ファクトフルネスなごみ環境問題

 先の「みんなでごみ袋半額化を目指そう!」でごみ袋料金(手数料)とごみ処理経費の関係について紹介しました。

 そこでも書きましたが、ぼく自身は本音で言えば、ごみ袋料金に焦点が当たる消費主義的な考え方が好きではありません。地球環境への負荷コストは、ごみを出す自分たちで負担すべきというのが基本。

 書籍『ファクトフルネス』等によって、データに基づく政策立案の重要性への意識が高まっています。
 ファクトフルネスとは、「データを基に世界を正しく見る習慣」という意味の造語だそうです(同書より)。

 ごみ袋料金の有料化は、ゴミ削減を目的として各自治体で導入が進んだという歴史的経緯があります。
 そのあたりをふまえて、今回はごみ袋問題に関わる「データ」について、前回に加えていくつか紹介させていただきます。

前回の「値下げ」時、丹波市のごみ状況はどうなった?

 丹波市では平成23年に燃やすごみ用のごみ袋料金を値下げしています。その際の値下げ幅は、「大」を100円から80円(20%引)、「中」を70円から60円(15%引)でした。

 その時、ごみ量はどうなったでしょうか?

 丹波市廃棄物等減量審議会に提出された資料から、「生活系可燃ごみ」の量で確かめます。当時の丹波市の人口は約67,000人ですから、1人当たりにした数字も並べますね。

年度ごみ量1人あたり増加率
H229,593t143kg
H239,914t148kg103.4%
H2410,028t150㎏104.5%

 ごみ袋を値下げした平成23年に増加しています。
 参考までに年度ごとのごみ総排出量の推移を掲載します。

 総排出量は平成27年まで減少傾向が続いていますので、生活系可燃ごみに絞った平成23年の増加は、ごみ袋料金値下げの影響と推測して良いでしょう。
 なお、上記グラフのうち平成26年度は豪雨災害のあった年で、災害ごみの影響で急増しています。また、平成27年を底に増加に転じていますが、この年に丹波市クリーンセンターが開設され、分別区分を変更したことが影響しているようです(たとえば汚れたプラ容器や製品系のプラは燃やすごみになりました)。

 処理費用及び維持費についてもみておきましょう。

年度処理費1人あたり1kgあたり
H228億2,900万円12,373円86.5/kg
H238億9,400万円13,343円90.2/kg
H248億8,800万円13,253円88.6/kg

 こちらもあがっていますね。

実は市民負担の増加につながったごみ袋料金の値下げ

 1人あたりに換算した数字を、もう少し読み解きます。

 年間1人あたりのごみ量が150㎏でしたね。

 一般的に、大1袋(45L)にはごみが5㎏入ると試算されています。とすると1人あたりに必要なごみ袋は年間30枚になります。

 検算のために令和元年実績を参照すると、市の「燃やすごみ袋」収入は1億500万円。「大」の80円で割れば130万枚。人口65,000人で割れば、1人あたり20枚です。したがって実際には30枚より少ないものと思われますが、先行研究に従い30枚で仮定します。

 1人年間30枚。1枚100円から80円に値下がりしたことで、ごみ袋への出費は、年間3,000円から2,400円になりますね。およそ600円の負担減です。

 ん?

 もう一度上記のごみ処理費をみてください。1人あたり、12,373円から13,343円に、年間およそ970円の負担増です。

 なんだか。

 これって合わないと思いませんか? 1人あたりで考えて、ごみ袋への出費は年間600円下がったけれど、処理費では970円分の負担増がある。
 処理費の負担増は、直接家計に響くわけではありません。しかし市としては、その他の事業費を削減してごみ処理費用に回します。つまり、他の市民サービスが削られているということです。

 また、1人当たり600円ということは、67,000人とすれば年間4,000万円の収入減。こちらも市にとっては大きいです。

値下げの悪影響は値上げ時の好影響より大きく出る?

