法定得票数に達せず、欠員となった事例が、平成29年の西脇市議会でありました。

 また、地方議会によっては、立候補者数が定数と同数以下となって無投票となり競争が働かないという事例も散見されます(平成27年市議会選挙のうち3.6%、町村議会選挙のうち21.9%)。
 こうした地方議会選挙での現状を踏まえると、定数が過剰ではないかとの問いは常につきまとうことでしょう。

 では定数は少ない方が良いかというと、そうでもない。

 投票率を見ると、地方議会選挙よりも国政選挙の方が低い傾向がありますよね。やはり自分に身近な選挙ほど関心が高いという側面があるのではないでしょうか。
 とすると、定数が減って議員が市民から遠くなると、政治への関心が低くなり投票率が下がる可能性もあります。

その他の観点

 議員定数を考えるにあたって、他にも考える観点はあります。

 ひとつは報酬との関連です。議員報酬を上げるために定数を減らすという考え方は成り立ちませんが、議会費の総額としてみると、何らかの考慮は発生します。
 『日本の地方議会』(辻陽)によると、全国議会の議員定数は、やはり8割近くは次の算式で説明できるといいます。

0.0000301×人口+3.30×財政力指数+17.4

 財政力指数というのは、基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値で、地方公共団体の財政力を表す指数として用いられます。丹波市は0.44です。
 丹波市の数字を当てはめると以下の通り。

1.90+1.45+17.4=20.75

 財政力指数からは20人が上限ぎりぎりというところでしょうか。
 ただし、これも先に紹介した数式と同じく、現状分析をすればこう説明できるという数式であり、この数式で導きなさいという指標となるものではありません。

 ただ、面積ではなく市の財政力からも現行の定数が説明できるということは、議員報酬と議員定数を掛け合わせた総額ベースの支出にも、一定の配慮は欠かせません。

 他にも、立候補しやすい環境や意見の多様性という点からは、政治倫理条例への配慮やクオーター制等の女性議員やLGBTQ、障がい者などへの配慮も欠かせないという指摘が出ています。

 議員は、市民の声を反映して政治への関心を高めることが求められます。
 議員定数を考えるにあたっては、機械的な判断基準だけではなく、執行部に対する議会力の観点から、慎重かつ総合的に検討していかなくてはなりません。

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