もう10年以上前だったろうか、一緒にセールス・プロモーション関連の仕事をしていた友人たちと、「広告って、恋文だよねぇ」なんて言っていた。
ひとりの後輩が、なにかの講演会で、プロモーション手法を恋の手ほどきに例えて説明し、それを評してもうひとりの後輩が、「あれ、お前の実感がこもっていてわかりやすかった」と誉めていた。
そんなことを思い出したのは、第1章がいきなり「消費者へのラブレターの渡し方」だったから。
ああ、これは正しい立ち位置で、ほんとうのことを書いている本だと、章題をみながら感じたのだった。
それで。
副題にあるように、佐藤さんは「コミュニケーションする方法」を書いている。恋のたとえでいくなら、相手の「口説き方」を。
そこにあるのは、相手の気持ちを考えよう、相手の状況を考えようという話。コミュニケーションの基本だ。
でも、それができていなかったんだよね。
恋を告げるときには、服装を整え、言葉を選び、どんなシチュエーションで、どんなタイミングで切り出すかを練り、相手の表情を読み取り、相手の反応を見つつ微修正し、告げ終えた後の相手の気持ちを思いやり、返事について配慮する、そんなことをする人たちなのに、いざ広告しようとすると、なにも考えず、ただうるさくがなりたてていたりして。
それがここにきて振り返られはじめたのは、「変化した消費者」という現実を前に、これまでと同じ口説き方では、どうしたって立ち行かなくなり、基本に戻って考えざるを得なくなったからだ。
じゃあ、消費者の変化って、どう変化したのだろう。佐藤さんは書いている。
第一に、自分が出した恋文が、ほかの手紙に埋もれたりして、届きにくくなってしまっている。
第二に、たとえ届いたとしても、恋文より楽しいことがいっぱいあって、あまり興味を抱いてもらえなくなっている。
第三に、仮に興味を抱いて読んでもらえたとしても、そこに書かれていることを素直に信じてもらえるほど、相手がウブじゃなくなっている。
第四に、ひとりでこっそり読まず、友だちと見せ合って内容を検討したり、いっそ友だちに判断を任せたりしてしまう。
これらは、昨日の広告にとっては脅威だ。
これを、ちょっと裏返してみよう。すると、明日の広告にとっては機会となることに気づくだろう。
第一に、差し出す前に向こうから探しに来てくれる。
第二に、自分が恋文を書く前に誰かが(ときには相手が!)書いて届けてくれる。
第三に、恋を成就したければこうすればいいって、相手からアドバイスをくれる。
第四に、届けた恋文を街の掲示板にはってみんなに読ませたり、コピーしてばらまいたりする。
そんなわけで、なんだか広告にとってはおもしろい時代。
そんな時代の心構えを、わかりやすい言葉で書いた、クリエイターへの恋文といってもいい本。