前回の投稿「増える耕作放棄地(不作付地)の今―丹波市農業のこれから【2022年版】―」でご紹介したように、民生産建常任委員会で、農業委員会の皆さんと懇談をしました。
そこで出されたテーマが、「非農家に農業に関わってもらう」でした。
不作付地問題と期待される非農家の関わり
あらためて、このテーマが選ばれた背景について要点整理しておきます。
- 丹波市の世帯数は約26,000世帯。そのうち農家は7,600世帯
- 丹波市内にある農地面積は約4,550ha。不作付地は、その15%にあたる707ha
- 不作付地が目立つのが25a未満の農家で、47.5%にあたる181haが不作付地
- この背景にあると想像される現在起こっている事象は次の通り
親から相続したが農業するつもりはないので手を付けていない
耕作委託をしていた人が高齢化し農地を返却されたが自分ではどうしようもない
親から相続したが自分は都市に住んでいるので手の付けようがない
そこで、不作付地を解消するために非農家の方に少しでも農地を管理してもらえないか、ということです。
ぼくたちのグループで出てきた案は次の通りです。それぞれに検討する価値があるアイデアではないかと感じており、少し詳しく説明します。
- 売上(お小遣い)として楽しみを持てる土壌を作る
・直売所を活かして販路を開拓するお手伝い
・B級品でも買い取ってもらえる仕組みづくり - 市として戦略室を持ち発信力を高める
・自分の分は自分で作る自給自足キャンペーン
・剪定枝活用まで含めた循環型の草刈り市民プロジェクト - 特色ある農産への関わりづくり
・畜産振興のための飼料生産
・有機農業への取り組みの環境づくり
・小麦なども組み込んだ農地の有効活用
1.お小遣いの楽しみが持てる販路確保
副業農業を営むとなったとき、自分で売り先を開拓するのは現実的ではありません。自分の勤め先人脈を活かすという方向もありますが、どんな人でも出荷しやすい販路が確保されていると安心です。
そこで期待されるのが、直売所を活かして販路を開拓するお手伝いをすることです。
丹波市内には現在11カ所の直売所があります。
「かいばら観光案内所」「JA丹波ひかみ とれたて野菜直売所」「丹波とれとれ市 四季菜館」「交流会館かどのの郷」「夢楽市場(道の駅あおがき)」「愛菜館おなざ」「道の駅丹波おばあちゃんの里」「いちじま丹波太郎」「元気村かみくげ朝市」「蓬来の郷」「ヒロちゃん栗園 DE 八百屋さん」です。
丹波おばあちゃんの里は、この春から直売売場が広くなります。人気も高いので、出荷される生産者組合に入れば、それなりのお小遣い稼ぎができる。季節によってはひと月で100万円を超える収入を得られる方もいらっしゃいます。
生産者組合に入るには、農家としてしっかりしていないといけないのではないかと敷居を高く感じていらっしゃる方もいるかもしれません。組合に入りやすい声がけなど仕組みを整えて、もっと多くの方が販売に携わられるといいですね。
特に副業農業の場合、小さな農家でしかできない、珍しい、だけど人気のある品目を作るなど、工夫するのも楽しいかもしれません。
兵庫県の事業で、「元町マルシェ」という仕組みがあり、自治協議会単位で生産物を集め、神戸・元町の店舗で販売してくれる仕組みもあります。丹波市内で利用している自治協議会は多くはありませんが、お住いのところで加入されていれば、ぜひ検討されることをお薦めします。
ただ、直売所で販売するには、当然ながら一定の品質基準を満たす必要があります。
そこで、B級品でも買い取ってもらえる仕組みづくりをすることで、素人なりにしっかり育てた野菜類が無駄にならないようにすることも必要でしょう。
例えば、スイートコーンのB級品をスープに加工するなど、調理・加工部門と連携した仕組み。加工調理部門のある直売所なら、これらのことも期待できます。
あるいは、以前から提案もしているのですが、野菜をカットして冷凍保存する仕組み。これができると、出荷期間が広がるほか、給食でも使えるので、給食の地産地消率もあがることが期待できます。
2.戦略室を設けて情報発信を