 過去の丹波市の値下げ事例から、市民にとっての負担を計算しました。

 単発ケースでの試算がどれだけ有効か。それを確かめるのにちょうど良い学術資料があります。

 兵庫県立大学の先生らがまとめられた「兵庫県41市町を対象にした生活系可燃ごみのごみ袋有料化に関する費用便益分析」(2015)です。先行する東京大学公共政策大学院「ごみ袋有料化の費用便益分析」(2010)などを下敷きに、兵庫県内の市町村を対象にして、適正なごみ袋料金について分析した内容です。

 その中で見出された知見をいくつか抜き書きし、先の丹波市値下げ事例と照らし合わせてみましょう。
 ただし、論文では「値上げ」によるごみ減量効果を取り扱っていますので、丹波市のような「値下げ」によるごみ増量とは逆方向のものであることにはご留意ください。

  1. ごみ1kgあたりのごみ袋価格が1%上昇することによって1人あたりの生活系可燃ごみが0.076%減少する
    丹波市1人あたり150㎏(論文内平均値は181㎏)からすると価格1%の上昇でごみ排出量は年間114g減少することになります。今回20%の下落なので想定なら2.28kgの影響。実際は143㎏から148㎏と5㎏増えているので、想定より倍以上影響しています。価格上昇による削減より価格下落による増加は大きく影響が出るのかもしれません。
  2. ごみ排出量が1%減少するとごみ処理費用が0.411%減少する
    丹波市のごみ処理費用8億2,900万円(論文内平均値11億円)でしたから1%につき340万円の影響。ごみ量は3.4%分増加したので、1,156万円の増加と想定。実際には8億9,400万円と6,500万円の増加。想定以上に増えた形です。
  3. 1人あたりの課税対象所得が1%上昇するとごみ排出量は0.112%増加する
    丹波市は1人あたり150kgですから、課税所得が1%上昇すると、ごみ排出量は年間168g増加することになります。要するに、所得の高い人ほどたくさんごみを出すという話です。

 こうして検証すると、丹波市の値下げ時の影響は、この研究と整合的であろうとは思いますが、値上げ時に想定される好影響以上の悪影響があったという結果です。

 あと、所得との相関は気になりますね。要するにごみ袋値下げの恩恵は、ごみをより多く出す高所得者ほど大きいということ。ごみ袋値下げって、必ずしも弱者にやさしい政策ではないのです。

では、ごみ袋料金の最適価格は?

 この論文では、余剰分析という手法を使って、各市町の最適ごみ袋価格を算出しています。
 余剰分析というのは、消費者余剰と生産者余剰を計算し、その最適な交点を計算する手法です。

 といっただけでは分からないですね。

 消費者余剰というのは「支払っても良い」と思う価格と実際の価格の差額を足し合わせたものです。
 価格が低くなるほど「支払っても良い」と思う価格との差額で「得した」と思う人が増えるので、消費者余剰は増えます。

 一方で生産者余剰は簡単に言えば利益のことです。価格が高いほど利益を確保できる生産者が増えるので、生産者余剰が増えます。ごみ袋の場合で言えば生産者が市にあたります。

 ごみ袋は安い方が市民はありがたい(消費者余剰増)。しかし安すぎると市が負担するごみ処理コストは増える(生産者余剰減)。
 一方で高い方が市民は困るけれど(消費者余剰減)、市としては処理コストを賄える(生産者余剰増)。

 相反するこの状況の中で、市民の満足感と市の財政、ちょうどよい社会的な均衡(消費者余剰+生産者余剰=社会的余剰の最大化)がとれるごみ袋料金はいくらか?

 論文では答えを出しています。

 丹波市の場合、燃やすごみ袋(大)で80円です。

 わぉ。

 現状の価格じゃないですか。他の自治体では最適価格が100円を超えるところが多い中、ごみ処理費用の抑制も効いているのでしょう(しかしその結果クリーンセンターの処理能力が小さすぎることが問題になっています)、丹波市は優秀だったんですね。

政治決断とリスク管理

 ファクトは以上です。

 ただ、ここに述べたファクトがすべてではない(たとえば移住希望者に与える市の生活イメージといったファクトもあるでしょう)ですし、ファクトがあるからその通りにしなくてはならないという話ではないことを申し添えておきます。

 これはパンデミックの想定とオリンピック開催の判断にも言えることです。

 あとは政治判断。

 そして政治的な決断をする以上、ファクトから想定される悪影響を回避あるいは最小限に抑える手立てを講じることが、リスク管理です。

 適切なリスク管理を行い、市民にていねいに説明する。

 それが政治責任でしょうね。

“ファクトフルネスなごみ環境問題” への1件のコメント

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