「元気村」はこう創る―実践・地域情報化戦略

「元気村」はこう創る―実践・地域情報化戦略 これが本題になっていてもおかしくない。そういう副題である。

むしろ普通なら「実践・地域情報化戦略―「元気村」はこう創る」ではないか。この、あえて副題的な一文をタイトルにした姿勢に、本書のネライを深読みすることができるかもしれない。

そこに読み取れるのは、熱い思いだ。まとめ方はガクジュツ書的なアプローチなのだけれど、編者・著者らとしては直接実践者に訴えかけたい。仲間を広げ、日本を元気にしたい。そういうメッセージを優先して、メインタイトルは選ばれたのだろう。

著者らの思いはプロローグ「いまなぜ地域情報化が必要か」に表明されている。「行政が住民に対してサービスを提供することで地域社会を支えるモデルが、もはや立ち行かない」現代社会において、「地域に住む人々を地域づくりの主役であると考え、地域の人々が地域の資産を活用して個性と活力のある社会をつくる」ことを目指そうと。

だから、副題におけるもっとも重要な単語は「実践」だ。

第二章「地域情報化の現場で何が起きたか」では、熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」から始まって、熊本県山江村の「住民ディレクター」、富山の「インターネット市民塾」、徳島県上勝町の「いろどり事業」など、8つの「実践」事例が紹介されている。この分野に関心を持っている人なら見聞きしたことがある活動が多いことと思う。

続く第三章で、こうした地域からの活動が全国に伝播しつつある様子が活写される。

そして。本書のもっとも大きな特徴は第四章「地域情報化は移植できるのか」にある。なんと著者らは、福岡県東峰村という、人口約2800人の村を舞台に、意図的に「地域情報化」を移植しようというのだ。

観察し記録し分析するスタイルの研究が多いなかで、自分たちの理論を実際の地域で適用しようとする試みを、ぼくはワクワクしながら読んだ。

ほんとうなら、ここはもっともっとページ数を割いてほしかったところだ。著者らは光ファイバー回線を村までひっぱり、「住民ディレクター」「インターネット市民塾」「ケースメソッド(鳳雛塾)」という地域情報化のツールを、学生たちとともに一気に村に移植しようとする。レポートからは、当時の村の熱さが伝わってくる。

ただ、おそらくは2006年に始まったばかりの活動であり、まだ客観視できる段階ではないということもあるだろう、「移植できるか」に対する答えは、読者に託されている。

あなたは、著者らがなぜ東峰村でそういうアプローチをとったのか、それによってどのような結果を目指したのかという仮説と、それに対する検証を含めて、自身で読み取らねばならない。その上で、あなたの地域ではどうするかを考えねばならない。

東峰村の事例の著者は、第四章の最後で「ITはガジェットか、地域情報化のゴールは経済の活性化か」と問いかける。それは、しばしば実践家を悩ませる問いでもある。

そして著者は、地域情報化の取り組みのゴールを決めるのは、地域に暮らす主体それぞれでしかない、と続ける。

一見、突き放したようなこの表現。

しかし実はこの一文に、答えはすでに出ているのではないか。

ぼくにはそう思えてならない。

その答えにめぐり合ったことが、ぼくにとって本書から得た最大の収穫だった。

私見だが、書く。

決める主体を生むこと。それが地域情報化のゴールだ。

これまで行政に頼っていた地域住民が、自らが地域運営の主人公として目覚め、動く。そういう「主役」の自覚を持った人たちを生むこと。

地域情報化のゴールは、それでいい。

その先?

経済活性化かもしれない。医療の充実かもしれない。文化の伝承かもしれない。だけど、そこまでゴールを定義する必要があるだろうか。だってそれは「主体」が決めることだから。

それら主体が「その先」のゴールに向うとき、そのときすでに「地域情報化」は手段ではなく、ツールになっている。ツールにゴールは必要ない。

そういうことではないか。

それは、本書の著者らの主張と異なるものではないはずだ(第五章で著者らは、地域情報化プロジェクトが「社会貢献を目指すソーシャルアントルプレナーを輩出するプラットフォームとしても機能している」と指摘している)。

情報社会における智民を生む基盤としての、地域情報化。

だからあなたは、本書から具体的「実践」手段を教わろうとしてはいけない。教わろうと考えた瞬間に、あなたは主体であることを放棄しようとしている。

あなたにできるのは、本書の豊富な実践例からあなたなりの何かを掘り起こし、あなたの活動として、あなたの地域で始めることでしかない。

そのとき、おそらく本書の著者らはあなたの前に現れ、「あなたの」活動を支援してくれることだろう。

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