この十年で急速に進歩した分野といえば、先に紹介したゲーム理論もそうだけれど、ネットワーク科学もそう。
本書の特徴は、具体的な社会現象を取り上げつつ、ネットワーク科学を紹介しているところにある。「世界を読み解く」とはそうした姿勢を表している。
ネットワーク科学を用いて世界を読み解く楽しさって何だろう。
ひとつは、それがまさに今起こりつつあるインターネットという新しい社会現象に関連したものごとである、ということだ。
たとえば世界中のウェブサイトがすべてほんの数クリックでつながることができるなんて、ちょっとすてきなことじゃないだろうか。
もうひとつは、そこに人のつながりが見えるところにある。
本書の冒頭で紹介されている、ブータン王国から石坂浩二までの距離に表されているように、自分たちが住む世界は思ったより狭いという事実。パーティ会場での会話などでもときどき感じる「世間は狭い」というあの感覚を、科学の切り口で読み取れるというおもしろさ。
そしてもうひとつ。
都市の人口も、単語の出現頻度も、ウェブのリンク数も、みんな同じ法則に支配されている(ように思える)という、世界の秘密に触れる醍醐味があるところだ。
その先には、感染症を防ぐにはどうするかといった、きわめて現代的な問題が横たわってもいる。
ネットワーク科学。
自分自身コラムでとりあげたものを拾っても、「パーコレーション」から始まって、「地球の果てまで6人(6次の隔たり)」「スモールワールド」「スケールフリー」など重要な概念がネットワークの科学から生み出され、「1から始まる」のようなさまざまな法則、自然現象までが説明されるようになって来ている。
それらのエッセンスをぎっしり詰め込んだのが本書だ。
実際の構成は、まずは6次の隔たりの話から入り、「うわさ」の実例を紹介し、その上でうわさのルーツとして、「落書」の紹介を行った上で、チェーンメール、コンピュータ・ウィルス、伝染病の感染の事例などをひいて、ネットワーク科学を語っている。
うわさの実例を紹介する前半から一転、後半は具体的なグラフまでも登場する本格的な内容になっている。読者は前半から引き続き、楽しく読み進められるはずだ。
本書の魅力にはまった方は、ぜひ、上記コラムでも紹介している書籍たち(『つながりの科学』『新ネットワーク思考』『情報行動の社会心理学』『うわさが走る』『歴史の方程式』『スモールワールド・ネットワーク』『私たちはどうつながっているのか』『遠距離交際と近所づきあい』)の世界を訪れてほしい。
それが、あなたの知識のネットワークを拡げることになると思うから。