メタバースはSecondLifeから何を学んだか?

 2022年現在、「メタバース」がバズワードです。Web3とからめて語られることもあります。とはいえ、「TheSandBox」こそWeb3技術(ブロックチェーン)を利用していますが、人気の「VRChat」は別ものですし、基本的には切り分けて考えておきましょう

 で。

 いきなりあれなんですが、正直、メタバースも一過性のブームに終わるんじゃないかと思っています。ぼくがゲームをしないからですかね。やっぱ、没入できない。VRゴーグルをかけてみてもね。
 工務店さんがモデルルームを提供したりとか、オンライン会議をより体感的に行うといった、場面を絞った具体的シーンでは活用されると思うのですが、社会を変革するツールまではならないんじゃないかな。

 かつて書いた原稿を掘り起こす「ゼロ年代の鏡像」シリーズ、今回紹介するのは2007年の3月頃に、自費出版した冊子用に書いた論考です。
 テーマは「SecondLife」。当時抱いた印象を、今メタバースを前にしても抱くもので、再掲してご紹介します。

 ご存知ですか、SecondLife。今も続いている3Dワールドです。

 当時はゲーム用語を借りて「MMO」と呼んでいました。今では、早すぎたメタバースなんて表現もされますね。
 当時、ぼくもその世界に入り、知人に土地を案内してもらったり、一通り体験したものです。

 ただ、やっぱ居つくことは無かった。
 それでも下記に紹介する当時のレビューでは、最後に、「こちら側」と「あちら側」を結ぶ可能性には期待している。

 Web3技術を用いれば、自分の資産(トークン)を別の世界に持ち出せますので、そのあたりのブリッジはより自由に設計できるかもしれません。
 ただ、記事にも触れていますが、それだって、あの頃も「RMT」なんて仮想通貨をリアルマネーに交換するサービスがあったわけですね。

 そう考えると、やっぱ、冒頭に述べた感想は変わらないかな。
 繰り返しになりますが、15年前にSecondLifeに感じた思いを、また抱いている。

 メタバース時代に振り返る15年前の仮想空間レビュー、何かの参考になれば。

(2022年10月05日)


MMOがもたらす社会関係資本


MMOサイトの興隆

 米国発のオンラインサービス「Second Life」の登録会員が100万人を超えた。ユーザー(プレイヤー)が自分のアバター(仮想人格=キャラクター)を操って、3Dで描かれた仮想空間を移動し、同時アクセスしている他のユーザーと一緒にイベントに参加したり、交流を図ったりするサイトだ。

 こうしたサイトは、MMO(Massively Multiplayer Online)と呼ばれ、オンライン型のロール・プレイング・ゲームでよく利用されている。Second Lifeの特色は、ゲームのように倒すべきモンスターがいたり迷宮があったりということがなく、ユーザーそれぞれが自由に行動し、自分で楽しみ方を発見していくところにある。

 ではユーザーはどんな楽しみ方をしているのか。クラブのような施設で見知らぬ相手との出会いを楽しんだり、有名歌手のコンサートに参加して新曲を聴いたり、ブティックを訪れてアバターに着せる衣装を買ったりする。受身で楽しむだけではない。ユーザーは自分で衣装やインテリアをデザインできる。さらにはそれを販売し、「土地」を購入してブティックを開設したり、同好の士が集まって交流組織を立ち上げたりもできる。現実の世界をシミュレートし、まさに「第二の暮らし」を楽しめるのだ。(キャプチャは、プレイヤーが作った無料のグッズを販売しているショップ「Free Dove」の店内)

 Second Life上では仮想通貨を利用する。これを現実の通貨と交換できるRMT(Real Money Trade)も整っており、仮想空間でファッション・アイテムなどを販売することで実際に生計を立てている人もいるという。2006年後半に入ってロイターが「支局」を開設、ホテルグループが仮想ホテルを建設するなど、企業の進出も相次いでいる。

仮想経験の効果

 企業は、MMOに何を期待しているのか。わかりやすいのは、「プロダクト・プレイスメント」だろう。これはテレビや映画、ゲーム内に商品を登場させる手法のことだが(初期の成功事例として知られているものに『E.T.』内でETが手にするキャンデーがある)、Second Life内でも看板を出したり、自社の新商品を展示したりする企業がある。視覚効果だけではなく、新曲披露コンサートをしたり、アバター向けの粗品を提供したりもできるところが深い。

 ホテルの場合なら、現実の建築計画に先駆けて、利用者に好まれるデザインを探る試みを行っている。ビジネス・ウィークの特集では、このほか新製品イベントを開催したり、テストマーケティングに活用したりといった事例が紹介されている。アイデアはまだまだ広がりそうだ。日本でも先行企業によるコンサルティングサービスや広告代理店主導の研究活動が盛んになりはじめたが、今から知識を深めておく必要があると指摘されるとおりだろう。

 さらに注目されるのは、アバターによる消費行動だ。石井淳蔵・水越康介編『仮想経験のデザイン』(2006、有斐閣)で別の事例をもとに分析されているが、アバターのための衣服や部屋のインテリアなどは、いわば単なるデジタル・コンテンツであるにもかかわらず、消費欲を喚起する。仮想空間内で友人を自分の部屋に招いたとき、椅子が無いので申し訳ない思いをしたという話もある。アバターによる「もうひとつの消費」がビジネスチャンスを提供する。

ソーシャル・キャピタルの充実に向けて

 いま、友人を招いた事例を紹介した。ここから見えてくるのが、仮想空間における人との交流を、アバターがより深いものにしている可能性だ。ここに、MMOが持つ、ビジネスチャンスを超える可能性を感じる。

 池田謙一編著『インターネット・コミュニティと日常世界』(2005、誠信書房)によると、インターネット上では、相手から恩義を受けた場合はお返しをしなくてはいけないとう応酬の思いが、オフラインと同等以上にみられるという(図参照)。実際、仮想空間でも、相手から恩義を受けたお礼にプレゼントを買って贈る行為がみられる。

 互酬性は人間関係資本(ソーシャル・キャピタル)を豊かにする欠かせない要素だ。アバターはそれを後押しするらしい。それを、リアルな社会での関係につなぐことができないだろうか。それができれば、今後の日本社会にとって欠かせない「地域コミュニティ」の再生につながる。

 問題は設計だ。いまはまだ「こちら側」と「むこう側」が切り離されている。しかし、MMOにはRMTというふたつをつなぐ橋が備わっている(RMTを地域通貨の一種としてとらえることもできるだろう)。アバターによる仮想経験と、リアル世界のコミュニティ。ふたつを融合させて、ソーシャル・キャピタルの豊かさを築くことができないか。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)とともに、MMOに注目しておきたいゆえんである。

【参考書】
宮田加久子『きずなをつなぐメディア』(2005、NTT出版)
宮川公男・大守隆編『ソーシャル・キャピタル』(2004、東洋経済新報社)

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