ということで、「農業委員会って何だ?-そして農地転用について-」で触れた農業委員会からの意見書。「丹波市農業の現状と課題【2021年版】」もふまえて読んでみましょう。
先にも書きましたが、今年の意見書は具体的で示唆に富むものでした。
意見書では、大きく「農業の担い手・後継者対策」「農村環境の保全・農地の維持管理」「有害鳥獣対策」「魅力ある丹波市農業にするために」の4つの柱から、合計10のご意見をいただきました。
以下に概要をご紹介します。見出しは意見書の見出しから適宜変更し、紹介では個人的な思いも加えていますので、ご了承ください。
農業の担い手・後継者対策
1.トラクター免許の取得支援
令和元年5月からの規制緩和により、作業機を付けたままのトラクターで公道を走行することができるようになりました(農林水産省「作業機付きトラクターの公道走行」参照)。しかし車幅が1.7メートルを超える場合は大型特殊免許が必要です。
「大型特殊(農耕車限定)」免許を取得すれば良いのですが、兵庫県では兵庫県農業機械化協会が主催する講習会を受けてから受験するのが一般的です。ところがこの講習会が年2回しか行われず、丹波市内で希望される方の2割しか受講できないのが現状。なので春日自動車教習所などで講習会をできないかとの要望です。
そのくらい実現したいと思いましたが、講習用機械の確保など考えると即応が難しい事案ですね。講習必須ではないのですが、試験会場における機械準備などの都合上、いつでもというわけにもいかないとも聞きます。
兵庫県農業機械化協会の講習は県の補助で行われているので、農業者の取得が一巡する2、3年のことですし、この期間は県の補助を増やして実施回数を増やしてもらうのが現実的かなとも思います。
ということで、本件については個人的にですが兵庫県議にもつなぎ、県での調査も並行してお願いしました。
2.小規模農業者への支援
丹波市の作付け6割強が稲作です。その多くが小規模農家となっており、作業機械の更新等ができずに廃業されるケースが目立ちます。そこで、グループ化することで作業機のシェアリング等を行うことが望まれます。
現状、小豆や黒大豆、山の芋などの特産物の場合の機械購入助成(市)や集落営農組織等が購入する場合の補助(JA)はあるのですが、有志グループが稲作に使う場合はありません。有志の場合にも支援してほしいということです。
丹波市としては現状、認定農業者や集落営農を前提に集約化や作業受託を計画しています。任意のグループ等をどう扱うか。「人・農地プラン」とのからみや持続性などの要件定義、位置づけを明確にして支援できればと考えますが、その線引きの問題か。むしろ起業的な観点の方がなじみやすいかもしれません。
3.ドローンオペレーター講習費用への支援
今後、薬剤散布等にドローンを利用する農業者が増えていくことが想定されます。もちろん委託もできるのですが、作業適期があるので、自前で持ちたいという人も少なくない。
機械購入への助成はあるけれどドローンスクールの受講料が20万円以上と高く、ハードルがある。そこを支援してほしいということです。
スマート農業全般を支援できるような仕組みが考えられれば、丹波市農業の先進性にもつながりそう。
農村環境の保全・農地の維持管理
1.公共物等の除草負担軽減
草刈りがたいへんという話は枚挙にいとまがありません。離農の最大要因ではないかともいわれています。
加えて農家さんを困らせているのが、農場に隣接する農道や水路等の草刈りの負担です。特に、道路が走っていてその法面が高い場合はたいへん。市や県は道路わき(1メートルだったかな?)しか草刈りしませんので。
市からは地域づくり交付金等を活用して地域で対応してほしいと返答があったとのことですが、もう少し積極的に対処方法を考えられないか。
市道だけでも実延長1,105キロ、草刈りの必要な個所がどれだけあるか分かりませんが、財政的な問題もあり、難しい課題です。市道の草刈りの現状ですが、主として幹線道路については、業者に委託したり(交通誘導員が必要なところ)シルバー人材センターに委託したり(交通量の少ないところ)で、合計42路線約40㎞の除草を行っており、予算としては年間約1,000万円。その他に地域からの要望に応じて行う直営作業は43路線約50㎞で行っています。
地域づくりワークショップでは「草刈りボランティア」を募るアイデアがよく出てきます。「草刈りルンバ」が自動的に管理する時代になればいいのですが、当面まず必要な草刈り範囲を市全体で一括把握して、そこにボランティアをマッチングするような仕組みはできないものかな。
2.人・農地プランの作成で連携を
「農業委員会って何だ?-そして農地転用について-」で紹介したように、農業委員会には旧町域ごとに割り当てられた推進員さんがいらっしゃいます。農地利用の最適化がその業務。
一方で、集落単位では「人・農地プラン」の策定が進められていて、丹波市としてはそのために「人・農地プラン推進員」を任用しています。「人・農地プランの実質化」のために、両者の連携をしっかりしましょうということです。
この「人・農地プランの実質化」というのは、ある種の業界用語というか専門用語ですね。丹波市の「人・農地プランとは」の後半に記述がありますが、地域内でアンケートをとって分析し、5年後、10年後に担い手がいなくなっているだろう農地を誰が管理しているかを描く、それが明確になっている農地が地域内の半分以上となることを言います。
