本書を通してあらためて考えるようになったのは次のようなことだ。
- 有機農業はライフスタイルとしてとらえた方がいい
- 家族農業を応援することも農業の効率化に欠かせない
詳細は後ほど述べるとして、この二点は丹波市の現状に即しても深めていけそうなポイントである。
さて。本書の話。
広く言われていることに対して、元コンサルタントで現在は農業に従事する筆者が提示する次のような事実は、論議を呼ぶかもしれない。いくつか列記する。
・遺伝子組み換え(ゲノム編集)は安全である
技術が進歩する前から倫理面や安全面の研究がされ、管理された中で開発されているのが現状という。今後、たとえば実用化が見えてきた遺伝子組み換えによる「花粉症米(アレルギーを抑制するご飯)」が出てきたら、手にする人は多いだろうし、遺伝子組み換えへの抵抗も少なくなるのではないかと筆者は言う。
・IoT農業は地域振興と矛盾する
農業の難しさは労働集約型産業であることなのだけれど、たとえば自動運転トラクターが出てきたら、一人で同時に2台、3台の機械を管理できる、そうすると人が不要になり、雇用もなくなる、そんな農村の姿は寂しい。
・農薬は安全である
確かにかつて危うい商品があったのは事実だが、イノベーションが重ねられ、今では安全になっている。そもそも自然界にある物質の方が危険だったりするのに、無農薬を信奉するあまり、毒性が管理された農薬ではなく、そうした危険な自然由来物質を利用する現状もある。
・大規模農業の方が収益性が良いというのは幻想
規模が大きくなると機械投資もかさむのが現代の農業。だから、ある一定水準までは収益性が高まるが、機械や人手を増やさなければならない規模になると、収益性ががくんと落ちて、またそこから高まる、のこぎりの歯のような収益性グラフになる。
・六次産業化は厳しい
そもそも生産だけで時間をとられる農家が商品化まで手掛ける時間があるはずもない。多くの六次化の成功例はヒット商品や柱になる商品があってこそ成り立っている。そうした商品がめったに出ないから、たとえばひとつの商品に1000万円かけて開発するくらいなら、100万円かけて10の商品を開発する方が確率が高まる。しかし、実際それほど開発に時間をかけられるかどうか。
以上のように端折って紹介すると乱暴に見えるが、詳細は本書をあたってもらいたい。それぞれにデータを付しつつ、ていねいに議論されている。
また、最後に筆者が21世紀の農業プランとしていくつかの提案をしている。
- 給食を食育として予算増額
- 農業起業家を育てるために将来的な独立を見越した営農指導員や普及指導員の採用
- 食糧不足時代を見越した海外展開
などなど。なるほど、と思う案が少なくない。
そして、冒頭の知見。
有機農業はライフスタイルとしてとらえた方がいいというのは、よく言われるように「安全」というと農薬を否定する論法になり、建設的な考え方にならないからだ。人がヨガを楽しむのと同様に、オーガニックというスタイルとして広げる考え方が必要だ。
家族農業を応援することも農業の効率化に欠かせないというのは、大規模化の矛盾とのせめぎあいだ。もちろん、特産品などは大規模化するのも良い。一方で、筆者の言うように、大規模化にはリスクも伴う。むしろ小農の方が経営が安定する面もある。
昨年、国連で小農宣言が採択された。そうした中、今後の丹波市の農業を考える上で、頭をやわらかくしてくれる一冊である。
「誰も農業を知らない」を早速注文しました。恐らく真逆の視点も沢山あるでしょうが
そこを読み解くことで少しは柔らかアタマになるでしょう。
私たちも9月27日に池上甲一(近畿大名誉教授)氏を囲んで「SDGs時代の農業」をテ
ーマに研修会を持ちます。お時間がありましたら、近々イベントページを立ち上げますの
でご覧下さい。今後ともよろしくお願い致します。