丹波市として農業戦略室を設けて取り組む必要性について、これまで農業委員会からも指摘されましたし、議会でも指摘してきました。
しかし未だに実現できていません。
この原因は、おそらく農政が「生産支援目線」に偏りすぎているからではないかと考えています。そうではなく、「消費者目線」を持って、どのような作物をどのように市場に届けるか、食産業を興すつもりで取り組む必要を感じます。
そうすることで、生産面だけではない、ライフスタイル提案を含んだキャンペーンを打ち出すなども、力を入れることができます。
たとえば自給自足キャンペーン。せっかく農地を相続したなら、この機会に自分の分は自分で作る、という楽しみを持ってみる。
これはぼく自身も反省するのですが、最近になってようやく、自分の裏庭の畑で果樹を育て始めました。こんな楽しみを、拡げていけたら。
あるいは草刈り市民プロジェクト。草刈りがたいへんという声はよく聞きます。一方で、学生とのディスカッションでは、それを楽しみにできるという声もある。
両者をつなぐ戦略がないのが現状です。環境政策では剪定枝の受入を始めますので、これにあわせて、循環型社会を目指して市民みんなで取り組むようなプロジェクト化ができないか。
こうしたキャンペーン的なものは、生産支援の立場からだけでは起こせません。農業戦略として大所高所から取り組む必要があります。
3.特色ある農産への関わりづくり
最後は、非農家という目線からは少し離れ、専門の農業に近いところからのアイデアです。
肉用牛の生産高が多いことに丹波市の特色があるという話を前回の投稿でしました。そこで、畜産振興のための飼料生産を市内で賄うことはできないかという議論がでました。米からの転作という視点ですね。
このことが循環型農業につながることは先の投稿で紹介しました。国による「みどりの食料戦略」という方針もあるので、これから有機農業は拡大が求められる。
丹波市は有機農業の先進地です。「農の学校」もある。JAS認定への補助金があるなど、支援制度としても充実しています。
豊岡市では「コウノトリ」を循環農業のシンボルにしていますが、丹波市では畜産を循環農業のシンボルにできるかもしれません。
一方。有機農業を進める社会環境はまだまだです。
個人的には小さな非農家なら脱化学肥料・脱農薬を進めやすいのではと思いましたが、JAS認定を受けて「有機」を名乗るところまでは非常に難しい。
地域として有機農業を受け入れる環境が整っていないという指摘もありました。雑草が周囲の田んぼと比べて目立ったりするため、あつれきが生じたりもしている。
こうした、有機農業への取り組みの環境づくりをどうするか。個別の有機農家だけでなく、地域としての有機農業をどう考えるか、農会を巻き込むなど市全体として議論が必要です。
もう一点、気にかかるのは農地の有効活用です。
一般の企業なら、投資に対する回転率が生産性向上の視点から欠かせません。しかし水稲なら、圃場は年1回転しかしないわけですよね。
思い出すことのひとつは、綾部市の三セク農場を訪ねたときのこと。工場出身の経営者が、ハウスで軟弱野菜を作ることで、年何回収穫できるか回転率向上に努めていると話されていました。
もうひとつは淡路に視察に行ったとき。玉ねぎはちょうど稲作の裏作で栽培すると聞いて、だからこそたまねぎは主力産業に育ったのかなと感じました。
丹波市でも、例えばスイートコーンの後に小豆、といったことが考えられます。
ディスカッションで出たのは、小麦です。
秋に稲刈りをした後、小麦畑にする。春に小麦を刈り、黒豆を播種。黒豆を収穫したら、一冬休ませて春は田んぼにする。こうすれば2年で3回転ですね。
小麦でパンを作るなどしたら、パンも自給できるし、いかがでしょうか。
このあたり、裏作の場合は、たとえ麦や大豆を栽培しても、いわゆる転作奨励金が出るかどうかといった課題もありそうなので(丹波市「令和4年度丹波市高収益作物等作付転換促進事業補助金について」参照)、研究していきたいと思います。
以上、今年度の農業委員会さんとの懇談も、とても刺激的な内容でした。今後これを踏まえてどのように市政を動かしていくか、調査研究し、議会の場で活かしていきたいと思います。