地域づくりの新潮流―スローシティ/アグリツーリズモ/ネットワーク

地域づくりの新潮流―スローシティ/アグリツーリズモ/ネットワーク 副題に並ぶ3つのキーワード。いずれも気になるテーマである。

まずはおさらいしておこう。スローシティ。この母体はご存知「スローフード運動」だ。スローフード運動は、1986年にマクドナルドがローマのスペイン広場に進出するという計画を聞いたイタリアのジャーナリスト、カルロ・ペトリーニらが、これを阻止する運動を始めたのがきっかけ。

スローシティは、やはりイタリアで生まれ「チッタズロー」と呼ばれるものだが、1998年にスローフード協会年次集会に同席したブラ市、グレーベ・イン・キアンティ市、オルビエト市、ポジターノ市の四市長が意気投合して、スローフードの精神をまちづくりに適用しようと始めたもの。現在では世界中で50を超える都市がスローシティとして認証されているという。

アグリツーリズモもまた、イタリア生まれだ。1960年代に農村の現金収入を増やす目的で政府が始めた農村民泊の補助システムが原型。1985年になって法制化され、現在までに1万1000戸の農家が実施している(とはいえ全農家数の0.3%)。

同じような活動はイギリスでも活発で、こちらはグリーンツーリズムなどと呼ばれており、同様の取り組みとしてはむしろ先輩格。ぼくも以前B&Bと呼ばれる農家民宿に泊まったが、あれはなかなか楽しいものだ。

もっとも、1983年に組織された「ファーム・ホリデイ・ビューロー」に参加している農家数は1,000ほど。これも農家の現金収入を増やすことが目的であることには変わりない。

ネットワークという言葉は、ここでは純粋に言葉どおりの意味で使われている。具体的な分析としては、アグリツーリズモの組織形態とスローフードの組織形態を比較して、後者はフラットだが前者は樹形だといった指摘がなされている。
さて、本書は、これら3つのキーワードをめぐって、イタリアやバルト海周辺(ヘルシンキやカルッキラ、タリン)、イギリス(オックスオード、バースなど)、ドイツ(交通ネットワークの観察が主だ)に取材し、その結果を報告したものとなっている。

中心的な人物へのインタビューも交え、ていねいな報告だが、とりあげられている街は、いわゆる農村より都市部が多く、中山間地における取り組み事例は少ない。つまり、主として「スローシティ」を中心に、取材されているわけだ。

実は、今年は本格的にグリーンツーリズムの普及に取り組みたいと考えている。
これは別の文献で得た考え方だが、まずは年60万円の増収を果たすだけでも農家にとっては大きいという(まあ、わが家の場合でもそういう側面はある)。

この具体的な数字は、実際の目標としてもけっこうリアリティがあって、できればグリーンツーリズムでこれを達成する仕掛けをしていきたいというのが願い。

先進地では、アグリツーリズモに関連して、たとえば具体的にどんな農家が、どんな施設や体制で、どんなサービスを提供し、どのくらいの価格で、年収の何割くらいをそれに頼っているのだろう(残念ながら本書からはつかめない)。

ヨーロッパにおける事例を、日本における先進地である安心院などと比較していくとおもしろいかもしれないね。

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