■議案89号 丹波市法令順守の推進等に関する条例の一部を改正する条例
「丹波市法令順守の推進等に関する条例」の改正です。
改正のポイントは2点ありますが、今回はそのうちの1点、丹波市独自の改正について検討します。
まずは条例の基本的な構成を紹介します。
- 第1条(目的)
「職員の職務に係る法令遵守の推進及び倫理の保持のための体制を整備し、公正な職務の遂行を確保することにより、市民に信頼される市政を確立することを目的とする。」 - 第2条(定義)
職員や内部公益通報、不当要求行為等がどの範囲のどのような行為かを規定しています。 - 第3条
職員が守るべき倫理基準 - 第4条
市長等が行うべき研修や対応方法 - 第5~6条
法令順守審査会の設置(5)と運用(6) - 第7~11条
公益通報の受付(7)、受理方法(8)、調査方法(9)、措置内容(10)、通報者保護(11) - 第12~15条
不当要求行為への対応方法(12)、調査方法(13)、措置内容(14)、職員配慮(15) - 第16条
公益通報や不当要求行為等への職員や市民の調査協力義務 - 第17条
市長による公表義務(年1回) - 第18条
その他
法令遵守の名でまとめられた性質の違うことがら
このようにしてみると、丹波市の「法令遵守条例」は、性質の異なる次の3種類を「法令遵守」の名のもとにひとつに合わせていることがわかります。
- 職員倫理(公務員として守るべき基準)
- 公益通報(法令違反を知った場合の通報)
- 不当要求行為(公務員に対する要求)
他市の同様の条例を確認しておきましょうか。地方自治研究機構の「職員倫理、コンプライアンス、公益通報等に関する条例」が参考になります。
それぞれの地方公共団体における条例を、次のように分類されています。
- 主として職員倫理・公務員倫理について規定する条例
- 主として不当要求行為等への対応を規定する条例
- 主として公益通報を規定する条例
- 不当要求行為等への対応と公益通報の両方を規定する条例
- 要望等の記録を規定する条例
職員を中心に考えると、「職員倫理」の項目は職員自身に「こうありなさい」と義務を課すものです。一方、「公益通報」は、他者の法令違反を通報した職員を守るもの、そして「不当要求行為」は、職員自らを脅威から守るものです。
性格が少しずつ違いますね。特に最初の「職員倫理」とそれ以外は、職員に対して義務付けするか、職員を守るかで、方向性が大きく違います。
丹波市の条例はこれらが混在している結果として、今回の改正にあたって問題となる点が出てきています。
職員の範囲に、非常勤特別職を追加
今回の改正のポイントのひとつは、この条例が対象とする「職員」の範囲を拡げることです。
具体的には、一般職だけでなく、非常勤を含む特別職も条例が定める職員に含めると。
職員については、「地方公務員法」の定義が参照されています。
2 一般職は、特別職に属する職以外の一切の職とする。
地方公務員法第3条
3 特別職は、次に掲げる職とする。
一 就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職
一の二 地方公営企業の管理者及び企業団の企業長の職
二 法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程により設けられた委員及び委員会の構成員の職で臨時又は非常勤のもの
二の二 都道府県労働委員会の委員の職で常勤のもの
三 臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職
三の二 投票管理者、開票管理者、選挙長、選挙分会長、審査分会長、国民投票分会長、投票立会人、開票立会人、選挙立会人、審査分会立会人、国民投票分会立会人その他総務省令で定める者の職
四 地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの
五 非常勤の消防団員及び水防団員の職
六 特定地方独立行政法人の役員
これまでは、第2項の「一般職」及び、3項の「特別職」のうち、副市長と教育長だけが対象でした。
それが、改正によって第2項の「一般職」及び3項の「特別職」のすべて(議員は除く)が対象となります。
具体的に言えば、行政がよく設置する「〇〇審議会」とか「〇〇委員会」のような会の委員さんや、日頃お世話になっている消防団員さんなども含むわけです。
消防団員さんはもちろん、「〇〇審議会」の委員さんも、ふだんはひとりの市民として民間の立場で住まわれていて、いざというときにお世話になる方々です。
多くの場合、「〇〇審議会」の委員さんは、たとえばPTAの役員だから、自治会の役員だから、という形で選出される「あて職」だったりしますよね。
審議会や委員会によっては年に1度も開かれないことだってある。
そうした方々も、「丹波市の職員」であると規定することになります。
特別職に倫理基準をどこまで求めるのか
では、そのことのどこに問題があるのでしょうか。
実はこの改正の本来の目的は、特別職であっても「公益通報」や「不当要求行為」から守ることです。
しかし冒頭に述べたように、丹波市の条例はそれだけではなく、「職員倫理」までこの条例で規定している。
結果的に、いわば一般の市民の方を、「職員」として倫理基準で縛ることになるのです。
職員に求める倫理基準は第3条に規定されています。確認しておきましょう。
第3条 職員は、市民全体の奉仕者であり、市民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について市民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等市民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならない。
2 職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならない。
3 職員は、法令により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の市民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならない。
4 職員は、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければならない。
5 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならない。
どうでしょうか。
まぁ、なんとなく当然のことなので良しとする考え方もあります。
でも、たとえばあなたがPTAあるいは自治会の役員に選ばれ、あて職で丹波市の委員会に出なくてはいけなくなったと想像してください。
そして、上記の「倫理基準」を示され、「これを守ってもらわなくてはいけません」と義務付けられるわけです。
ぼくなら、「余計なお世話」と思います。
みんな、善良なる市民として、一般的な倫理観を持って日々の生活をされていますよね。
それで十分じゃないでしょうか。
市民の方に参画いただくというのは、こうした善良なる市民としての役割を期待しているのであって、一般職の「公務員」と同じ倫理基準を義務付けるなんて、あまりに失礼だし、やりすぎだとぼくは思います。
特に上記の第5項に注目いただきたいのですが、「勤務時間外においても」という規定です。
年に何度あるか分からない委員会出席なのに、そんな市民の方の、365日を縛ることになります。
これはやりすぎではないでしょうか。そこまで言われてまで、消防団員を引き受けたり、委員を引き受けたりしなくてはならないのでしょうか。
もっと市民を信頼する市政であってほしいと思います。