新型コロナワクチンの接種にあたって知っておきたいことを、「いよいよ接種予約が始まるコロナワクチン-副反応、2回接種、変異株-」「いよいよ接種予約が始まるコロナワクチン-ワクチンのこと、感染後遺症のこと-」としてまとめました。
また、「新型コロナワクチン接種の現状とコロナ禍残された課題」では、ワクチン接種の進捗に合わせて、目下の感染状況についてご紹介しました。
では、自治体としては今後、どのように備えていけば良いのでしょうか。
レジリエントな市政へ向けて
ひとまず、来年2月と目される16歳以上の市民の方を対象としたワクチン接種が終わるまでは、現況のコロナウイルスとの闘いが続くことを前提としなくてはなりません。
一方で、高齢者接種が終わったことで、重症化する人の比率は減り、医療体制のひっ迫状況は緩和されることが期待されます。
医療体制さえ盤石なら、多少のリスクはあっても経済を回す必要があります。
ただしそれは「新しい生活様式」に添ったものでなくてはなりません。新興感染症は今後も出てくるでしょうし、被災を前提とした備えを日常的にしておくのが、ポストコロナ社会だからです。
そういう点で、「レジリエンス」という言葉をぼくは意識しています。
しなやかさ、回復力とでも訳せばいいでしょうか。困難や逆境にあっても、立ち直る力。
たとえばオンライン会議やオンライン授業など、コロナ禍で利用が広がった手法は、今後も一定程度利用し、状況に応じてその比率を増やしたり減らしたりする体制を維持しておくことが大切でしょう。
健康面では、日常からの免疫力を高める活動や、孤立を支える人のネットワークを築いておくことが欠かせません。
それは、健康寿命を延ばすための普段の努力と重なるはずです。
経済面では、ひとつのチャネルが失われた時にバックアップチャネルが働くような、マルチモーダルな経営。これは簡単そうで難しい。
たとえば食関連では、テイクアウトの延長に、「残り物」の流通と結び付けるなどして、家庭の食とより密着したSDGs的な手法。
たとえば農業では、野菜を加工したり冷凍したりすることで、出荷先の多様化や出荷時期に幅を持たせる工夫。
行政面では、デジタル化の推進と分散ネットワーク、その先にあるテレワークや市民参加型テックとの協働。
都市と地方の関係も再構築されるでしょう。
コロナ禍をきっかけに一気に地方シフトが進むかというと、おそらくそうではない。しかしライフ&ワークスタイルの中で地方を組み込むことは増えていくはずで、それをどう仕組み化するか。
都市か地方かという二者択一ではなく、両者を架橋しながら築くスタイル。知恵と工夫が試されていると感じます。
これらの課題は、実は感染症に限ったことではなく、東南海地震など今後の災害を想定した場合でも対処が必要な課題です。
レジリエントな社会って、固まった姿の間を切り替えるのではなく、危機状況に応じてスライダーを左右(上下)に動かすような社会のあり方だろうなって思います。
「検査」をめぐって
以下は余談的な話。
今回の感染症に伴って、「検査」について話題にのぼることが多くありました。
PCR検査、抗原検査、抗体検査。
PCR検査は検体に含まれる遺伝子を増幅し、病原体特有の遺伝子を探し出す検査手法。
これに対し抗原検査はウイルスのタンパク質そのものを検出する手法。結果判明が速いし手軽に利用できますが、PCR検査より偽陽性が多くなるのが欠点。
抗体検査は、ウイルスに対抗して作られる体内の抗体を調べるもの。感度が高く、陽性となれば、過去に感染したかワクチンを接種したか、まず間違いない。ただし、それと免疫力があるかは別問題です(抗体量等と免疫の関係は未解明のため)。
本来検査っていうのは診断に伴って行うもので、独立した何かではありません。インフルエンザの検査だって、医院で行いますが、最終的にインフルエンザかどうかは、症状やその地域での流行状況などもふまえながら、医師が診断を下しているわけですよね。
それと同じように、検査を施策の中でどのように組み込むかは、行政にとって課題であったのだろうと思います。
そんな観点も踏まえながら、ここではPCR検査をとりあげて、その活用を考えるにあたって押さえておくべき特徴について、メモがてら紹介します。