両者の連携、さっそく取り組みが始められたと聞きましたが、今後とも推移を見守りたいと思います。
有害鳥獣対策
1.有害鳥獣捕獲におけるくくりわなの有効活用
有害鳥獣の捕獲は、主に銃器、箱わな、くくりわなによって行われます。令和元年度実績(シカ・イノシシの捕獲)では、銃器によるものが44頭、箱わなが375頭、くくりわなが49頭となっています。
銃器は集落周辺での捕獲には向きませんし、箱わなは設置や管理がたいへん。そういう意味ではくくりわなが容易なのですが、積極的には実施されていません。安全面などの問題もあろうかと思いますが、対策を考えたいところ。
鳥獣害対策計画では「くくりわな団地」の話もありました。現状の把握も含め、もう少し調査したいと思います。
2.個人の農業者にも獣害防護柵設置補助を
丹波市では野猪等被害防止策等設置事業として、農会や認定農業者が自ら防護柵を設置する場合は、資材費の80%を上限に補助しています。
ただ、近年では農会が弱体化するなどして、総意で設置することができず、個人の農業者が自分の田畑を柵で囲っている事例も出てきています。こうした場合にも補助ができるようにしてほしいとのことです。
これ、難しい問題ですね。対策としてはおそらく集落全体で取り組む方が効果があがるのではないかと。しかし個々の農家さんの保護も重要。補助条件の定義ができるかどうか、集落営農を進めようという大きな方向と共存するかといったところが課題なのであろうと考えています。
魅力ある丹波市農業のために
1.効果的な情報発信のために専門職員の配置を
丹波ブランドへの共感を広め、価値を共有してもらうことの重要性はいうまでもありません。情報発信にたけた専門職員が必要であるとの指摘です。
これはなるほどです。懇談会では大山こむぎプロジェクトの例を出されていましたが、丹波市の場合マーケティング専門官的な役割を担う人がいません。ぼくもその必要性を感じています。
一方で難しいなと思うのは、では何を柱にマーケティングするかです。「こむぎ」のようにポイントが絞られているとやりやすいのですが、「丹波ブランド」全般となると、効果がそれほどあがらない気がします。たとえば「オーガニック」など焦点を絞る必要があるのではと思ったりします。
また、ときとして民間のリーダーが進めた方が動きが良い場合もある。とすると、そうした民間の動きを支援するような形でリーダー育成を図るべきか。実現方法を探る必要がありますね。
2.1次加工の仕組みを構築
丹波市の給食で地産地消が進まない理由の一つに、安定的な供給の難しさや規格を揃える難しさなどがあります。その対策として、野菜をカットした上で急速冷凍させることで、安定供給が可能になります。野菜を1次加工し冷凍する事業が市内で必要との指摘です。
実はぼくも10年くらい前だったでしょうか、若者の移住者が多いまちとして有名な島根県の離島、海士町を訪ねた時、CASという急速冷凍システムを導入した事例を聞いて、丹波市でもそうした取り組みが必要ではないかと考えてきました。
問題は実現方法です。海士町の場合は公設で第三セクターが運営する形。丹波市で公設がなじむかどうか。知恵を練る必要があります。
3.頑張った人が喜ぶ特産物振興交付金制度
水田での転作に支払われる「水田活用の直接支払交付金」というのがあります。国では戦略作物を決めていて、10アール(出荷面積)あたりで、麦や大豆(実どり)、飼料作物で35,000円等と決めています。
一方、戦略作物以外は「産地交付金」として各地域の「水田フル活用ビジョン」に添って地域ごとに一括して交付されます。丹波市は「水田活用の直接支払交付金に係る水田フル活用ビジョンについて」に基づき、小豆及び山の芋で25,000円前後、枝豆や薬草及びごまで15,000円前後等と決めています。ただし国からは総額で交付されるので、予定の8割程度の交付とかあったりします。その場合、差額を市が独自に補てんしています。
ここまでは国の制度に添ったものなのである程度仕方ないかと思いますが、丹波市ではさらに小豆に関しては、栽培奨励のため10アール当たり1,000円を加算しています。予算総額的には小豆の栽培面積300ヘクタール程度として300万円です。
この上乗せ交付、産地交付金と合わせる形で面積当たりなのでいくら収量を上げても変わりません。これをあらためて、がんばった農家さんが報われるような交付金にならないかということです。
考え方として、たとえば単収で計算するとかがありえるのでしょう。ただ、小豆って雨などに左右され、JA等が目標とする10アールあたり125kgの半分にいかない現状があります。実務的にどう考えるか、難しいところです。
実どり黒大豆の35,000円と比べて、最大でも2万円台後半の交付金。それでも小豆を作っていただける農家さんに報いるような仕組み、できると小豆の増産につながりそう。いっそ買取価格の上乗せとかではだめなのかな。
以上が、農業委員会からの意見書の概要です。
農業振興については、考えれば考えるほど、深く悩ましいところがあります。それはある意味、丹波市の恵まれた環境ゆえの悩みのような気もします。
丹波市の未来は、農業が「食ビジネス」として雇用産業になることにあると考えています。そのための道筋を、引き続き考えたいと思います。