半導体の集積度は18ヶ月で2倍になる、というのがムーアの法則だ。1965年の雑誌記事内でゴードン・ムーアが述べた見解がもとになっている。
実際に計算量あたりのコストは、1960年頃からの20年間で1億分の1、ということは18ヶ月で半分という法則どおりに推移しているからすごい。
普通の技術は、最初はゆっくり立ち上がり、普及期になると急速に進化し、やがて天井をうつ「S字カーブ」を描く。半導体についてはこれがない。
そのようなことが可能になった要因は3つあるという。(1)素材がシリコンという地球上に酸素についで多い素材であり、希少物質の場合に起こりうるコストダウンの限界がなかったこと。(2)シリコン・ウェハの上に回路を「印刷」するだけという単純な技術(プレーナ技術)ゆえに、微細化を進めやすかったこと。(3)量産効果が上がりやすかったこと。(4)すべてのコンピュータに必要で、かつ標準化されていたため、需要は今後とも増え続けるのが間違いないという安心感があったこと。
池田信夫サンはこうして、ムーアの法則とは何か、なぜそれが法則になったかをわかりやすく整理したうえで、副題で問われている「何が変わるのか」の解説に入る。読みやすい解説書であり、情報社会をチップという基盤技術の側から見る、優れた入門書だ。
ムーアの法則で変わること。それは、情報がすべてコンピュータ化され、処理コストが3年で1/4、10年で1/100まで下がるということだ。
情報インフラのコストは劇的に下がっていくから、情報を処理する上でのボトルネックは、機械の側ではなく、人間、そして人間が作った制度の側に移る。
ムーアの法則により低価格化するハードウェアに対し、ソフトウェアは複雑化し、その開発は切り離されて水平分業されるようになる。工程はモジュール化され、中央集権ではなく自律分散型の管理が中心になる。ハードウェアから切り離されたサイバースペースは独立して存在するようになるが、ボトルネックである人間社会の側が、この仮想的な帝国をコントロールしようとする。
たとえば著作権が、個人情報保護法がボトルネックになりつつあるのだ。
そして、より重い課題が、終章で述べられる。
池田サンは、トクヴィルの見たアメリカを引きつつ、インターネットは、アメリカ的デモクラシーを世界に広げたものにほかならないと指摘する。
人々がみんな、バラバラの個人として同格に存在するインターネット。そこで成り立つデモクラシーは、強靭な意志の力で支え続けないと崩れてしまう。でないと、アナーキーに陥る危険がある。
それでも、インターネットの箱は空けられた。
それを閉じることは、もうできない。
池田サンが最後に提示されている問題意識を共有したい。
「その先にある絶対的な孤独に、私たちは耐えられるのだろうか。あるいは新しいコミュニティは建設可能なのだろうか。」