ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則

ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則 (幻冬舎新書) 主題で「何か」と問い、答えを抜き出したのが副題になっている。

本書のポイントをついた副題なので、これを下の方から読み解いてみよう。

まずは「法則」だ。

サイトウ・アキヒロさんは本書で、日本のゲーム作りの裏にあった経験則を言語化し、「法則」として普遍的に記述しようとしている。

それを名づけたのが、ゲームニクスだ。

言語化すると、ものごとは普遍性を帯びる。サイトウさんはゲームニクスを突き詰めつつ、これはゲームだけの法則ではないと気づく。

むしろ「ものづくり」全般に関わることではないかと。

ゲームニクスの二大目的は、「直感的な操作性」と「段階的な学習効果」だという。

この表現は、後で紹介する4大原則とレベルが揃っていない気がするので、ぼくなりにユーザ目線で書き変えさせてほしい。

すなわち、「すぐに使い始められる」と「使ううちに上達する」だ。

この二つの特性は、さまざまな製品(もの)において、備わっていてほしい特性ではないだろうか。ここに、ゲームニクスをものづくり全般に普遍化する踏み台がある。

たとえば携帯電話。初めて携帯電話を購入したとき、ぼくはその分厚いマニュアルに驚いた。電話は「すぐに使い始められる」ものであってほしい。

そして、使ううちに、どんどん使い方が上達するといい。

ぼくなんて今だに携帯電話を電話としてしか使っていないけれど、ゲームニクス理論が息づいていれば、そこに備わった数多くの機能にどんどん触れるようになっていたかもしれない。上達するとは、そういうことを意味している。

では、これら二つの目的を達成するにはどうすればいいか。

それを記述するのが、ゲームニクスの4大原則だ。すなわち、「(1)直感的なインタフェース」「(2)マニュアルなしでルールを理解してもらう」「(3)はまる演出と段階的な学習効果」「(4)ゲームの外部化」。

サイトウさんは、ここでgoogleやiPodを例に出し、これらの原則が「世界基準」で息づいていることを説明する。

もちろん、同じ「世界基準」の、たとえばトヨタのカイゼンなどと違い、googleやiPodなどが直接的にゲームニクスを参照したわけではないだろう。しかし、たしかにこれらのサービスは、先ほどの二大目的を達成している。その底流に息づく原則を読み取ることで、ぼくたちの「4大原則」に対する理解はゲームを離れ、一般化される。

副題の頭にある「日本発」っていうのは、一義的には、日本企業を中心にしたゲーム産業が今、世界を席巻していることを意味している。その成功を裏打ちしている「ゲームニクス」を、世界の企業が参照する時代になっていると。

ただ、「日本発」のより深い意味は、「あとがき」で触れられていて、ぼくはむしろそこにぼくたちが参照すべき何かがあるように感じている。

すなわち、ゲームニクスの真髄は茶の湯の時代から流れる「もてなしの文化」にあるということ。ほんとうにたいせつなことは、日本人が昔から培っていたんだっていうこと。

ぼくも一時期茶道をたしなんでいたので、当時のことを思い出すんだけれど、型にはまっているように思える茶道も、本質は合理的で、思いやりの美学なんだよね。

そのように相手を思いやる気持ちが、ゲームニクスの核にある。

それからもうひとつ、俳句が文字数の制限で成り立っているように、ゲームニクスも、制限のもとでの工夫を考えるアプローチをしているっていう指摘も面白い(ちなみに制限があった方が創造性が高まるという話を、以前「ざつがく・どっと・こむ」でとりあげたね)。

Wiiでは最初に設定作業がそれなりにある。サイトウさんは、その作業さえも、従来のゲームの操作性とはまったく違うWiiの操作性に慣れてもらうために工夫されていると指摘する。

たとえば、最初は複数の選択肢じゃなく「よろしければ次に進みます」といった単一選択肢を決定するところから入る、といった気づかい。「こんなこともあんなこともできる」と見せることじゃなく、あえて選択肢を制限するところに「もてなし」のコツがあったりする。

目からウロコ。そうか、段階的な学習って、こういうことなんだ。

きっとこうした指摘は、サイトウさんがゲーム・デザイナーとしての現場目線を失わなかったからこそできたのだろうね。

現場目線とは、ものづくりの現場のことじゃない。消費者が製品を利用する現場のことだ。すなわち、人とモノの接点、インタフェース。

茶の湯の文化は、主人と客の接点のデザインだ。

任天堂は、メーカーじゃなく娯楽産業と自らを割り切っているからこそ、強い。

娯楽っていうのは、ユーザーとの接点、もてなしの場を作ることだから。

もてなしの場、お客様との接点への想像力。それを失いがちな現代のビジネス社会に、届いてほしいメッセージだと思った。

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