議会だより革命

 神戸新聞社の特集「ギカイズム」第2期の冒頭で、丹波市議会を取り上げていただきました。議会改革度ランキングで、丹波市議会は上位100位以内をキープ。議会改革の先進議会として紹介されたのです。

 その中で、丹波市議会の広報誌「たんばりんぐ」を大きく取り上げていただきました。全国的にもトップクラスの評価をいただいている議会報として。

 先の12月まで2年間、議会報編集委員会の委員長を務めさせていただきました。
 この機会に委員長時代に取り組んだ議会だより改革についてご紹介し、何かの参考にしていただければと思い、ここにまとめます。
 実際の誌面は丹波市議会のホームページからダウンロードできますので、どうぞそちらも参照しつつお読みください。

 なお、ここで紹介している内容は、他の議会からいらした視察の方々に説明していた内容をもとにしています。
 視察に来られた方々にお渡ししていた資料のタイトルが『議会だより革命☆』だったのです。

丹波市議会だよりの3大特徴

 まず議会だよりを編集するときに注意していた3つのポイントを紹介します。

【1】迷ったらペルソナに立ち返る
 丹波市議会の議会だよりのターゲットは「30代~40代の子育て世代の女性」です。今後議会に関心を持っていただきたい層を想定して設定しました。

 ターゲット絞ることのメリットは、判断基準が明確になることです。記事の内容などに迷ったとき、「子育て中の女性にとってどうか?」と問いかけるわけです。
 このおかげで編集方針が明確になり、読みやすい議会報につながっているのかなと思います。

 ちなみにぼくはこの問いかけの時、PTA時代に一緒に役員していたお母さんを思い浮かべていました。「〇〇さんならどうかな」と。

 マーケティング用語に「ペルソナ」というのがあります。「読んでいただく対象となる人の具体的人間像」とでもいった意味合いです。
 単にターゲットを絞るだけではなく、では何人お子様がいて、何歳で、どんな仕事をしていて、どんな雑誌を読んでいるかとイメージを具体化します。そうして具体化した「個人」に対して広報するのです。

 ある意味でこの「ペルソナ・マーケティング」をもとに、議会報を編集していたと言えるかもしれません。

【2】「参加を促す」ことを目指す

 丹波市議会の議会だよりのゴールは、「読んでもらう」ことではなく「参加してもらう」ことでした。
 傍聴に来てもらうことでも、議員に声をかけていただくことでもいい、議会に関わりをもってもらうきっかけになればと考えていました。

 そのための一歩は、議会で起こっているできごとを「自分ごと」と感じてもらうことですよね。そのためにはどうすれば良いか。
 いつもそれを問いつつ編集をしていました。

【3】「伝えたい」を「知りたい」に

 あたりまえのようで難しいのが「読者目線」です。自分が読者ならどうか、と絶えず問いかけつつ、見直しを加えていました。

 何も考えないでいると、つい「伝えたいこと」を記事にしがちです。しかし重要なのは「伝わる」ことですよね。
 そして、伝わるためには、まず手に取って、読み始めてもらわないといけない。そのためには「知りたい」「読みたい」と思っていただかなくてはならない。

 これが大前提です。

 もっとも、だからといって「知りたいこと」から入ってしまうとどうでしょう。市民として知っておいてほしいことが抜け落ちてしまう。これはこれで問題です。

 だから議会だよりを作るにあたっては、「伝えたいこと」を「知りたいこと」に変えていく工夫が必要です。
 議会として知っておいてほしいことを、どのように料理して興味関心を持ち積極的に知りたいと感じていただくようにしていくか。

 この工夫の連続でした。

議会だより改革のあゆみ

 それでは、具体的にどのような工夫を加えていったか。各号ごとにご紹介します。

■48号
2017年2月発行。議員になって初めて携わった誌面です。

  • グラビア的な写真:見開きを新しく選出された議員が並ぶ迫力ある写真で構成しました。
  • 議員紹介の工夫:議員紹介の欄で、趣味や抱負に加えて 「子どもの頃の夢」 の項目を入れました。一人の人間としての議員の姿を浮かび上がらせる紹介をしたいと考えてのものです。
  • TMG20のロゴ:どこかのアイドルのもじりです。さすがに「会いに行けるギイン」のキャッチフレーズはボツになりましたが、ロゴは残りました。
  • 特集「ドキュメント初議会」:「何が」だけではなく「どうやって」も伝えたいと、カレンダー形式で議会の流れを表しました。このときつけた「議会では『事件』が起こっている!?」というサブタイトルは某講師の先生から「前代未聞」と好評をいただきました。実際、議会では議題となっている対象を「事件」と呼ぶのです。
  • 「なるほど」マーク:吹き出し形式の「なるほど」マークを導入しました。
  • 傍聴者の声を掲載:議会に傍聴に来ていただいた方の声を写真入りで紹介して「自分も行ける」と思っていただきやすい工夫をしました。

■49号
2017年4月発行。予算特集号。

  • ギロンの論点を開始:議会への関心は「議員の魅力」と「論戦」から、という何かで読んだヒントから、単なる議案紹介ではなく「論戦」を紹介したいと始めました。
  • 関心分野でくくる:予算項目の中から「子育て」「女性の応援」など市民の関心目線でくくりなおし、紹介しました。この作業のため、編集会議スタイルも変革しました。編集委員各自からまずとりあげるべき項目を聞き、それをKJ法でまとめていくという会議形式です。これがきっかけで(だと思うのですが)、市議会の会議室の黒板が現在ではホワイトボードになっています。
  • QRコードの表示:ホームページへの誘導のため、QRコードの表示を始めました。
  • 読者欄の改善:それまで個人からの意見を文字だけで掲載していた裏表紙の読者欄を、グループ活動をしている現地に議員が赴いて写真撮影し声を拾ってくる形式に改めました。議会から出かけていく、より多くの市民の中に入っていくという方針です。

