20世紀ファッションの文化史―時代をつくった10人

20世紀ファッションの文化史―時代をつくった10人楽しく、かつ刺激的な一冊。

ファッション業界に限らず、およそクリエイティブに関わっている人であれば、インスパイアされる箇所が多いことだろう。
あるものごとの歴史を取り上げるにあたって、人に焦点をあてるアプローチがある。このコーナーでとりあげてきた本の中でなら、たとえば『エレクトリックな科学革命―いかにして電気が見出され、現代を拓いたか』がそうだ。

本書も、人に焦点をあてて20世紀ファッションの文化史を物語るが、秀逸なのは、ひとりひとりのデザイナーの、時代における位置づけを明確にしているところだ。彼、あるいは彼女が、どのような時代状況の中で、何に抗い、何に従い、どのような創造を時代に対して加えたか。それぞれの創造のルーツを語っている。

20世紀ファッションを語るにあたって、成実さんは二人の対象的なデザイナーから語り起こしている。1825年イギリスに生まれたチャールズ・ワースと、1829年ドイツに生まれたリーヴァイ・ストラウス。前者はオートクチュールと呼ばれるハイファッション(高級服)分野を切り拓く端緒となり、後者はジーンズを生み出してマスファッション(大衆服)の定番を作り出した。

オートクチュールとジーンズはいずれも1850年代に産声をあげ、1870年代にひとつの完成形を迎えたという。そこから連綿と現在に続く20世紀ファッションの流れ。この図式に、どこかめまいを覚えるような、人類の文化の奥深さを感じる。

本書で語られる10人の最初は、そのチャールズ・ワースだ。まだ宮廷文化が華やかだった時代に、彼がいかにしてハイファッション分野を開いたかが語られる。顧客データを管理し、アメリカからの注文を「通販」で受けることもできた体制作りを含めて、そこには戦略が重要であった。ファッション・デザイナーは芸術性だけではなく、ビジネス感覚にも長けている必要がある。

続いてポール・ポワレ。ヘレニズム風ドレスの提案、女性のコルセットからの解放。もっとも、これはあとに出てくるミニスカートのマリー・クアントにも言えることだけれど、時代はひとりのデザイナーが変えたというよりも、その時代、すでにそうした風潮はあり、デザイナーはそれをすくい取ってメジャーにする役割を担ったにすぎない(それができるというのがすごいのだけど)。

そしてガブリエル・シャネル。そのシンプルなスーツスタイル、そっけない香水のデザインなどは、1920年カレル・チャペック『R.U.R』(ロボットという言葉を生んだ)、1926年フリッツ・ラング『メトロポリス』など、人間を機械と見る思想が背景にある。モダニズムの時代だ。日本でもモガ、モボが言われた時代。
それから、シュールリアリスムをとりいえれたエルザ・スキャッパレッリ、アメリカの消費革命にのってレオタードスタイルなどカジュアルウェアを浸透させたクレア・マッカーデル、戦後の困窮期に布地を多く利用しつつあえて古きよき時代に戻ろうとしたクリスチャン・ディオール、日本からはコム・デ・ギャルソン。

そこから見えてくるのは、20世紀という時代と切り結びながら、ときにそこに棹し、ときに逆らいつつ、ファッションデザインという新しい消費文化を開いてきた人たちの姿。

ファッションを通して、時代を作ること、時代に関わることとは何かを考えさせられる。

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