医学的な観点からの詳細は、日本疫学会「新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A」などをご参照ください。
PCR検査は感染していない証明にはならない
そもそも検査って、検体に含まれる対象物の検出を目指すものです。
なのでPCR検査であっても、検体に遺伝子(RNA)が少なければ、いくら増幅しても検出できません。当人が感染していたとしても、検体をとる鼻の粘膜なり唾液なりにウイルスが少なければ、検出されない。
また、インフルエンザの検査でも発症から24時間以内は検出できないと言われるように、新型コロナウイルスでも、もっとも検出されやすいのは感染から8日目(症状発現の3日後)だそうです。
ですから、昨日参加したイベントで感染したかもしれないから、今日PCR検査をして確認するというのは、ほぼ意味が無い。
陽性の確定には使えるけど、感染していない証明にはならないっていうことですね。
このあたりは、検査の「感度」と「特異度」からも説明されます。
感度というのは、真の感染者のうち、検査で陽性と判定される人の割合。
特異度というのは、真の非感染者のうち、検査で陰性と判定される人の割合。言葉がどうも馴染まなくて調べてみたのですが、「PCR検査で出た結果は陰性に特異的だ」と理解したら良いようですね。特異的なので陰性以外の可能性は考えづらい。
ある人を調べて、その人が感染者かどうかを確定するには、特異度が高い検査が向いています。間違って感染者とすることが少ないので。PCR検査や抗原検査がこれ。
一方で多くの人をスクリーニングして探し出すには、感度の高い検査です。取りこぼす可能性が低くなるので。抗体検査がこれです。
感度と特異度と事前確率のこと
PCR検査の感度は、およそ70%くらいと言われています。100人の感染者を検査しても、30人は見逃すことになります(偽陰性)。
一方で、特異度は99%以上と言われています。99%間違いないが、100人に1人は間違ってしまう(偽陽性)。
仮に、丹波市と丹波篠山市の10万人を対象に、全員のPCR検査をしたとしましょう。
前提として、そのうちの1%、1,000人が感染しているとしますね。
感度70%なので、1,000人の内、陽性と出るのは700人(300人は偽陰性)。
一方で、特異度99%なので、10万人のうち1%、つまり1,000人が偽陽性になる。
合計で1,700人が陽性と判断されるわけですが、うち1,000人は誤っていることになりますね。この状況は医療機関の負担を考えると不合理です。
確実にするために2回検査する? いえいえ、新たに偽陽性者を増やすだけです。
じゃあどうすれば良いか。
確率が高い場合のみ検査するのです。
今、1%が感染している前提で紹介しました。これが仮に30%としましょう。たとえば三密の揃った1,000人のイベントでクラスターが発生し、300人に感染したと。
感度70%なので感染者300人の内210人が陽性となる(90人は見逃してしまう)。一方で偽陽性は1,000人の1%で10人。合計220人の陽性者の中で偽陽性は10人なので、さきほどと比べてずいぶん違います。
この事前確率の考え方、ベイズ統計ってやつですね。
もう少しそれらしい問いに変えましょうか。
仮にあなたが検査を受けて陽性になったとします。あなたが本当に感染している確率はどれだけでしょうか。
前述の事前確率1%の場合(全市民検査ケース)、1,700人のうち700人なので、あなたが本当に感染している確率は41%。これを事後確率と言います。
あなたが感染している確率は、検査前は1%でしたが、検査で陽性と判定された結果、41%にあがりました。事前確率が低いと、たとえ陽性となってもまだ半分いかないんですね。これで隔離されたり入院を求められたり。大変ですよね。
イベントケースの場合は、事前確率30%でしたが、検査で陽性になった結果、事後確率は95%となります。
PCR検査を、クラスターの可能性のあるところや発熱がある場合など、事前確率の高い場合に絞って行うのはこうした事情からなんですね。