■50号
2017年7月発行。50号の記念誌。

  • 特集「議会でやってほしい50のこと」:多くの市民に登場いただくという方針から50人に取材、50の意見を聞いてくるというチャレンジをしました。編集委員のみなさんは大変だったと思います。
  • 「議会進化論」コーナー開始:編集長が好きなこと書いてということだったのですが、議会改革特別委員会がスタートしたところだったので、その動きを報告していくことにしました。
  • 中学生の声:トライやるウィークに来てくれていた中学生に登場いただきました。

■51号
2017年10月発行。この号から「マチイロ」というスマホアプリでの配信を始めました。

  • 「その後」の追跡調査:議会において市政に対して提案・提言したことがその後どうなっているか、追跡調査して掲載しました。議会を通した意見が市政に反映されることを市民の方にも実感していただきたいと考えてのことです。

■52号
2018年1月発行。高校生の「読者モニター」会議を行い、その結果を掲載しました。

  • つぶやき川柳コーナー:モニター会議での高校生からの提案を採用し、川柳のコーナーを新設しました。
  • 議員写真を大きく:一般質問の写真を実際の質問時に撮影し、掲載サイズも大きくしました。臨場感を重視してのことです。
  • 傍聴手順を図解:議会傍聴に来られた時の手順を写真とともに疑似体験してもらえる記事を作成しました。

■53号
2018年4月発行。予算特集号です。

  • 表紙にページ繰りの工夫:表紙の片隅に「オープン」と頁をめくるデザインを入れました。
  • 表紙をチラシ的に:市民との意見交換会の告知を表紙でするというチラシ的利用の表紙にしてみました。表紙を中身に対するカバーではなく告知スペースとして活用するというのは、編集委員会の中で出てきた一種の「発見」でした。

■54号
2018年7月発行。6月議会を受けての発行ですが、6月議会は比較的議案が少ないため、議会報としては工夫をできる回です。そこで、ずっとやりたかった「議会の手引き」特集をしました。

  • 特集「議会のトリセツ」:請願や要望書、意見交換会や傍聴。実際に市民の方が議会と関わりたい時にどんな方法があるか、ひとつひとつ解説しました。「手引き」的に使っていただける永久保存版と考えて特集を組みました。

■55号
2018年10月発行。高校生らとのコラボ企画の特集号です。編集委員長として携わった最後の号ということになります。

  • 表紙に写真を採用:初めて表紙に写真を用いました。高校生たちの笑顔をコラージュしたものです。モニター会議でよく「表紙に写真を」と言われるので、試してみました。
  • 次のページへ:本文片隅にページめくりのデザインを入れてみました。せかっくなのでと議長にページをめくるポーズをしてもらい、その写真を合成して議長がページをめくっている風にしました。
  • 川柳を読者からも募集:採用者にはオリジナルボールペンをプレゼントという形で川柳コーナーに読者からの投稿募集を始めました。プレゼント付きの募集というのも高校生の読者モニターから出た意見でした。

 ぼくが編集委員長として携わった議会だよりはここまでです。こうして書いてみると、当時はそうと意識していませんでしたが、毎号、なんらかのチャレンジをしていったのですね。

 議会だよりの発行責任者は議長です。編集委員長時代、議長からは「自由に工夫してほしい」とだけ言われ、本当にさまざまなアイデアに取り組ませていただきました。多くの挑戦ができたのは、議長の度量があってこそでした。
 また、議会だよりのデザイン作業は事務局の内製です。「30代~40代の子育て中の主婦」代表として作業に携わっていただいた事務局員さんの力も大きかったことも申し添えておきます。

広報広聴事業についての調査も実施

 丹波市議会の議会だよりは全国的に知られていて、全国各地から視察にいらっしゃいます。ぼくも年間10件近く対応したでしょうか。
 その背景には、高校生とのコラボ企画など、丹波市議会そのものが改革に熱心ということがあってのことです。

 議会報編集委員長を務めている間に、議会運営委員会より「丹波市議会における広報広聴事業のあり方に関する調査」の諮問を受け、調査研究も行いました。

 その結果は2018年3月に報告しました。

 全国の市議会では、広報だけでなく広聴機能も委員会に持たせ、議会報告会の企画なども役目としているところが少なくありません。
 そうした問題意識から、広聴機能の付加は最重要課題と考えてきました。

 その後、議会運営委員会等で検討を重ね、それまで協議の場という位置づけだった「議会報編集委員会」は「広報広聴委員会」として特別委員会となり、1人増強した上で、常任委員会等の副委員長などが委員となる形に改編されました。

 組織改編に伴い、広報広聴の委員としての役目は終わりましたが、今後、議会改革とともに、ますます丹波市議会の広報広聴が進化していくよう、引き続き努力していきたいと思います。

「議会だより革命」への1件のフィードバック

  1. 神戸新聞の記事を見て、やはり丹波市議会は注目されていたんだなと私も思いました。広報誌の改革についての小橋さんの提言は正鵠を射て、ことに「ペルソナマーケティング」論は、市民活動の視点にも応用できるものですね。昨日(26日)元文部科学省事務次官・前川喜平さんの講演会が丹波の森公苑大ホールでありましたが、参加者の多くの方がやはり高齢者でした。前川さんのお話は、これから次の世紀に向かって生きていく若い世代の人たちにこそ聞いて欲しい内容だっただけに、残念でなりませんでした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください