条例の公布日と改正に改正を重ねるテクニック

 6月議会に提案されている議案たち。条例の交付や条例改正のテクニック、議案の発生源といった話とあわせてご紹介します。

 事務的細部に入るので、小ネタとしておもしろいかもしれませんが、読むのはややこしいです。すみません。

条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例の一部を改正

 いたずらな小見出しですが、由来は後ほど。

議案56号 丹波市福祉医療費助成条例等の一部を改正する条例

 福祉医療費助成は県との共同事業として行っている助成制度です。
 今回提案された改正は、県の福祉医療費助成事業実施要綱が改正されたのに伴い、「丹波市福祉医療費助成条例」を改正するものです。

 助成対象に「訪問看護療養費」を加えたり(参考:兵庫県「令和3年7月1日より訪問看護療養費を助成対象にします」)、寡婦(夫)控除のみなし適用を削除(令和2年度税制改正で未婚のひとり親を対象とした控除が創設されたため)したりしています。

 ここで条例改正の仕方の参考になるかとも思いますので、小見出しと関連する話をさせていただきます。

 今回の議案名に、丹波市福祉医療費助成条例「等」とありますね。この「等」に含まれるのは次の条例です。

  • 丹波市福祉医療費助成条例及び丹波市福祉医療費助成条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例(平成29年3月13日、改正平成29年6月26日)

 つまり「等」で行うのは、もとの条例ではなく、もとの条例を改正する条例の改正により、もとの条例に効果を及ぼすという手法なのです。
 この手法、条例改正の主旨が同様で期間を延ばすだけ等の事情の場合、時々使われます。

 今回、対象となっている一部改正条例自体、一部改正条例を改正している。つまり改正条例を3つ重ねて、本条例に至る構造ですね。さすがにここまでは珍しい。

 「等」のところを取り出して記述するとすれば「丹波市福祉医療費助成条例及び丹波市福祉医療費助成条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例の一部改正」が今回行われるという、ややこしい話になります。

 そういえば4年前の6月議会でも、まさにこの条例を対象に「丹波市福祉医療費助成条例及び丹波市福祉医療費助成条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例の制定について」という長い議案がありました。ぼくが見た中で最長の議案名だったかもしれません。

条例はいつ公布される?

 もうひとつ、改正にあたってテクニカルなことをされています。

 今回の条例の第2条及び第3条が、前述した「丹波市福祉医療費助成条例及び丹波市福祉医療費助成条例の一部を改正する条例の一部を改正する条例」の一部を改正するものです。その内容を引用しましょう。

【改正条例第2条より】
附則第3項第1号中「平成34年6月30日」を「令和4年6月30日」に改め、同項第2号中「規定する合計所得金額」の右に、「(所得税法第35条第2項に規定する公的年金等の支給を受けるものについては、当該合計所得金額から同項第1号に掲げる金額を控除して得た額)」を加える。
【同第3条より】
附則第3項第2号中「規定する合計所得金額(」の右に「所得税法第28条1項に規定する給与所得を有する者については、当該給与所得は、同条第2項の規定により計算した金額(中略)から10万円を控除して得た額(中略)によるものとし、」を加える。

 テクニカルというのは、2条も3条も同じ箇所を対象にしているのですね。じゃあ一気にすればいいじゃん、と思うわけですが。
 なんでこんなことするのだろうと条例案を読み返すと、なるほど、公布日を分けるためです。第2条は「公布の日から」、第3条は7月1日から施行となっています。

 ここで「公布」ですが、「丹波市公告式条例」では、丹波市役所前掲示場に掲示することで公布したこととするとしています。
 市長は、議長から送付(つまり議会で可決)された日から20日以内に公布しなくてはなりません。

 第3条で行う改正の施行日を7月1日と明記しているのは、県の要綱の施行日と合わせるためですね。

 一方で公布の日からとしている第2条で行う改正は審議参考資料の説明によると、字句修正を目的としたもの。
 今回の場合、採決が6月25日の予定ですから、可決されれば即日公布ということになろうかと思います。字句修正は早くに済ませておこうと。

 字句修正。第2条での修正2カ所のうち、「平成34年6月30日」を「令和4年6月30日」にあらためるのは分かるのですが、次の変更も「字句修正」の範囲内なのですね。

(旧)規定する合計所得金額(地方税法第292条第1項第13号に規定する合計所得金額をいい、その額が0を下回る場合には、0とする)
(新)規定する合計所得金額(地方税法第292条第1項第13号に規定する合計所得金額(所得税法第35条第2項に規定する公的年金等の支給を受ける者については、当該合計所得金額から同項第1号に掲げる金額を控除して得た額)をいい、その額が0を下回る場合には、0とする)

 実質的には、字句「合計所得金額」に対して赤字にしている補足説明をカッコ書きで加えただけなので、意味は同じという解釈で良いのでしょう。

 ここまでが公布の日に行われ、7月1日になると、上記の「(新)」の内容にさらに次の赤字部分が追加されるというわけです。

規定する合計所得金額(所得税法第28条1項に規定する給与所得を有する者については、当該給与所得は、同条第2項の規定により計算した金額(中略)から10万円を控除して得た額(中略)によるものとし、地方税法第292条第1項第13号に規定する合計所得金額(所得税法第35条第2項に規定する公的年金等の支給を受ける者については、当該合計所得金額から同項第1号に掲げる金額を控除して得た額)をいい、その額が0を下回る場合には、0とする)

国や県の動向にキャッチアップ!

