今ではオンラインショップってごく普通に利用されているけれど、こちらは、まだ草創期と言える時期のインターネットの状況を伝えていると思い、ご紹介します。2000年11月頃、関西消費者協会の機関誌『消費者情報』向けに書いたコラムです。
文章中で、当時利用されていたサービス名称がいくつか出てきますが、そのまま残しておきました。今では別のサービスにとってかわられているものも多いですね。そのあたりの、懐古的な意味も含めて。
そして、この原稿でもまた、都市と地方を比較している。地域と情報の関係を、当時からかなり意識していた様子。
また、この原稿の中で触れている「コミュニケーション」や「コミュニティ」こそ本質、という考え方は、今にも通じると思います。ただ当時、ぼくはこれらの言葉を、個人を可能性に向けて開いていく言葉としてイメージしていました。しかし、今この時代においてのコミュニケーションやコミュニティは、むしろ「ウチワ」的な面もおおいにあり、そこはインターネットが一般化するとともに出てきた、もうひとつの側面であるかもしれません。
(2019年追記)
生活の中のIT革命
関西消費者協会『消費者情報』2000年12月号
■生活に浸透するオンラインショッピング
ベルの音に玄関に出ると海外からの小荷物だった。来客があるたび戸口まで出てくる2歳半の息子は、さっそく「なに、なに」と開けようとしている。書籍だ。オンライン書店Amazon.comで注文した10冊ばかりの洋書が、海を越えていま子どもの手の中にある。
子育てをしながら家庭で仕事をしていると、ゆっくり買物をする時間をとれることがあまりない。子連れで書店に出かけても、絵本コーナーに行きたがる子どもに手をひかれ、のんびり選ぶ暇なんてあればこそ。そんなわけで、在宅勤務をはじめてからの2年余り、すっかりオンラインショップのとりこになってしまった。
いま、日本における自宅からのインターネット利用者は2000万人弱。そのうちオンラインショッピングの経験率は15%強というから、自宅のパソコンでオンラインショッピングを経験した人は約300万人ということになる。これをひとつの商圏と考えれば、大阪や神戸といった都市の人口を優に上回る。全人口からの比率としてはまだ少数派とはいえ、いつしかそれなりの市場に育っている。
売れている商品を見ても、一時期のコンピュータと周辺機器ばかりという時代は過ぎ、いま日本では衣料品や食品が人気の分野だ。この1年、女性の購買客の増加が目立ち、オンラインショッピングはすっかり日常風景になった感がある。
■関連サービスも続々登場
オンラインショップのにぎわいとともに、買物に関連する分野にもさまざまなサービスが登場している。
なかでも注目されるのが、消費者による商品の評価情報を集めたサイト。「WAAG」「PTP」といったサイトがそれで、実際に購入した人が商品に点数をつけ、コメントを書き込めるようになっている。アクセスした人は、書き込まれた他人のコメントを読めるだけではなく、そのコメントが役立ったかどうか評価することもできる。
また、専門家がオンラインショップの信頼性やサービスについて評価するサイトも人気だ。「BestSHOP」や「Gomez」などがそれ。あるいは日本通信販売協会や日本商工会議所が審査して発行しているオンラインマーク制度。購入にあたってこうしたサービスでショップを確認しておくと安心だ。
ほかにも、商品の価格を比較できるサービスや消費者の声を集めることでメーカーに希望の商品を作ってもらおうとするサービスなどもある。
■「コミュニティ」こそがネットの本質
これらインターネット上に登場してきた新しいサービスの多くは、「コミュニティ」がキーワードになっている。これまで、個々の小さな声でしかなかった消費者が、インターネットを介してつながることによって大きな力になる。その相互作用を活かそうというのが「コミュニティ」サービスの主眼だ。
じつは、インターネットの本質はこの「コミュニティ」性にこそある。現在インターネットをはじめる人の動機として多いのは「電子メール」だが、このことも人がインターネットにコミュニティ機能を求めていることの証左といえるかもしれない。昨年から爆発的人気を呼んだiモードも、メール機能がなければどうだったか。
インターネットは「ホームページ」を見るためだけにあるのではない。むしろコミュニケーションのツールであり、仲間を得るためのツールとなっている。ぼく自身のアドレス帳に記された友人も、インターネットを始める前より、始めたあとに出会った人の方がはるかに多い。このほど会社を共同設立した友人も、ネットで出会った仲間だ。
IT革命の進展で「オタク」が増えることをどこかの首相が憂えていたというニュースがあったが、仮にコンピュータを孤独な機械としてとらえているとすれば、なんとさみしい理解だろう。
■IT革命の鍵はコミュニケーションに
民間調査によると、この夏、日本におけるインターネットの世帯普及率は30%を超えたという。しかし、誰もが揃ってインターネットを利用しているわけではない。首都圏では普及率が4割を超えている一方で、地方ではようやく1割を超したという県も少なくない。あるいは年収によるパソコン保有率の差も大きい。
ぼく自身、出張で東京に出て仕事仲間と打ち合わせるときと、兵庫県の山間部にある田舎に帰省して地元の人たちと話すときでは、インターネットに対する態度に大きな差を感じざるを得ない。そうした格差を埋めるのは何か。インターネット接続回線の太さなどの問題もあるだろう、でもなにより、それはコミュニケーションへの希求ではないかと考えている。
この夏、田舎の父がパソコンを始めた。問われて最初に教えたのは、ワープロでも表計算でもない、電子メールの使い方だ。誰かとつながっていたい、人とコミュニケーションをとりたい。その気持ちこそが古代から続く人間の本質であり、人を前に進ませ、IT時代に適応する鍵となるのではないだろうか。
1週間後、父からの初めてのメールが届いた。そこに、IT革命の明日を見ている。