 上で紹介した改正条例は、県の要綱改正を受けたものでした。

 このように、市議会に提案される議案の多くは、国や県が法律や制度を改めたことに伴う、丹波市の条例改正です。

 経験がないので推測するほかないのですが、国や県からはきっと多くの通知が来ることでしょう。それらに目を通し、関連する市の条例を調べ、改正議案をあげる。根気のいるたいへんな仕事だなぁと、いつも思います。

 と書いていたら、本会議2日目に追加議案を提案するとのこと。

議案63号 丹波市手数料条例の一部を改正する条例

 個人番号カードの再交付手数料を手数料一覧から削除するものです。発生源となる国の法律「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(内閣府による「概要」参照)」が令和3年5月19日に公布され、いわゆるマイナンバー法(内閣府ホームページ参照)が改正されたことに伴う対応です。

 国の法律は5月19日公布ですから、情報はもっと早くに入っていたはずで、当初提案に含められた可能性もあります。議会運営委員会での説明によると、「察知するのが遅れた」結果、追加での提案になったということ。
 やはり国や県の動きにキャッチアップするのは大変なことなのだなぁと、あらためて感じた次第。

 念のため申し添えておくと、再交付手数料を削除すると言っても無料になるのではなく、発行主体が「地方公共団体情報システム機構」と明確化され、手数料の徴収が丹波市ではなく同機構になるという話です。

進む脱ハンコなど

 議案紹介を続けます。

議案53号 丹波市固定資産評価審査委員会条例の一部改正
議案54号 丹波市職員の服務の宣誓に関する条例の一部改正

 それぞれの条例内にある「押印」表記を削除します。
 総務省「書面提出や押印等の制度・慣行の見直し関連」にあるように各種通知が自治体に発せられていますが、これに基づいて丹波市でも見直しを進め、脱ハンコに取り組んでいます。

 単純にハンコをやめて署名を残すというのでは意味ないですよね。ハンディキャップを考えるとむしろマイナス。

 メール送付でも意思表示としては有効なので、そこまで考えての改正かどうか。確認しておきます。

議案60号丹波市道の構造の技術的基準等を定める条例の一部を改正する条例

 丹波市道の構造の技術的基準等を定める条例で引用している省令の名称が変わったので変更するもの。

 今年に入って国交省から省令があり、「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準を定める省令」が「移動等円滑化のために必要な道路の構造及び旅客特定車両停留施設を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令」に改称されました。

 なお省令の内容そのものは、平成18年に制定されたバリアフリー新法の流れにあるもので、高齢者等に配慮した道路や旅客施設の基準を定めるものです。

 こういう、名称変更や法律改正に伴う条ずれに伴う改正っていうのも、しばしばあります。

議案55号 丹波市税条例の一部改正

 令和3年度の税制改正(詳細は総務省「税制改正(地方税)」参照)を反映するものです。国では地方税法等の一部を改正する法律が交付され、それを受けて丹波市税条例も改正。

 改正点は2点あるのですが、1点目は「特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除」の期限を令和9年度まで延長するものです。
 これは厚生労働省が進めている「セルフメディケーション税制」から派生したものですね。スイッチOTC(Over The Counterの略で薬局のカウンター越しに買えるっていう意味なんですね)への切り替えを進めるため、その購入代を所得控除する。

 このあたり、医療費削減という国の大きな方向性が、身近な制度にどのように反映されていくかを垣間見せてくれると思いませんか?

 もう1点は、控除対象となる扶養親族から30歳以上70歳未満の国外居住親族を原則的に除くことに対応する改正です。
 こちらは令和2年度の所得税法の改正を受けたものですね、きっと。

 きっとという表現をしてしまったのは、提案時の説明では、発生源(改正の根拠)として令和3年度税制改正としか説明されなかったから。確認しようとしてもそれだけでは改正の必要性が後付けられなくって。さらに調べて所得税法に至った次第。

 議会への提案にあたっては、その「発生源」を示すよう議会基本条例にも書かれています。分かりやすいように努力してもらいたいですね。

 ともあれ。

 内容としては、均等割を課さない世帯の定義内の文中に「扶養親族」とだけあったのを、「控除対象扶養親族に限る」と注意書きを加えることで、上位法(所得税法)における定義を反映させるということです。

 所得税法改正については「財務省の説明資料」にあります。より分かりやすい説明として、「国外居住親族の扶養控除で対象親族の年齢要件を見直し」がありました。

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